定時先生!第29話 秘密兵器

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

「周りのクラス見ていると、担任が注意すれば生徒も言うこと聞いてるし、うちのクラスと同じ清掃方法で上手くいってるように見えるんですけど、それはやっぱり指導力ですかね…」
「まあ、それもあるかもね。でもさ、指導しなくて済むように工夫するのが一番重要な指導力だよ。生徒指導でも何でもそうだけど、何か問題が生じたとき、あるいは予見されるときは、生徒の前に、システムに原因を求めることが大事なんだ…もっといえば、俺は清掃活動自体もっと抜本的に改革すべきだと思ってて…それは今はいいか」
「システムに原因は考えたことありませんでした。正直いつも、何でこいつらちゃんと掃除できないんだ、ってイラついてました」
「俺も昔はそういう風に考えてた頃もあったよ。でも、あるときからシステムを工夫するようになって、それからは色々試したね」
「細かく分担する方法が一番良かったですか」
「どれが一番良いかは、クラスの実態によるかな。でも、その方法なら、どんなクラスでも取り入れやすいんじゃないかな。あとは、先生が生徒の3倍掃除するってのも効果あるね…これはシステムじゃないか」
「あはは、確かに。…でも、例のその二人は、それでも遊ぶ気がします」
「そういう生徒には、秘密兵器だね」
「秘密兵器?」

 


 おしゃべりに夢中の二人の背後から、遠藤が近づいた。

「はい、君たちにはこれ」

 不意に遠藤に話しかけれ、二人が振り向くと、遠藤の片手にはスティック型掃除機、片手には特大の黒板消しが持たれていた。

「君たちにしかこの秘密兵器は任せられない」
「おお!」

 にこりと微笑む中島が思い出された。



「掃除機は中古屋で3000円、特大黒板消しは1000円。合わせて学級費4000円で指導しなくて済むなら、お買い得だと思うけど。来年度も使えるし。二人が秘密兵器を託されるのが嫌じゃないっていう前提だけど、元気印の1年生なら、そこは大丈夫でしょ」
「あの二人は喜ぶとは思いますけど、また壊されちゃうんじゃ…」
「遊んじゃうから壊すんであって、遊ばなければ壊さないんじゃないかな。それに、そういう生徒でも、自分用みたいな特別感があれば大事にするけどね」
「周りの生徒から、特別扱いに見られませんか」
「そう捉える生徒もいなくはないかもね。でも、それ以上の生徒が、先生はより良くしようと試行錯誤してくれてるんだって評価してくれるはず。生徒が特別扱いとか贔屓を感じるのは、できる生徒を優先させたときだよ。今回の場合は、特別扱いじゃなくてどっちかというと個に応じた支援だから、大丈夫」

 


 遠藤から秘密兵器を受け取った二人は、楽しそうに掃除に取り掛かっている。周囲の生徒に注目され、得意げだ。遠藤は、その姿に目を細めた。