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定時先生!第27話 決意

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

「何その質問、緊張するなあ」

 中島が照れくさそうに笑う。

「すいません、変なこと聞いて」
「いやいいよ。そうだね…」

 中島は少し間を置き、考えた。

「部活もそうだし、全ての仕事で最も大事にしているのは、効率」
「…少ない練習で効率よく上達して勝てるようにするってことですか」

 この疑問に対する中島の回答に、遠藤は、背中を押される思いがした。

「いや、勝ちは二の次。昔は勝利を目指してバリバリやってた頃もあったけどね。今求めてるのは、競技が好きかっていうこと。俺が部活動に割ける限られた時間の範囲内で、最も効率よく生徒に提供できる有益なものは、勝利じゃなくて、それだったんだ」

 遠藤は、校内放送で部活動中止を告げられたあの時、気が付いていた。少なくともあの場にいたソフトテニス部員達は、部活動に参加しているのではなく、拘束されていたのだと。
 もちろん、練習を楽しみにしているソフトテニス部員だっているかもしれない。苦しい練習に耐えてこそ得られるものもあるだろう。遠藤自身も陸上選手として、それは経験している。しかし、練習中止を喜ぶ部員がいて、負担感を抱える顧問がいて、この形のまま、今後もこのソフトテニス部は持続可能だろうか。

ー部活だって柔軟に変化させないと、負担で何かが潰れてしまうー

 かつての中島の言葉が過った。このままでは、生徒の競技に対する気持ちまで潰してしまうのではないだろうか。そして、俺自身をも。

「ー実は部活を減らしていくこと、迷ってました。でも、この間、アドバイス通り、3年が引退したら減らしていくことに決めたんです。それで、今の中島先生のお話を聞いて、さらに決意固めました」
「何かあったの」
「ええ、こないだ放課後練習が中止になったときなんですけど…」

 遠藤はこの時、中島と話すなかで、部活動指導に限らず、中島を定時先生たらしめる仕事術や思考を教わった。教科会議の後では、やはり時間が足りず、中島の全てを聴けた訳ではなかったが、それでも遠藤にとっては目から鱗のことばかりであった。そして後に遠藤は、それらを実践し、自分のものとして獲得していくこととなる。
 
 図書室を後にし、職員室に戻る遠藤の脳裏に浮かぶのは、北沢とのかつての会話だった。

ー北沢くん、だいぶ憧れてるねー
ー俺今年は中島先生の真似しようと思ってるんだよね。遠藤くんもそうすればー

 北沢に話したくなり、職員室を見渡すと、北沢の姿はない。この時間は北沢も空きコマのはずだ。ふと教頭席の後ろの連絡黒板を見ると北沢の名があった。

【年休 北沢(1日)】

 年休取得まで果たすとは。遠藤は北沢に感心すると同時に、自らの前進を誓うのだった。