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なぜ、民法が改正されると利用規約を改定しなければならないのか?

「利用規約改定のお知らせ」

↑ こんなタイトルのメールを、あなたも何通かは受け取っているのではないでしょうか?

企業がウェブサービスなどの利用規約を変更する。その大きな理由のひとつに「民法改正への対応」があります。そもそもなぜ民法が改正されると利用規約を変更しなければならなくなるのでしょうか? すべてではありませんが、ひとつのこたえは「将来的な利用規約の変更に備えて、規約の変更を予告する規定を適切なかたちで入れておきたいから」です。


新たに「定型約款」というルールが適用される


そもそも「定型約款」とは、今回の民法改正によって登場したあたらしい概念です。といっても全く新しいわけではなく、約款そのものは昔からありました。ウェブサービスを利用するときも、利用規約とか約款が表示されて、同意のチェックを入れたりしますよね。約款は日常生活にある身近なものです。


ただ、約款には法的位置づけがわからない面もありました。すでに使われているのに、民法にはのってない。約款はいわば「暗黙の了解」とか「裏メニュー」みたいな存在だったのです。このままだと「読んでさえいない約款に人が従わなければならないのはなぜか」といった、法的には大事な議論がいつまでもグレーになるので、規定が新設されることになったのです。そうして登場したのが民法の「定型約款」です。


新民法の「定型約款」と、今つかっている「約款」や「利用規約」と呼ばれている契約書とが完全にイコールなのか、あてはまらないものもあるのかという問題(定型約款該当性の問題)は、別途確認しなければなりません。ただここではひとまず、利用規約が改訂されている理由を説明したいので、便宜的に「いわゆる利用規約=定型約款」という前提で話をすすめます。


個別に合意をとらなくても変更ができる

さて定型約款には変更の規定(民法548条の4)があります。つまり約款を変えることについてのルールです。約款も古くなったり、法令がかわったりして、途中で変える必要がでてきます。問題は、そもそも約款を変えても良いのか? 変えたら変えたものが有効になるのだろうか? という点です。

約款はもともと(一般的な契約のように)個別に契約交渉をして、合意をしてようやく締結した「契約」と違って、そうした交渉・修正・合意プロセスを経ずに、多数のユーザとの間に同じ内容のものが機械的に適用されますよね。そして変更する際も、通常はわざわざユーザのところへ行って「変更しますがいいでしょうか?」なんてことはやりません。では事業者は黙って約款の変更をしても有効なのか? そのあたりのルールも、定型約款の変更の規程として、あたらしい民法に加えられました。

条文を読んでみるとわかりますが、新民法では一定の要件を満たせば相手方の個別の合意をとらなくても定型約款の内容を変更できると定められています。個別の合意がいらない、というのは、事業者としてはとても楽なのですね。というより約款は大量取引を画一的に処理する手段ですから、構造的に、ひとりひとりの利用者と「変更の合意」をすることは現実的ではないのです。だから今回民法で「一定の要件を満たせば個別合意は不要だ」と明確にしてもらえたことは、とても助かります。

定型約款の変更の規程


しかし、もちろん一定の要件にあてはまっている必要があります。もし事業者が個別の合意なく(勝手に)値段を釣り上げたりして「規約にそう書いてあるから」なんていってユーザに請求しだしたら困りますよね。これはもちろんダメです。ではどういう要件が決められているのでしょうか? 条文を読んでみましょう。

(定型約款の変更)
第548条の4
1.定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
2.定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
3.第一項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
4.第五百四十八条の二第二項の規定は、第一項の規定による定型約款の変更については、適用しない。

いかがでしょうか。「個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。」とはっきり書いてありますよね。

ただし、

①定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合するときか(利益変更)、
②契約をした目的に反せず、かつ、変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき(合理的変更)

と、条件がついていることもわかります。ようするに「利益変更」や「合理的変更」ならば変更してOKということです。有利に変更されるのであればユーザにも文句はないでしょうし、合理的な変更ならまあ受け入れられるのでしょうから、いちいち合意をとらなくても「みなし合意」で変更することができるというロジックです。

とはいえ、不意打ち的に変更されてもユーザが困るので、上記に加えて手続的な決まりとして「変更するなら(事前の)お知らせをしなければならない」ことも決められています。具体的には、

・定型約款の変更の効力発生時期を定め、
・定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容ならびにその効力発生時期を適切な方法により周知すること

が必要です。

これは手続的要件といい、民法がこれをやらないと変更できないといっているわけですから結構重要です。ちなみにこれは利益変更でも、合理的変更でも必要な手続きです(さらに合理的変更の場合には、効力発生時期が到来するまでに周知をしなければ変更の効力が生じないとされています)。


ところで、「合理的」変更といいますが、定型約款の変更が「合理的」かどうかは、どう判断すべきでしょうか?


約款変更の合理性は何で決まるのか


これも条文をみるとわかります。約款の変更が合理的かどうかは、契約の目的に反していない変更であることと、①変更の必要性、②変更後の内容の相当性、③定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及び内容、④その他の変更に係る事情によって、総合的に判断されることになっています。


注目すべきは「定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及び内容」の部分です。「定め」、つまり、利用規約の文中に「規約を変更することがある事とその内容」が書いてあれば、変更の合理性の事情として考慮されるという意味です。「変更することがある旨の定め」があれば、変更の合理性が少し高まるといえます。

つまり改正民法の施行に向けて、企業が利用規約を改定する大きな理由の一つは、「変更することがある旨の定め」を加筆することでした。これの書き方ですが、「変更することがある旨の定め」+「及び内容」とあるので、


①事業者はどのような場合に規約の内容を変更することができるのか
②その場合どのような方法により変更後の本規約の内容と効力発生時期が周知されるのか


の要素を入れて具体的に書く必要があります。これはあくまで合理的変更であることの要素のひとつであるので、書いてあれば必ず合理的変更にできるとか、絶対に有効になるわけではありません。しかし、今後の利用規約には必ず置かれるべき条文のひとつになるでしょう。文例でいうと、改定に関する条文例は以下のようになります。

規約改定の文例
1. 弊社は、次の各号に該当する場合には、本利用規約の変更の効力発生時期を定め、本利用規約を変更する旨、変更後の内容および効力発生時期を、弊社のウェブサイトへ掲載するほか、必要があるときはユーザに通知する方法その他の相当な方法により周知することによって、本利用規約を改定することができるものとします。なお、第2号に該当する場合には、弊社は、弊社の定めた効力発生時期が到来するまでに、弊社のウェブサイトへの掲載等を行うものとします。
(1)改定の内容が会員の一般の利益に適合するとき
(2)改定の内容が本契約に係る取引の目的に反せず、改定の必要性、改定後の内容の相当性その他の変更に係る事情に照らし、合理的なものであるとき


まとめ


・定型約款の制度による約款の変更は、ユーザにメリットがある「利益変更」か、約款の目的に合っていて必要性や相当性などもある「合理的変更」であれば、手続的要件とともに行われるとき効力が認められる。
・手続的要件とは、インターネットなど適切な方法により「定型約款を変更する旨」「変更後の定型約款の内容」「その効力発生時期」が周知されること。
・約款に「約款の変更をすることがある旨の定め」があることは、合理的変更の事情のひとつとして考慮される。そのことをうけて利用規約に改定の条文を加える例が増えている。


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