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【3か月ぶりの実力テスト】練習試合 鹿島アントラーズ-FC町田ゼルビア レビュー

戦前

長かった中断期間を経て、J1再開を2週間後、J2再開・J3開幕を1週間後に控えたぼくらのJリーグ。各チーム徐々に活動を再開させて、今は初戦に向けて準備を進めている状況だ。

そんな中で、鹿島アントラーズは13日にアルビレックス新潟と練習試合を実施。さらに、中3日でユースとも練習試合を行い、そこから中2日で今回の練習試合に臨む形となっている。

その鹿島と対戦するのはFC町田ゼルビア。昨季J2で18位に終わり、今季はランコ・ポポヴィッチ監督が9年ぶりに復帰。鹿島と同じく13日に浦和レッズと練習試合を行い、2-1で勝利。そこから中3日で川崎フロンターレとも練習試合をこなし、中2日で鹿島との対戦という、J1勢との連戦スケジュールになっている。

なお、町田には元鹿島の平戸太貴や中島裕希が所属しており、小田逸稀も期限付き移籍で所属している。鹿島にも町田の前監督である相馬直樹コーチがいるため、縁がある両者の対戦となった。

結果

45分×4本

1本目
鹿島アントラーズ 0-0 FC町田ゼルビア
2本目
鹿島アントラーズ 0-0 FC町田ゼルビア
3本目
鹿島アントラーズ 1-0 FC町田ゼルビア
4本目
鹿島アントラーズ 0-0 FC町田ゼルビア

(得点)
106分 <鹿島>オウンゴール

スタメン

1本目スタート

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鹿島は3月の練習試合北海道コンサドーレ札幌戦から、メンバーを3人入れ替え。ケガから復帰したレオ・シルバがボランチ、内田篤人が右サイドバックに入り、また名古新太郎が右サイドハーフに起用された。

一方の町田は13日の練習試合浦和戦のスタートと同じメンバーで臨んできた。

数的優位を活かせない鹿島

中断前、鹿島が一番の課題としていたのはビルドアップ、組み立ての部分だった。数的優位を作り出せない、作ってもボールを前に運ぶことが出来ない、ということで一番の目的であるプレッシングを効率よく発揮するために、陣形を整えながら相手陣内へと押し込んでいくことが出来ずにいた。

この町田戦でも、鹿島は立ち上がりからボールを保持しようとする姿勢を見せる。最終ラインでボールを持つと、ボランチの選手が1人降りてきて、町田の2トップに対して数的優位を形成。序盤は町田が深追いすることを避けたため、鹿島は数的優位を作ることには成功していた。

ただ、後ろの3人は余裕があるにも関わらず、あまりにも簡単にボールを前の味方に預けてしまっていた。鹿島の前線の選手は求められた立ち位置に立つことは出来ていたものの、そこには町田の選手も対応している。その町田の選手を動かすこともなくボールを渡してしまったため、鹿島のパスの受け手は次のプレーに移ることが困難になってしまい、ボールを失ってしまうことが増えていった。

さらに、鹿島の組み立てを担う選手は縦をやたら意識していたようで、自分にプレッシャーが掛かることがなくても躊躇なくサイドにロングボールを蹴っ飛ばす選択をすることが少なくなかった。ロングボールは通ればチャンスになるし、局面を打開することが出来るが、通らなければボールを簡単に相手に渡してしまうことになる。

この日の鹿島のロングボールがほとんどが後者となっていた。余裕がない中でボールが回ってくる、ロングボール蹴るのも躊躇がないということで、鹿島の選手たちは段々サイドに開いていく。ただ、サイドに開くのは右サイドはサイドハーフの名古、左サイドはサイドバックの永戸勝也と決まっていたようだが、2人とも空中戦に滅法強い訳でも、爆発的な突破力がある訳でもない。名古は何度か突破することもあったが、鹿島のサイドへのロングボールがほとんど受け手にとって余裕のない状態で送られていたため、そのロングボールで局面を打開するシーンはほとんど見られなかった。

また、3対2の数的優位を突破した先には、ファン・アラーノが受け手で降りて来ていたのだが、アラーノがボールを呼び込む訳でもなく、鹿島の選手たちもアラーノを使う訳でもないので、アラーノはただただ相手のボランチの前に漂うだけ、という展開が前半は特に多かった。2トップの一角のアラーノが降りるということは、必然的にゴール前の人数が1人減ることになる。そのため、鹿島がせっかくサイドを独力で突破しても、ゴール前にいるのはエヴェラウド1人だけで、あっさりと跳ね返されるシーンが目立っていた。

