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ピアニスト和田華音*リサイタル「もういちど生まれる」〜そこに込められた想いを聞く

割引あり

ピアニストの和田華音さんによるシリーズ「個展的リサイタル」。その4回目となる今回のテーマは、「もういちど生まれる」。そこに込められた想いをうかがいました。


【演奏会情報】

和田華音ピアノリサイタル2024-もういちど生まれる
日時/2024年12月21日(土)18:30〜20:00 (開場18:10) ムジカーザ

曲目/プロコフィエフ :小品(曲目未定) 、フォーレ:ノクターン第5番 変ロ長調 作品37 、ショパン:バラード第1番 ト短調 作品23、ラフマニノフ:前奏曲集より ト長調 作品32-5、ト短調 作品23-5、スクリャービン:幻想曲 ロ短調 作品28、リスト:ピアノソナタ ロ短調 S.178
料金/一般4,500円、学生2,500円(
チケット受付/https://forms.gle/FyGLLpU8P8mtBV3S8

teket https://teket.jp/9041/36764

協賛/一般社団法人日本音楽協会
主催/DUCK KEN

プロフィール

https://kanon-wada.jimdosite.com/profile/

コロナ禍での試行錯誤を経て

Q:12月21日(土)、ムジカーザで行われるリサイタル「もういちど生まれる」は和田さんにとってひとつの区切り。「未来を見据えてのリサイタル」とのことですが、選曲はどのように?

和田:前半はこれまで度々演奏してきた作曲家の作品ばかりを集めました。私は東京藝大の大学院生のとき、ラフマニノフとプロコフィエフを研究のテーマにしていましたので、ふたりの作曲家の作品は私にとって「定番」なんです。それから、2年前に全曲演奏会を行った大好きなフォーレ。そしてショパンは小さい頃からたくさん弾いていて当たり前のように身近にいる作曲家です。それらの作品を前半に凝縮させました。

Q:後半のリストも、ピアニストにとって定番の作曲家のように思われますが?

和田:そうですね。たしかにリストはコンクールの勝負曲になることが多いので10分程度の小品は私もよく弾いていました。しかし、振り返ってみると、どちらかというと技術的なところをアピールすることに重きを置いていて、「自分の色として出す」ということはあまりしてきていなかったように思うのです。演奏会でメインとして取り上げるのも今回が初めてなので、前半とは真逆のコンセプトで、初めて真剣に向き合う作曲家として取り上げます。前半と後半とで、そういった対比があります。

Q:前半でこれまでを振り返り、後半で新しいことに挑戦し、「もういちど生まれる」のですね。そのテーマに込められた思いとは?

和田:「新しい自分に挑む。そして、生まれ変わる」という思いを込めました。将来に向け、更に前にと進むために。

なぜこのようなテーマにしたかというと、私は3年前に大学院を修了して、その直後に実家を離れて一人暮らしを始めたんですね。その頃の一連の出来事が私にとってわりと大きな転機になったのです。

大学生の頃は将来のこと、もっと先の未来のことなど考えずに、ただただ目の前にある課題をこなす日々でした。それが大学院2年生の頃にコロナが蔓延し、「やるべきこと」がなくなり、目の前が真っ暗に。「人生で初めて立ち止まった」、そういう経験をしました。

しかし、その期間に悩み、考え抜いたことが功を奏したのか、大学院を修了して社会に出たとき、「自分がやるべきこと」が日に日に明確になっていったんです。そして、人生の軸となるものがいくつか見え始めたとき、もう一度「生まれ直した」ような感覚を覚えました。そしてこれから先も、年齢を重ねるごとに「生まれ変わっていきたい」と思うようになったのです。その一連の出来事の区切りとして、このテーマでリサイタルを行いたい、と思いました。

それからもうひとつ自分の中にテーマがあって、それはコロナで身動きがとれなかった頃の振り返りです。あの期間は、心が疲れてしまって大曲を弾いたり聴いたりする気持ちにはなかなかなれず、4、5分で弾ききれるような小品ばかり弾いていました。そうした曲を取り上げることで辛かった日々を振り返り、浄化させたいと思ったのです。

小品は作曲家の要素がひとつの作品の中にギュッとつまっていて、心情的に心を委ねやすいと思います。後半のリストは大曲でおそらく弾く側だけではなく、聴く側も体力のいる作品だと思いますので、前半はそうした小品を、という思いもありました。

Q:後半のリストのソナタは、どういうところに注目して聴いてほしいですか?

和田:2、3年前は小品ばかり弾いていましたが、最近はようやく大曲と向き合えるエネルギーが湧いてきました。私にとってこのリストのピアノソナタはずっと、立ちはだかるエベレストのような存在でした。

この曲はピアニストとして絶大な人気を博していたリストならではの数々の超絶技巧はもちろんですが、それだけでなくオーケストラのような壮大な響きや、歌曲のような優美な旋律も聴こえてきます。バッハのような厳格なフーガから、古典派のソナタ的展開、オペラのレチタティーヴォのような嘆きの語り、そして何より圧倒的緻密に練られた構成。当時の作曲技法としてはこれ以上にないほどのものが詰め込まれた、リストの芸術の頂点の作品だと思います。

今ならやっと、そのエベレストに挑めるような気がしているのです。

演奏時間が30分という大曲で、一人の主人公が人生の旅をする長編物語のような作品です。

人生にはさまざまな選択を迫られるときがあり、その度に悩みもがきながら進んでいく。苦しくてどうしようもない時もあるけど、自分のためになら、もしくは誰かのためになら頑張れることもあったり。それまでの人生で自分が大切にしてきたことや信じていることをお守りにして、何とか光に向かって進んでいき山を越える度に新たな自分に出会うことができる。そんな苦悩から救済、解放や生まれ変わりの物語がこの作品には詰まっていると思います。私はまだ28年間しか生きていませんが、今の自分なりの人生の旅を表現できたらと思います。

Q:コロナ禍、演奏活動が制限されていた期間はどのように過ごされていたのですか?

和田:SNSなどで活発に新たな方向性を見いだしている演奏家がいる一方で、私は自分の中でやる気が芽生えるのをじっと待っていたんです。自分の気持ちを無理やり動かすようなことはせず、静かに待っていたら少しずつ光が差してきた。そういう感じでしたね。そこから徐々にいろいろと好転していき、何とか本来の自分を取り戻していきました。

会場となるムジカーザにて

Q:活発に新しい活路を見いだすより、休眠することがご自身には合っていた?

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