見出し画像

技術とロボットの特異点から見るヒトと技術と社会の関係

先日のWebセミナー「2030年テクノロジーと生きる私たちのWell-being」のアーカイブが公開されたとのことです。90分と長めですが、良ければ是非。

今回はこのセミナーでも少し話した「技術と社会」の関係について思うところ。「技術」と「社会」と書いておいて矛盾するかもしれないのですが、大事なことは「技術」と「社会」は相対する項目ではないということだと思っています。要は、対立するものではないということ。「技術」も「社会」も、そして我々「ヒト」も、我々の存在している「場」の構成要素であり、関係性は如何様にでもなると思っています。

社会は、そして人は技術を制御できるか?コントロールできるのか?という話によくなります。もしかしたらどのような技術を作るかはある程度制御することが可能かもしれませんが、作った技術がどう使われるかはそもそもコントロールできないものだと思っています。

そのような中で、制御しようと思わずに、いかに良い関係性を作っていくかに集中した方が良い、というようなことをセミナーでは述べたつもりです。

関係性というのは、一発で構築されるものではなく、日々の接点の中で築きあげられていくものです。試行錯誤の中で、良くなることもあれば、悪くなることもあるけど、全体的には良い関係性を作ろう!という方向に向かおうという想いを持っていることが大事になるのではないでしょうか。

そんなようなことを考えたところ、一橋大学の久保明教先生の「機械カニバリズム」という本に出会いました。強めのタイトルに惹かれて衝動買いしただけで、まだ読み切っていないので、間違っていたら申し訳ないのですが、要は「人間と機械は相互依存的かつ相互浸食的であり、二項対立でとらえるべきものではない」という話が身近な例も使いながら書かれています。

この本の中の事例として「既読スルー」という現象が取り上げられていました。もともとは2011年の東日本大震災を受けて、返信できない状況でもLINEを確認できる状況にあることを示すために、メッセージを見れた=既読という機能が追加されました。しかし、平時にはおいては、LINEのもつ高いインタラクティブさが故に、逆にメッセージを見たにも関わらず、返信していないことが、まるで意図的に無視しているような扱いを受ける「既読スルー」という現象が起きてしまっています。

これはまさに開発する技術自体はコントロールできても、使われ方や機能の意味自体は制御不能になっている事例だと思います。

「2030年」ということで、これから「技術」「ヒト」「社会」を対立軸で考えずに、良い関係性を築き上げることに注力すべきという話をしたつもりだったのですが、そもそも既に関係性が大事な状態になっていたんですね。

2030年という視点では、「シンギュラリティ」というのが考えるべき、というか似たような議論をすべきポイントでしょうか?

シンギュラリティ(技術的特異点)とは、AI技術が、自ら人間より賢い知能を生み出す事が可能になるポイントを指す言葉です。米国の数学者ヴァーナー・ヴィンジにより最初に広められ、人工知能研究の権威であるレイ・カーツワイルも提唱する概念です。

ヴァーナー・ヴィンジは1993年に「The Coming Technological Singularity」の中で、「30年以内に技術的に人間を超える知能がつくられる」と言い、レイ・カーツワイルは、「2029年にAIが人間並みの知能を備え、2045年に技術的特異点が来る」と言っています。よく「2045年」という数字が、シンギュラリティのポイントとして取り上げられますが、2020年代というのも技術的には大事な時期かもしれません。私自身は、いつがシンギュラリティなのかというのは、知能の定義によるのであまり興味がありませんが、ヒトより優れた機能を有するモノが存在するという意味では既に来ているような気もしますし、強化学習というものもそれに該当する気もします。

一方で、ロボット屋の端くれとして、シンギュラリティ(特異点)と聞くと、知能どうこうよりも、「ロボット制御における特異点問題」の方がパッと頭に浮かびます。

ここでは順運動学のヤコビ行列の逆行列が存在しないみたいなロボット工学とか数学的な話は一旦置いておいて、要はロボットにおける特異点とは、構造的に制御しにくいというかできない姿勢のことを言います。少し前に、ホンダの二足歩行ロボット アシモが膝を伸ばさずに歩いているのは、特異点問題のためという説明がされているのを記憶している方もいるかもしれません。

特異点になると何が問題かと言えば、ロボットは特異点付近において高速に動く、即ちほぼほぼ暴走してしまう。そして特異点では停止してしまうことになります。そのため、制御を勉強する際には、兎に角、特異点を避けろ、特異点に近づかないような楽な姿勢で制御しろ、と教えてもらいました。

かと言って、常に避け続けられるとも限らず、特異点を回避するための研究も沢山行われています。最も有名?なのは「冗長性」を持たせてあげるというアプローチです。計算上、擬似的に解けるようにする。もしくは物理的に1つ自由度を増やすということもありかもしれません(特異点となるロボット姿勢の数も増えてしまいますが)。

最後はロボットの話に移ってしまいましたが、いわゆる技術的特異点の方のシンギュラリティの問題も、もしかしたら冗長性という視点を加えることで良い方向に向かうのかもしれません。対立項に見えるかもしれない技術、ヒト、社会などなどももう一つ上のレイヤー、次元、自由度から見たら、実は仲の良い関係性だったということもあるのかもしれません。まだ頭の中は整理されていませんが、もう少しじっくり考えてみたいと思います。


WEBセミナーは7/28、29と続きますので、是非お時間ある方はご参加ください。今週のセミナーは具体的なプロダクトも交えながら、極地建築家の村上さん、コネルの出村さん、ドバイ万博日本館を手掛ける永山さん、元Jリーガーの播戸さん、Well-beingの石川善樹さん、ユカイ工学の青木さん、インフォバーンの井登さん、まちの保育園で有名な松本さん、などなどに語って頂きます。

では、また来週~。

安藤健@takecando

=================================

Twitter(@takecando)では気になったロボットやWell-beingの関連ニュースなどを発信しています。よければ、フォローください。

https://twitter.com/takecando

この記事が参加している募集

イベントレポ

頂いたサポートは記事作成のために活用させて頂きます。