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町田の攻め筋

このようにビルドアップで後ろが貯金を食いつぶすことで、徐々に縦にも横にも間延びしていく鹿島。間延びしていくということは必然的に選手個々の距離感が広がっていくということになる。そうなると、ボールを失った時に人数を掛けて奪い返すためには広がった距離感を埋める分だけのタイムラグが生まれてしまう。こうして、ビルドアップが機能しないことで、鹿島は本来の目的であるプレッシングの機能性も低下してしまっていた。

鹿島のプレスが機能しないことで、自分たちもボールを保持できることに気づき始める町田。序盤は前線の安藤瑞季に素早く預けて打開を試みるが、鹿島の守備陣に封じられており単発に終わっていたものの、徐々に降りてきた平戸を使ったパス交換からのカウンターを狙うようになる。

ボールを保持しだした町田はビルドアップの形を変えていくことで、そのボール保持を確かなものにしていく。最初は陣形を動かさなかったため、町田のセンターバックと鹿島の2トップが噛み合う形となっていたが、ボランチの佐野海舟が左サイドに降りてくることで数的優位を形成。町田はこの佐野を中心としながら、左サイドに人数を掛け局面を打開しようと試みていく。

町田が左サイドにボールを集めた理由、それは右サイドの吉尾海夏を活かすためだ。左サイドを中心にボールを回し、人数も掛けることで、必然的に鹿島の守備もそれに寄せられていく。ある程度寄せられた段階で逆サイドで待っている吉尾に回せば、吉尾は永戸との1対1に持ち込むことが出来る。内田篤人のところより永戸の方が崩しやすいと考え、そこの1対1から左利きの吉尾が仕掛けてカットインしてシュートまでいければ、決定機に繋げられると判断した町田の攻撃は、実際鹿島の脅威になりつつあった。

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引き付けてから出せた犬飼智也と小泉慶

1本目をスコアレスで折り返し、メンバーがそのままで始まった2本目。鹿島は徐々に中央のアラーノを使うようになり、また名古や内田が個の力で目の前の相手を剥がすことでチャンスを作り出してはいたが、それも単発に終わっており、主導権を握っているとは言い難い状況だった。

64分~

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流れが徐々に変わりだしたのは61分に小泉慶、64分に広瀬陸斗、犬飼智也、土居聖真が投入され始めた後からだ。ここから鹿島のビルドアップは余裕を持った状態でボールを前進させていく、という本来の目的を果たしていくことになる。

これまでと違いを見せたのは犬飼智也と小泉慶だ。2人がこれまでと違ったのは、簡単にパスを出さない、自分にプレッシャーが掛かっていなければドリブルで前に運んでいく、ということだ。それまでの鹿島のビルドアップは相手の守備陣形が整っていた状態かつ自分に余裕があるにも関わらず、簡単にボールを自ら手放してしまうことで、余裕のない受け手にパスが渡る形になってしまっていた。そこを2人は、相手が自分にプレッシャーを掛けてくるまではボールを離さず、相手を動かした後にパスを出すことで、相手の守備陣形にズレを生じさせ、パスの受け手が余裕を持った状態でパスが渡るようにしたのだった。

ようやく後ろの貯金を前に残した状態でボールを渡すことが出来るようになった鹿島。ここから徐々に練習で取り組んできたであろう、ゴール前に迫る形が見えるようになってくる。2列目がハーフスペースに位置取り、大外のレーンをサイドバックがカバーすることで、最後尾のセンターバックを起点にひし形の形が作られる。ショートパスの選択肢を常に3つ相手に突き出し続けることで、ボールを前進させていくこのポジショナルプレーのお手本とも言える形が、選手交代後の鹿島には生まれるようになっていた。

この形に2トップが町田のサイドバックの裏に走り込んでボールを呼び込むことで、鹿島はチャンスを作り出していく。80分の山本脩斗のボレーシュートは右サイドに流れて走り込んだ上田綺世が起点となったところから、シュートまで結び付けている。ただ、このシュートも含めて町田ゴールを破ることは出来ず、2本目までの90分を終わってもスコアは0-0のままだった。

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疑似カウンターからのゴール

3本目開始時

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1本目のスタートから出場していたメンバーから、両チーム全員が入れ替わった形になった3本目。この3本目は鹿島が多くの時間帯で主導権を握るようになった。

