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【人が問題なのではない】明治安田生命J1 第32節 鹿島アントラーズ-川崎フロンターレ レビュー

戦前

鹿島アントラーズ

・現在7位

・前節はガンバ大阪に3-1で勝って、公式戦連敗ストップ

・前節から中3日で迎えるホーム連戦

川崎フロンターレ

・現在首位

・前節は徳島ヴォルティスに3-1で勝利

・前節から中3日で迎える

・ACLの韓国遠征から帰国後、バブル期間中のアウェイ連戦

スタメン

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鹿島は前節と同じスタメン

川崎Fは前節から4人変更

・センターバックに谷口彰悟が復帰

・ボランチにジョアン・シミッチ、2列目に家長昭博、前線にレアンドロ・ダミアンが入る

川崎のシステム変更の狙い

今節、試合が始まってまず注目したのが川崎Fの布陣がいつもと異なっていたこと。川崎Fは昨季から4-1-2-3のシステムを採用していたが、今節は2ボランチの4-2-3-1を採用していた。

システム変更にはいくつかの理由があると思われる。まずは連戦による疲労の考慮。川崎Fは普段、高い位置からプレッシャーを掛け、ボールを奪われたら即時奪回に動く強度の高いサッカーをしている。ただ、ACLなどを挟んだアウェイ連戦や、その強度の高さで大きく貢献していた田中碧の海外移籍もあって、それを続けるには難しくなっている状況であった。

次に、マルシーニョの存在が考えられる。今夏加入したマルシーニョは今節が加入後2試合目。三笘薫の穴を埋めることが期待されているが、まだフィットには至っていないのが実情。そんなマルシーニョをスタメンに入れる中では、守備強度の高さを期待にするには厳しい部分があると判断したのか、マルシーニョをあえて攻め残らせて、その分2ボランチで守備の安定性を担保したかったと考えられる。

またアンカーにシミッチを置いた1ボランチでは、荒木遼太郎に前回対戦のようにその脇のスペースを使われる可能性がある。ならばそのスペースを初めから埋めてしまおう!ということで2ボランチ採用に至ったのかもしれない。

盛り返す川崎

川崎Fが重心をいつもより後ろに置いて試合に入ったことで、キックオフ直後は鹿島がボールを持って攻め込む展開となる。ディエゴ・ピトゥカが相手ボランチの前でフリーでボールを持ち、そこからボランチの脇のスペースに入り込んできた2列目の選手に縦パスを入れ前を向いて仕掛られる状況を作り出す中央からの崩しと、左サイドに展開して安西幸輝の突破力を活かすサイドからの崩しの二面性で、鹿島は相手ゴールに迫っていった。鹿島からしてみれば、この時間帯でゴールが奪えれば文句なし!だったのだが。

それでも、徐々に落ち着いてきた川崎Fが盛り返す展開になっていく。川崎Fが前線からのプレス強度を強めていくと、鹿島は数的優位でもロングボールに逃げることを余儀なくされてしまう。そのロングボールを回収して、自分たちのボール保持の時間を増やしていく川崎F。鹿島も前線からのプレスで高い位置でのボール奪取を狙うが、最終ラインの4枚とボランチを含めた6枚で組み立てる川崎Fに剥がされ、ボールを前進させられてしまう。

ただ、川崎Fはそこまで丁寧に繋ぐことにこだわっている印象はなかった。川崎Fが狙っていたのはサイドのアイソレーションと旗手怜央を中心とした中央でフリックを使った崩し。右サイドは山根視来が高い位置を取ってプレッシャーを剥がしてフリーならそこにすばやく展開していたし、左サイドはダミアンをターゲットにしたロングボールを供給して、その落としをマルシーニョが拾って仕掛けることを狙っていた。また、中央からは旗手がスペースでボールを引き出し、ダミアンに当ててそのリターンをスペースに走り込んで受ける。どの形も人に強くいく守備である鹿島の弱点である、人を捕まえられなくなった時に動きが止まってプレッシャーがゆるくなることを狙ってのものだった。

