「空海」をめぐる3つの旅|前編(京都・東寺で推し仏さまにであった話)
いきなりですが、あなたの推し仏はだれですか?
さて、わたくしは遅ればせながらこの春、とうとう仏像デビューを果たしました。推し仏像さまも見つかって(あとでいいますね)なかなか楽しいです。
きっかけは、大学院のレポートでした。最初は、うーん、仏教美術はいままで興味なかったなあ、でも必須授業だしやらないと、くらいに思っていたのですが、調べていくうちにまず、「弘法大師空海」にハマってしまいまして。
なにか気になったら「とりあえず現地に行く」をモットーとしているわたくし、今回も「空海」をめぐって京都・奈良・和歌山(高野山)を旅して参りました。
これから、空海三部作として前編(京都・東寺編)、中編(奈良編)、後編(和歌山・高野山)の写真を中心とした旅エッセイをお届けしようと思います。
いちにちで京都と奈良をめぐり、後日和歌山に行きました。今回はまず、「京都・東寺」編をお届けします。
それでは、どうぞ〜。
とりあえず京都行こう
そうなんです。大学院で仏教美術に関してのレポートを書く必要がありまして。でもいままではどちらかというと西洋の美術に目が向いていて、日本の歴史や美術に関して学びはじめたのはつい最近のことなのです。そんなわたしがいくらテキストや資料や本を見たところでどうもピンとこない。それなら実物を見てきたほうが早いだろうと。
思い立ったら吉日、日本史を学ぶ上で重要な「京都・奈良」に、ふらりと日帰りで行けるというのが関西(神戸)在住のうれしいところ。
でも、その課題の評価が悪かった場合、めちゃくちゃ落ち込んでしまって、京都や奈良に行ってきたこと自体を闇に葬り去りたくなるかもしれないので、評価がまだ帰ってこないいまのうちに、せめてこの素晴らしい景色だけでもあげておこうと思いました。(動機がネガティブ)
この日はしっとりした曇りの春の日で、新緑が映え、ツツジや名残りの八重桜たちがとても鮮やかでした。
京の都をまもる東の寺、東寺
東寺は京都駅から南に徒歩で15分ほどの場所にあるお寺です。
五重塔が有名で、新幹線からも見えるので、ああ、あそこか! と思いあたる方も多いと思います。
東寺は、真言宗のお寺です。名前を「教王護国寺」と言います。
796年、平安京の国家をまもるお寺として羅城門の東西に東寺と西寺が建立されました。当時が空海にあたえられたのは823年のことです。そのときすでに「金堂」は完成していました。
空海プロデュースの東寺講堂
空海は東寺の「講堂」をプロデュースしました。
空海の密教の教えを二十一尊の仏像で立体的にあらわしたとされる、いわゆる「立体曼荼羅」があるのはこの「講堂」です。
空海は講堂の完成を待たずして入定(亡くなること、永遠の瞑想に入られるという意味)してしまいますが、二十一尊の仏像、立体曼荼羅には空海の密教の教えが反映されていると言われています。
講堂内部の写真は撮影できなかったのですが、もし撮影できたとしてもあの仏像たちの迫力はなかなか伝わりにくかったと思います。それくらい、仏像たちはかっこよかったです。
そしてなんと、推し仏像まで見つけてしまいました。あとで詳しく言いますが、わたしの推し仏は、不動明王を囲む五大明王チームのなかの「降三世明王(ごうざんぜみょうおう)」さまです。かの有名なイケメン仏像さんじゃなくて、かなりの強面さんですが、ひるがえる衣装と手印がかっこいいの。
まさかわたしが仏像をかっこいいと思う日が来るなんて。
呪術をあやつる密教のスーパースター「空海」
空海(774ー835)は讃岐国(香川県)生まれの密教の僧侶。唐へ留学し、和歌山県の高野山に真言宗の寺院をひらきました。
いままでのわたしの空海に関する知識といえば、日本史の暗記事項としての「空海」です。「空海が真言宗で高野山、最澄が天台宗で比叡山延暦寺、どっちがどっちだったかテストで間違えないようにしなきゃ」という印象。でもじつは、ものすごい人だったんですね! (今さら)
しかもね、ここだけの話だけどわたし、空海が弘法大師ってこと知らなかったんです。わたしの地元にも弘法大師伝説っていうのがあって、川の流れを変えたとかあるんだけど、あの伝説の弘法大師が空海のことだったの? という衝撃。(あ、でも文化遺産の大学院生がそれ知らないってたぶん相当まずいことなのでぜったいナイショにしてくださいね)
