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定時先生!本編 第2章 部活動顧問編

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#教師のバトン  がテーマの小説。本編の部活動顧問編です。
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記事一覧

定時先生!第18話 朝練

定時先生!第18話 朝練

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

 いつもどおり朝5時に、遠藤は目覚めた。昨夜は、寝付きが悪かった。珍しく日が出ている時間に帰宅でき、普段より疲れていなかったからだろうか。あるいは、濃密だったその日の出来事を思い返す時間が多かったせいかもしれない。今もそうだ。起きがけに点けたテレビの中では、遠く南の海上に発生した台風をニュースキャスターが伝えているが、頭の中では、昨日の出

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定時先生!第19話 減らせる気はしない

定時先生!第19話 減らせる気はしない

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

「実は、部活が辛くて、減らしたいんです。でもー」
「でも?」
「ーでも、減らせる気はしないです」

 遠藤は、少し俯き、そう呟いた。中島は黙ってハンドルを握り、前方を見つめている。ただ、遠藤の絞り出した言葉だけが車内を反響し続けているように感じられる。二人の無言が、その苦悩がいかに解決困難かを示していた。

「俺がS中に来る前ー」

 中

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定時先生!第20話 様々な要因

定時先生!第20話 様々な要因

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

 朝の職員玄関で挨拶を交わした遠藤と中島の横を、男子生徒が通りかかった。にこやかに中島に話しかける。

「あ、中島先生、おはようございます。今日も定時出勤ですね?」
「おう、おはよう。そうだよ。尊敬しろ」
「おー、さすが」

 遠藤は知らない生徒だったが、持っていたラケットケースから、中島が受け持つバドミントン部員だと察せられた。

「今

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定時先生!第21話 部活動顧問

定時先生!第21話 部活動顧問

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

8時40分 職員男子トイレ
「今?今うちは週4。こないだここで話してからすぐ、活動減らしたよ。週4回ということはよ、休日に活動したときは平日は週3しかやらないわけだ。去年からえらく変わったよ、バスケ部。去年まではガイドラインギリギリだったけど。え?ガイドライン?ガイドラインってのはさ、K市部活動ガイドラインだよ。土日と平日それぞれ1日は休みつくること、活

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定時先生!第22話 減らすわけには

定時先生!第22話 減らすわけには

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第1話 ブラックなんでしょ

18時55分 1学年室
「私は定研で道徳部会行ってたでしょ。だから、今日人づてに聞いたんだけど、中島先生、定研で発表者に立候補したんですって?偉いわねえ。遠藤さん立候補しなかったの?良い機会だからあなたも来年あたり発表者やった方がいいわ。え?部活動?うちの合唱部は、去年コロナでできなかった分を取り返そうと、それはもう燃えてるわよ。さっきも一生懸命歌ってた

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定時先生!第23話 最終下校時刻

定時先生!第23話 最終下校時刻

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第1話 ブラックなんでしょ

ー遠藤先生も、3年生が引退してから、少しずつ減らしたらどうだろうー

 中島の提案に対し半信半疑でいた遠藤は、昨日一日周囲の同僚たちに、部活動に対する考えを聞いてみた。わかったことは、教師によって部活動の捉え方は多様であり、余計にどうすれば良いのかわからない状態に陥ったということだ。 
 活動を減らせば、当然負担は減る。しかし生徒、保護者、周囲の教師、そ

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定時先生!第24話 掃除の時間

定時先生!第24話 掃除の時間

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

 机を運ぶ度、モップをかける度、素振りで裂けたマメが痛み、今日から部活動下校時刻が18時30分まで延びることを思い出す。
 S中学校では、帰りの会の前に15分間の清掃活動がある。遠藤は、担任を務める1年2組教室の清掃監督だ。ほうきがけをする生徒、モップがけをする生徒、黒板消しをかける生徒、窓を拭く生徒、机を運ぶ生徒、黙々と取り組む生徒もいれば、私語が伴う

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定時先生!第25話 あの時の

定時先生!第25話 あの時の

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

 市川が、職員室前の廊下に立っている。遠藤が戻るのを待っているのだ。遠藤が二人の供述の裏が取れたことを報告すると、市川からは、二人を職員室後方で待機させていることと、軽く口頭指導を入れたことが伝えられた。廊下から職員室を覗くと、普段は元気印の二人がすっかり意気消沈としている。市川は軽くでも、生徒には重かったようだ。
 市川から遠藤に、この

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定時先生!第26話 別にある

定時先生!第26話 別にある

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第1話 ブラックなんでしょ

 本棚に囲まれ、S中学校の国語科教員が一堂に会している。それぞれが向かい合う席にならぬよう、間隔を空けて座っている。校庭からは、体育の授業の元気な声が聞こえてくる。
 月曜日2校時目の裏番組、図書室での教科会議だ。S中学校では、週に1回、同教科教員同士で授業がない空きコマが重なるよう設定されており、検討事項があるときには、教科会議が開かれる。
 この日の

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定時先生!第27話 決意

定時先生!第27話 決意

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

「何その質問、緊張するなあ」

 中島が照れくさそうに笑う。

「すいません、変なこと聞いて」
「いやいいよ。そうだね…」

 中島は少し間を置き、考えた。

「部活もそうだし、全ての仕事で最も大事にしているのは、効率」
「…少ない練習で効率よく上達して勝てるようにするってことですか」

 この疑問に対する中島の回答に、遠藤は、背中を押さ

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