ロングボールで取り戻す鹿島

川崎Fが攻めて、鹿島が耐えるという近年の構図が繰り返されていた前半10分ごろからだったが、飲水タイムを挟んで鹿島がペースを取り戻していく。

鹿島がペースを取り戻したきっかけとなったのは上田綺世へのロングボールだ。どうせロングボールを蹴らされるなら意図したところに蹴っ飛ばそう!ということなのか、飲水タイム後から鹿島は躊躇なくロングボールを上田に向けて蹴っ飛ばしていく。上田がジェジエウや谷口に競り勝ってボールを収めてくれば満点だが、ここでの狙いは現実的にそれよりも川崎Fの矢印を後ろに向けさせること。一度ロングボールの対応で下がらざるを得なくなった川崎Fにプレッシャーを掛けてミスを誘うか無理やりロングボールを蹴らせて、ボールを回収して押し込む展開を作り出すことが鹿島の意図していたことだった。

主導権を引き寄せた鹿島はキックオフ直後のようにボールを持って攻め込んでいく。セカンドボールを拾っていたピトゥカが一発でゴール前で勝負させるようなパスを多く選択していたこともあって、荒木があまり攻撃に関わる機会が少なかったのが気がかりだったが、それでも押し込まれ気味の展開から五分に戻した状態で前半を折り返した。

川崎の配置替えの意図

後半開始時〜

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スコアレスだった前半から、ハーフタイムで川崎Fは変化を見せてきた。右サイドハーフだった家長がトップ下に、トップ下の旗手が右サイドに移ったのだ。

これは安西対策と自分たちがボール保持の時間を増やしたい意味合いからだろう。前半、左サイドからオーバーラップする安西に対して家長は最後尾まで戻って守備をすることを求められ、あまり攻撃面で貢献できなかった。ならば、そうした上下動を苦にしない旗手を右サイドに回して安西にぶつけられれば、守備力を高められるという思惑だろう。

また、家長は旗手よりもフリーマンのように自由に動き回る振る舞いをするし、キープ力もある。そんな家長をトップ下に置いて起点を作ってもらうことで、川崎Fは高い位置でのボール保持を増やして、相手を押し込みたいという狙いがあったはずだ。

待望の先制点

川崎Fの配置替えは確かにある程度の効果があった。オフサイドでゴールは認められなかったが、54分には抜け出したマルシーニョのシュートのこぼれ球を旗手が詰めてネットを揺らしたように、川崎Fの方にもチャンスは訪れていた。

だが、鹿島としてもそこまで押し込まれているという印象はなかった。理由としてはマッチアップする相手が変わっても安西が引き続き相手の脅威であり続けたこと、また川崎Fの前線の守備強度が落ちたことで鹿島がボールを運ぶのにそれほどプレッシャーがかかっていなかったことがある。多少攻め込まれてもボールを奪えれば、鹿島はカウンターで相手陣内に侵入することが出来ていたのだ。

61分、ついに試合が動く。きっかけとなったのは再三高い位置で相手を切り崩していた安西の突破からだ。左サイドからボールを運んだ安西の左足のクロスにファーサイドから飛び込んで合わせたのはファン・アラーノ。叩きつけたヘディングはそのままゴールネットを揺らし、鹿島は待望の先制点を奪う。安西のクロスはもちろん、フリーで飛び込んだアラーノのランニング、また谷口を引き付けてアラーノをフリーにした上田のポジショニングも良かった。

リードを奪った鹿島は追加点を奪おうと攻勢に出る。川崎Fも3枚替えで反撃に出るが、鹿島がやや優勢のペースは変わらず。試合は終盤に突入していった。

カオスな最終盤

だが、連戦の疲労や優勢の中で追加点を奪えなかったことが鹿島に重くのしかかっていく。

そんな中で迎えた83分。川崎Fは左サイドでフリーキックを得ると、途中出場の脇坂泰斗のボールに合わせたのはその直前に投入されていた山村和也。鹿島はセットプレー一発で失点してしまい、試合を振り出しに戻されてしまう。