鹿島が主導権を握れるようになった一番の要因は町田のメンバーチェンジだろう。町田は前線の選手を総入れ替えしてから、明らかにプレスの連動性が落ちたし、ボールを奪われた後の切り替えも遅くなっていた。

こうなると、鹿島は2本目までに加えて格段にボールを運びやすくなる。一つ剥がせれば、アタッカーたちが相手の最終ラインとスピードに乗った状態でそのまま勝負できるという、カウンターのような形がビルドアップからでも作り出せていた。

この試合唯一の得点もその形だった。町田からボールを奪うと、町田のプレッシングをあっさりとかわして鹿島は荒木遼太郎にボールを繋ぎ、最後は荒木からボールを受けた土居のクロスを相手がオウンゴールという形だ。

もったいなかったのはこれ以外にも3本目は決定機が幾度もあったのだが、決められなかった点だ。特にキープ力などで成長を見せた上田綺世が迎えた染野唯月のシュートのこぼれ球を詰めたシーンは、調子を上向きにさせるきっかけになるやもしれぬシュートだっただけに決めておきたかったところである。

ただ、荒木の狭いスペースを打開する力は相変わらずだったし、ケガから復帰した土居もらしさを見せ、染野も持ち前の万能さで決定機にも絡むなど、アタッカー陣が各々の持ち味を見せたことは、今後の連戦を考えてもプラスになるだろう。

町田の微調整と鹿島の属人性

ただ、町田も殴られっぱなしで終わるチームではなかった。プレスが掛からず、即時奪回を狙っても鹿島に剥がされる展開を受けて、一度守備ブロックを敷くことで建て直してきた。また、ボランチの井上裕大や森村昂太が最終ラインに降りて数的優位を形成することで、鹿島のプレスをいなして徐々にボールを持つ時間を増やしてきたところで3本目を折り返した。

4本目開始時

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ペースを取り戻した町田は4本目に入ると徐々に鹿島陣内に攻め入るようになったが、鹿島も流れは渡さまいとボールを保持して、ビルドアップを機能させようとするせめぎ合いの時間帯になっていった。

4本目、鹿島のビルドアップが機能していたのは左サイドだ。入った直後は慣れないセンターバックでのプレーに悪戦苦闘している感のあった杉岡大暉が積極的に縦パスを入れるようになり、またボランチに入った白崎凌兵がポジションを動かしてボールを引き出すことで、鹿島はボールを運ぶことが出来ていた。

しかし、土居がユースの舩橋佑と代わり、白崎が2列目に入るとビルドアップの機能性は影を潜めてしまう。4本目から入った奈良竜樹はパス精度こそ高かったものの、1本目のセンターバック陣と同じく自分へのプレッシャーがない状態でも簡単にボールを味方に預けてしまったため、受け手の貯金を作り出すことが出来なかったのがもったいなかった。

また、両サイドバックも持ち味を活かした場面は、相手がバテてきた終盤になってからだった。右サイドの伊東幸敏は前の松村優太が大外に位置取るため、自分が駆け上がるスペースを作り出すことが出来ず、左サイドの佐々木翔悟はボールを呼び込むことが出来ず、自慢のキック精度の高さを活かすことが出来なかった。

それでも、迎えたピンチは曽ヶ端準の好セーブで防ぐと、途中からボランチに入った舩橋と柳町魁耀がプロのスピードに苦戦しながらも、持ち味を出しチャンスも演出。これで迎えたチャンスを決められなかったのが(特に舩橋のパスを受けた伊藤翔)もったいなかったが、リードを保ったまま結局試合終了。4本合計で1-0と、鹿島アントラーズの勝利という形になった。

まとめ

前回の札幌戦から活動休止期間があったものの3ヶ月が経過しており、チームの進捗状況を確かめる良い機会になるはずだったが、残念ながらまだまだ完成には程遠く、道半ばどころか遥か先というのが正直なところだ。

特に前回も課題に挙がったビルドアップの部分で、(何人か理解してるっぽい選手もいたが)選手の理解度が上がっているとは言えないのが気になるところである。形は出来てきたが、その形はどういった目的で作られているのかという所を各々が理解できなければ、ザーゴ監督のゲームモデルは絵に描いた餅となってしまう。

現状、編成をいじることがほとんど不可能な今、解決策は今いる選手たちが戦術理解度を上げていくほかはない。リーグ再開まであと2週間。コーチ陣のアプローチのやり方の変更も視野に入れた上で、もう一度突き詰めていく必要があるはずだ。

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