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定時先生!第22話 減らすわけには

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

18時55分 1学年室
「私は定研で道徳部会行ってたでしょ。だから、今日人づてに聞いたんだけど、中島先生、定研で発表者に立候補したんですって?偉いわねえ。遠藤さん立候補しなかったの?良い機会だからあなたも来年あたり発表者やった方がいいわ。え?部活動?うちの合唱部は、去年コロナでできなかった分を取り返そうと、それはもう燃えてるわよ。さっきも一生懸命歌ってたわよ。感染症対策でこれまで通りの練習はできないけどね。このことも気の毒だけど、去年は全然活動自体ができなくて、子どもがもうかわいそうで。私も辛かった。いい?遠藤君。家庭と学校含めて、部活動だけが唯一の楽しみで、そこでしか輝けない子はいるのよ。私が昔実際に見た子でもいたんだけど、小学校からの申し送りからすでに酷くて、両親不仲、家庭不和、低学力、授業妨害で、文句なしのMA。…あ、MA?MAっていうのはねクラス編成用語。問題行動のMとABCの三段階のAで合わせてMAね。つまりクラス分け段階で、学年で一番マークされてたわけね。でね、中学入学後すぐ授業妨害を始めたのよ。授業がさっぱりわからなかかったことと、誰かにかまってほしかったんでしょうね。でもね、その子がだんだん落ち着いていったのよ。そう、それが部活動のおかげだったわけ。その子は野球部だったんだけど、当時はガイドラインもなかったから毎週土日一日中部活でね、彼は家にいたくなかったから、それが良かったのよね。ストレス発散になってたみたい。夏休み空けにはすっかり落ち着いちゃって、驚いたわ。まあ、完璧にいい子になったかといえば、もちろんそこまではいかないけど、会議に上がるような問題行動はしなくなったわね。これって急成長でしょ?部活動は確かに時間外の仕事よ。でもね、その子みたいに救えるケースだってあるの。やっぱり生徒指導面の効果が大きいわよね。子どもは、学級で見せる顔とは全く別の顔を部活動で見せるのよ。担任が指導するよりも顧問が働きかけた方が言うこと聞く子っているでしょ。一人の子どもに多数の大人が関われるのは、部活動の大きな利点ね。学校はチームなのよ。教員同士連携して指導にあたった方が絶対に子供のためになるの。部活動はその中の大きな一要素よ。遠藤君は、初任で今後も教員人生長いんだから、どんどん部活動やって若いうちに経験した方が良いわよ。たしか、ソフトテニスは競技経験ないのよね?でも、それは珍しいことじゃないし、異動したら、川村さんみたいに競技経験ある部持たせてもらえるかもよ?ねえ、川村さん」
「そうですね…。特に私も含め若い体育科は運動部ならどの部をもたされても不思議はないですよね。私は競技経験のあるバレー部をもたせてもらえててありがたいです。遠藤君、私は背はないけどこう見えてけっこういいところまで進んだのよ。遠藤君ほどじゃないけど、あと少しで全国だったの。今のバレー部?今は週5で活動してるよ。ガイドラインピッタリね。県大会行けるかもぐらいのとこまで仕上がってる。え?そうですよね。今が頑張らせどころですよね。今日の放課後練習も6時までみっちり練習させましたよ」
「あら、いけない。7時に保護者に電話するんだったわ」

 吉野は急いで職員室へと向かった。学年室には、遠藤と川村が残された。

「…遠藤君は部活動きつくない?」
「…正直…」
「私も。参っちゃうほどじゃないけどね。そりゃ大会出て生徒が勝てば嬉しいし、負ければ悔しいよ。でも、もっと休んでいいなら休みたいよね。今、夜7時だけど、12時間後には朝練で学校いるのか、なんて考えちゃう」
「あー、それわかります」
「土日だって両方休みたいよね…。明日からなんて放課後練6時半までだよ。でもね、やっぱり減らすわけにはいかないよ。行けるなら行った方がいい。生徒のためってのももちろんそうだけど、さっきの吉野先生の話、聞いたでしょ。先生方の目、気にしちゃうよ」