フリーキック自体は自分のゾーンで競り勝てなかった関川郁万と飛び出したのに触れなかった沖悠哉に責任があるが、ここの本質はそもそもセットプレーを与えるまでのプレーだ。まず広瀬陸斗だが、三竿健斗がフォローに入っていたのに軽い対応で宮城天を引っ掛けてあっさりとファウルを与えてしまったのは軽率だった。また、この宮城に渡るまでのプレーも、カウンターで高い位置を取っていたピトゥカが戻りきれず、セカンドボールを回収しにいった三竿もボールを奪いきれずに、結果として中盤の中央に大きなスペースが生まれてしまっている。1点リードの終盤でそもそもピトゥカがあそこまで攻撃参加をする必要があったのか、攻撃参加するにしてもピトゥカに守備に戻ることを誰も求めていないのか、ピトゥカが守備に戻れないくらい消耗しているのなら交代を考えなかったのか、このあたりは疑問として残る部分である。

追いつかれてからの鹿島は完全にカオスだった。失点直後に永戸勝也、さらにはエヴェラウドとアルトゥール・カイキを投入したが、攻め筋は完全にみえなくなり、ピトゥカの突進一択しか可能性が見えなくなってしまっていき、そこでボールを失っては勢いづく川崎Fにカウンターを食らう展開となってしまった。

そしてアディショナルタイム。川崎Fにロングボールをきっかけに押し込まれると、最後は宮城がペナルティエリアの外から強烈な無回転ミドルを突き刺して、鹿島は逆転を許してしまう。このシーンでもピトゥカはバイタルエリアのスペースを埋めきれておらず、三竿が一人でカバーする形になっている。宮城がシュートを打った位置は本来ならピトゥカがカバーするべきエリアのはずだが、宮城はフリーでシュートを打てている。

結局、試合はこのまま終了。鹿島は痛恨の逆転負けを喫して、またも川崎Fに煮え湯を飲まされる結果となってしまった。

まとめ

終盤の試合運びの拙さがスコアにモロに響いてしまった。攻め込みながらも追加点が奪えず、逆に前がかりになったところで裏を突かれて軽率な対応から失点して、リードをフイにしてしまう。およそ賢いチームの戦い方とは程遠いそれだった。

試合後のコメントで相馬直樹監督はこのように述べている。

--何が逆転負けにつながってしまったのか。
いろんな部分での見極めが僕に足りなかったと思っています。

--選手交代も含めて、ということでしょうか?
“たられば”ですから、こうしていたら良いほうに転がっていたかもしれないですし、それは分からないです。結果として、私にやれることはあったと思っていますし、そこも含めて、というふうに思っています。ただ、悔いはないです。

ここからだと、消耗の激しかったピトゥカを下げなかったことが敗戦に繋がってしまったように取れるし、実際そうした意見は試合後のTLでも少なくなかった。たしかに、そうだろう。ピトゥカや荒木を下げて、レオ・シルバをボランチに入れていれば、少なくともあそこまでバイタルエリアがスカスカになることはなかったかもしれない。

だが、それは結果論であって、問題の本質はそこではないと思う。ピトゥカが自由に振る舞い、試合終盤でもオーバーラップしていくことはこれまでも頻繁に見られたし、実際チームがそれで得点を奪って救われたシーンもある。そうしたことを考えればチームの中で、ピトゥカの振る舞いは容認されたものであって、結果としてリスク度外視で攻め上がることを問題視することはないということである。ピトゥカは自身の中で良かれと思ってそうしたプレーを選択しているわけだし、そうした個人の判断がチームとしての意思よりも尊重される中では、それが適切でなくてもそうしたプレーを誰も責められないし、実際そうしたプレーを咎める者はいない。プレーの原則が個人の判断に依存され、チームとして統一されていない、これが一番問題なのではないだろうか。

おそらく、こうした点をどうにかできなければ今節の敗戦の原因を根本的に解決できたとは言えない。結果論に囚われる前にチームがメスを入れないとはいけないのは、こうした部分のように思える。

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