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契約書のパーツを理解する 7【契約書と契約用語】合意管轄条項編

契約書もまたパーツのあつまり。

そんなわけでとうとう7回目となった「一般条項」の解説ですが、今回は「合意管轄条項」をみてみたいと思います。裁判所を合意しておくものですね。ご存じの方が多いと思います。

有名な合意管轄条項ですが、自信をもってチェックできるように、ポイントを確認しましょう。


管轄を合意するのはなぜか?

なぜこんな条項があるかというと、万が一裁判することになったら、自分の会社に近い裁判所の方が交通費などのコストが安くすむからです。よって、紛争が無い限りはこの条項は役にたちませんが、たとえば遠方の裁判所を合意された相手方がみだりな訴訟を踏みとどまる抑止力になったりはします。

もし契約書にこうした管轄の合意がない場合は、その都度法律で管轄が決まることになります。どこになるのかというと、原則として訴訟は「被告」の住所地を管轄する裁判所の管轄になります。

民事訴訟法第4条1項
(普通裁判籍による管轄)
第四条 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2 人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人が前項の規定により普通裁判籍を有しないときは、その者の普通裁判籍は、最高裁判所規則で定める地にあるものとする。
4 法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
5 外国の社団又は財団の普通裁判籍は、前項の規定にかかわらず、日本における主たる事務所又は営業所により、日本国内に事務所又は営業所がないときは日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
6 国の普通裁判籍は、訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まる。


被告の住所地で裁判するのが原則

民事訴訟法のルールによって、自然人の裁判(普通裁判籍)は、原則として被告の住所地であり(民事訴訟法4条2項)、法人の裁判(普通裁判籍)は、原則として被告となる法人の主たる事務所・営業所の所在地(民事訴訟法4条4項)とされているからです。

ようは、「訴えてやる!」 と言い出した人の近所ではなく、「被告」、訴えられる側の人の近所で裁判しなければならないわけです。これもみだりな訴訟を防ぐための知恵なんですね。

ただ、訴えの内容によって例外(特別の管轄)ルールがあります。

民事訴訟法第5条
(財産権上の訴え等についての管轄)
第五条 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
一 財産権上の訴え
義務履行地
(以下略)

これも民事訴訟法ですが、長い条文なのでピックアップして、いくつか例を挙げます。

①財産権上の訴え→義務履行地(支払をすべき場所)
②手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え→手形又は小切手の支払地
③事務所又は営業所を有するものに対する訴えで,その事務所又は営業所に関する業務に関する訴え→事務所又は営業所の所在地
④不法行為に関する訴え→不法行為があった地
⑤不動産に関する訴え→不動産の所在地
⑥登記又は登録に関する訴え→登記又は登録をすべき地
⑦相続権もしくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え→相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地


特別の管轄もある

ようするに裁判所は「被告」の住所地になるのが原則ですが、たとえば財産上の訴えなんかは例外的に義務履行地の裁判所にも提起できますよ、といっているんですね。

イメージとしては、

自分の会社が東京にあるけど、相手の会社が大阪にある場合。で、あなたがもし相手方から損害を被って「裁判で損害賠償を請求しよう」と決心したとします。

相手を訴えるということは相手方が被告になりますから、原則として管轄は? そうです。大阪ですね。では大阪の裁判所に訴えを提起しましょう、となるとあなたにとって遠方となります。

そこで例外の方を思い出してみると、「損害賠償請求」は「財産上の訴え」ですから、持参債務の原則により債権者であるあなたの住所地(東京)が義務履行地となり、東京にも訴えを提起できる、というルールもありましたよね。東京のほうが当然、コストが抑えられそうなので、あなたは東京の裁判所に訴えを提起することになるでしょう。

このように、法的には複数の裁判所に訴訟ができる状態になることがあります。前もって契約書で定めておくことで管轄は合意できるので、どこの裁判所で訴訟を行うのかあらかじめ決めるために「専属的合意管轄」をぜひ定めておきたい、というわけです。

民事訴訟法第11条
(管轄の合意)
第十一条 当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

合意する際は、書面(または電磁的記録)によってすることと、一定の法律関係に基づく訴えであることが分かる程度に(たとえば「本契約に関して紛争が生じた場合」のように)記載することがポイントとなります。せっかく専属的合意管轄を定めていても、条文が無効だとかいわれると振出しに戻ってしまいますから、最後まで慎重にチェックしたいですね。


つかいやすい条文例

合意管轄条項の条文例をみてみましょう。

以下、経済産業省のモデル契約書より該当条文を引用します。

(合意管轄)
第○条 本契約及び個別契約に関し、訴訟の必要が生じた場合には、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。


仲裁も検討すべきか

経済産業省のモデル契約書には、仲裁の条文例も載っていましたので参考のために引用します。

ちなみに、経済産業省のモデル契約書の解説部分には、

「仲裁の結果(仲裁判断)は、判決と同様の効力を有している。調停は当事者双方が調停案に合意しなければ成立しないが、仲裁は、仲裁合意さえあればこのような解決案についての合意は不要で、裁判所の判決に類似したものといえる。」

(モデル取引・契約書見直し検討部会 民法改正対応モデル契約見直し検討WG ~情報システム・モデル取引・契約書~(受託開発(一部企画を含む)、保守運用)資料 117ページより。)

とありました。結果の効力は判決と同じであり、ほかにも仲裁人を選任できたり(普通の訴訟では裁判官を選べませんので、これは仲裁の特徴といえますね)、非公開で行われる(普通の訴訟は原則として公開です)ため企業秘密等が守れるなど、従来の裁判にはないメリットもあります(不服申立てが無いなどデメリットに見えるところもありますが)。

特徴をよく理解したうえで仲裁を選択できるようにしておくことは、今後の企業間契約の重要な選択肢になるかもしれません。

(仲  裁)
第56条 本契約及び個別契約に関し、甲乙間に紛争解決の必要が生じた場合、(仲裁機関名)の仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。


以上で合意管轄条項の解説はおわりです。

非常に良く知られた条項ですが、とはいえ裏側にはいろんな法律が隠れています。抜け目なくチェックして紛争に備えたいですね。


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