空海はすごく頭が良くて、海外留学できるほど語学堪能で、文章(漢文)が書けて、字も綺麗。空海は芸術と学問に長け、呪術をあやつってあやかしから京の都をまもる密教界のスーパースターだったのです。
あやかりてえ! これからはヒロミの「弘」は「弘法大師の弘」って言おうと決意。
TKB21(東寺講堂仏像二十一尊)をプロデュース
空海は東寺を預けられたあと、講堂をプロデュースします。その講堂のなかに安置された二十一尊の仏像は、「立体曼荼羅」と言われています。
堂々たるセンター、大日如来さまを中心とする如来チーム(五智如来)、慈悲深いお顔と豪華な衣装が特徴の菩薩チーム(五菩薩)、そして不動明王を中心とする明王チーム(五大明王)。そのまわりを囲んで守っているのが多聞天、持国天、広目天、増長天の四天王。さらに帝釈天と梵天さま。
このなかの帝釈天さまが、「イケメンの仏像」としてとても有名なのだそうです。たしかに、りりしく、シュッとした現代風のお顔立ちです。伏し目がちの穏やかな表情、白象に乗って片足を組み、片足をおろしたポーズにもそこはかとない色気を感じさせ、人気が出るのもうなずけます。
降三世明王さまに踏まれたい?
しかし、わたしが一番惹かれたのが、不動明王を中心とする五大明王チームのなかの「降三世明王(ごうざんぜみょうおう)」さまです。
「降三世明王(ごうざんぜみょうおう)」は、密教の悟りへの道すじを叱咤激励して厳しく諭されるお役目のため、お顔はかなりの強面さん。忿怒の表情であらわされています。
そして、多面多臂(ためんたひ)と言って、顔と手がいっぱいある異形の仏さまです。降三世明王は、四面八臂。六つの手にそれぞれ法具を持っています。そして、メインの手(というのかな?)は、体の中央で手印を結んでいます。この手印がまたかっこいいんです。わたしはこの手印に惚れました。きっとものすごい呪術が発動されるにちがいない!
降三世明王は、衣装もかっこいい。天衣の端を引き裂き、腰にぎゅっと巻きつけています。天衣の端をキュッと腰でリボンのように結んでいるのです。裳(下半身につけるスカート状の着衣)がひるがえり、疾風によって後ろにたなびいています。ひるがえった衣装からあらわになった筋肉質の脚。そしてその足にムギュと踏みつけにされる異教の神様たち。え、他教とはいえ神様をふみつけちゃっていいの? と思ってしまいますが、これは仏教がいちばん素晴らしいという教えを伝えるためなのだそうです。
そんな大胆不敵な演出にもこころを奪われ、いつしかワルに惹かれる優等生のような気持ちでドキドキしてくるのです。もしかして、これって、恋?
わたしも踏みつけられてみたいような、みたくないような。いや、けっして踏みつけられたくはないんですけどね。
そんな相反する気持ちを味わいつつ、降三世明王さま、わたしの推し仏さまに決定です!
散る花の美しさ
じっくりと仏像を見学した後は、東寺境内のお庭を散策しました。
この日は4月24日。八重桜が終わり、ちょうどツツジが満開で、新緑も美しく素晴らしい景色でした。しばし東寺の写真をお楽しみください。
こんなに美しいのに、桜のシーズンが終わったあとだったので、境内は比較的空いていました。
残念ながら八重桜は終わっていましたが、こんなに美しい光景に出会えましたよ。
桜の季節は過ぎてしまいましたが、散る花の美しさを愛でることのできるこの時期の京都も、風情があっていいものだなあと思ったのでした。
東寺餅
かえりは東寺東門のすぐそばのお餅やさんで「東寺餅」を。
東寺餅、柔らかくてとっても美味しかった。
奈良へ
このあとは、近鉄「東寺駅」から奈良へ向かいます。目的は奈良国立博物館の空海展です。
空海三部作は中編につづきます!
最後までお読みいただいてありがとうございました。
あなたの推し仏さまも教えてくださいね!
中編へつづく
▼東寺へはJR京都駅から徒歩約15分、近鉄東寺駅から徒歩3分程度です。
▼なんと推し仏診断なるものを発見してしまいました。これだとわたしは深沙大将になりました。三蔵法師の沙悟浄ですって。旅人に惹かれがち。
▼引用・参考文献
だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!