大切な人の大切な時に自信を持って差し出せるモノを作るために私は働く。
『#はたらくってなんだろう』
パナソニックからのお題は、前回の「やさしさってなんだろう」に引き続き難しい。
私の仕事はロボットを作ることだ。移動が大変な人向けから子供向けまで色々開発したりしている。なぜそんな仕事をしているのか?
生活するためにお金を稼ぐ。シンプルに考えれば、それが「はたらく」ということだと思う。お金は大事だよ〜とも言うが、働くことでそんな大事なお金が貰えるのはなぜだろうか?今回はそんなことを考えてみたいと思う。
「働く」という漢字は、「人」と「動」という漢字で作られている。
「人」が「動く」のか?
「人」と「動く」のか?
「人」を「動かす」のか?
色々と考えてみたけど、お金を貰うという観点で一番しっくりくるのは
「人」のために「動く」
という表現。
誰かのために自分が動くから、その対価としてお金を頂ける。もちろん、直接的に動くことが役立つ場合は、その人からお金を貰えるし、誰かというのは社会とか個人でない場合もあるだろう。長期的視点で役立つという視点で国などからお金を貰う場合もあるかもしれない。
いずれにせよ、自分の満足だけでなく、誰かのために動くことが「はたらく」ということなんだと思う。好きなことを仕事に!という考えももちろんあるけど、それはあくまで好きなことが誰かのためになる場合のみに成り立つ話ではないだろうか。
「人」のために「動く」のが「はたらく」という話で、最初に頭に浮かんだのは、自分自身が会社のメンバーに言っている言葉だ。
大切な人の大切なときに使えるモノを作ろう
私の会社では毎年期初に年間取組の方針を組織責任者が発表するのですが、毎回私が発表の最後に言っている言葉です。2015年くらいに課長になってから担当している仕事や開発内容が変わっても、この言葉だけは一度も変わっていない。それくらい働く上で中心にある考え方なのかもしれない。
自分の親、子供、恋人、友達、大切な人が使いたいと思ってもらえるモノを作ろう。
そして、その人の大切なタイミングで自信を持ってしっかりと使えるモノに仕上げていこう。
という想いで発信しています。
私の仕事のほとんどは、新規のロボット技術開発、事業開発ということで、そもそもどんなモノを作ったらよいのか、どれくらいの性能にしたら良いのか、どれくらいの完成度・信頼性にしたらよのか、よく分からないことが多いです。
いわゆる前例があって、それを踏襲すれば良いというのがほぼない。
そんなときに拠り所になるのが、大切な人に使ってほしいと思えるのか?という考え方。介護ロボットなら自分の親が介護が必要になったときにすぐに渡したいと思えるようになっているのか?子供用のロボットなら、自分の子供に手放しで渡して使えるようになっているのか?機能ももちろんだけど、特に使い勝手とか安全性とか信頼性とかはその基準で考えると分かりやすいと思っている。
今すぐに自分の大切な人に使って欲しいと思えるなら、新規のトライアルとしては十分な状態になっているし、もし何らかの理由で躊躇い、まだ自分の大切な人に使わせられないと思うなら、それは誰にも使ってもらえないでしょう。
この考えにいたるようになったのは、私自身の大きな後悔があります。
ちょうど今から10年前。私は大学で歩行リハビリロボットの開発をしていました。論文もどんどん書いていたし、実際の患者さんによる試験もかなり行っていました。
そんなときに、まさに自分の大切な人が脳卒中で倒れました。
幸いにも一命は取り留めたし、地元では最先端のリハビリ病院に入院することもできた。現場では様々な療法士の方々が本当に必死に、そして慌ただしくリハビリを行ってくれていました。ただし、そこにはロボットは一台もなかったし、一台も入り込む余地もなかった。
あのときの無力さは今でも鮮明に覚えています。これからはリハビリロボットの時代だと声高らかに研究していたのに、実際に大切な人がそのロボットを必要になったときには全く使える状態になっていなかった。もしかしたら性能としては少しは役立つものだったかもしれないけど、少なくともリハビリの現場で療法士の方が、そして何より患者本人が安心して使いたいと思えるモノにはなっていなかった。まさに研究用のデータは取れても、使い勝手の悪い、信頼性のないモノだったと思います。
あーーー何やってたんだろな。心から後悔した。
もちろん、研究開発は1日でできるものではない。今日また大切な人が倒れたら、またしても大切なときに使ってもらえるモノは提供できないかもしれない。ただし、その想いを持って、日々の行動、判断することに意味があると思う。
私の原体験における大切な時は脳卒中という避けられるなら避けたいようなネガティブ気味のケースだったけど、出産、入学、卒業、結婚、旅行、病気、介護などなど人生には産まれる瞬間から死ぬ瞬間まで実に多くの大切な時がある。大切な人のその時にでも使ってもらえる準備を進めたい。
そして、それぞれの人にそれぞれの大切な人がいる。家族である場合もあるだろし、従業員、地域の人、お客様。みんなの大切がある。
「人」のために「動く」。それは、私にとっては、「大切な人が大切なときに使えるモノを作る」ということだ。
もうあの後悔を味わないためにも、しっかりと働いていきたい。
では、また来週~
安藤健@takecando
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