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Vol.7 安藤誓哉 言葉に宿る不思議な魅力

これまで、
何人もの選手に取材し、話を聞いてきた。

プレーが光り、魅力を感じる選手もいれば、
その選手自身のキャラクターや
人柄そのものに惹かれる選手もいて、
キッカケはバラエティーに富んでいる。

その中でも、
発する一言一言に不思議な魅力を纏う
「言葉の力」を持つ選手と出会う事がある。

安藤誓哉もその一人だ。

安藤は17-18・18-19シーズンと
Bリーグ連覇を果たしたアルバルク東京の
ポイントガード。(以下PG)

ヘッドコーチの考えや指示を
仲間に共有しゲームメイクしていく
いわば「コート上の舵取り役」、
「司令塔」
なんて言われる事も多い。

PGが考えなければいけない事はとにかく膨大で、
その思考量はいまだに想像にも及ばない。
バスケを取材し始めて1年半ほど経つが、
いくら話を聞いても
彼らの頭の中を理解できた気にならないのだ。

PGとは「考えるポジション」でもある。

彼の考えは特に分からない、だから聞きたい。

バスケ担当になった当初、
情報に明るいメディアの皆さんが集まる呑み会に
誘って頂いた事があった。

彼らの話してる内容は担当なりたての自分には
少々ピンと来ない部分もあったけど、
いくつか印象的だった会話がある。

その1つが
「安藤の言葉を引き出すのは難しい」
という事だった。

後に自分も取材して分かったのだが、
語弊のないように言うと、
決して安藤はマイクパフォーマンスが饒舌でも
口数が多いタイプでもないと思う。

メディアは試合後の時間がない中で
なるべく多くの情報と詳細を聞きたいが、
返ってきた言葉が抽象的な時は
記事も映像も、仕上げに工夫が必要だ。

ただ、取材を重ねてみると
安藤の場合はそんな淡泊な言葉の中にも
少し違った魅力が隠れている気がした。

例えば。

「自信を持ってやれたと思います」
「悔しかったです」
「今日の試合は難しかったです」

他の選手なら
物足りないと感じてしまうかもしれない
これらの言葉でさえ、
安藤が難しかったと言うなら
「本当に難しかったんだろう」と、
不思議な魅力に映るのだ。

「一言の重みがある」にイメージは近い。

映像で収めると、より強くそれを感じた。

「脱臼はハメれば何とかなると思って...」

安藤に初めてガッツリと話を聞いたのは
18-19シーズンFINALの優勝から10日後。

TOYOTAの東京本社に
開始予定の30分前に現れた安藤。
コート上の攻めのDF同様、
高い強度でプレッシャーを受け続け、
余裕を見てカメラ準備をしていた我々は
急かされるようにセッティングを終えた。

インタビューを安藤にお願いした理由は、
FINALでのあるシーンが
頭の中にこびり付いていたからだった。

1クオーターの終わり際、
スタートから試合に出続けていた安藤が
急遽ベンチに駆け込んだ。
反対側のゴール下でカメラを構えていた自分は、
試合をそっちのけでその様子を追いかけ、
タイムアウトと共に
安藤のいるアルバルクベンチ側へと回った。

するとそこには、
表情を歪め痛がる安藤と
グルグルに包帯を巻かれた右手薬指。
「骨でも折れてるのでは?」
と思うぐらいの痛がり様だった。

「まだ残り3クオーターもあるし、
 安藤選手抜きだと、きついだろうな」

そんな事を考えていると次の瞬間、
安藤は再びコートに立っていた。

ただ、ケガをしたのは利き手の右手。
しかもPGはボールを触る機会が誰よりも多く、
ハンドリング、パス、シュート、
どのプレーも影響が無いはずがなかった。

それでも安藤は最後までコートに立ち続け、
チームはリーグ連覇を成し遂げた。

試合後、涙を見せていた安藤に
ケガの具合について聞いてみると、

「脱臼なんでハマれば行けるかなと思って、
意外にもハマりが悪くてですね。
ちょっと痛かったですけど、
なんとか試合に支障がなくできたのかなって。
気持ちで乗り越えたと言いますか。」

この時に思った。

安藤は「多くを語らない」わけではなく、
僕らが聞いて驚くようなことが
彼にとってはとても些細で、
特別言う必要がないのかもしれない。

そう思うと、
彼の考えがもっと知りたくなって
もっと安藤が気になる存在になった。

「日の丸を背負ってプレーしたい」

そういった理由もあり、
改めて安藤にインタビューをお願いした。
もうその時には
「言葉を引き出しずらい」という印象はない。

プレーの裏側にある考えやチームへの想い、
深く聞けば聞くだけ思考の深さに驚かされた。
少しだけ、安藤の脳内に触れられた気がした。

そして、インタビューの最後に
力強く言い放った言葉が、印象に残っている。

この言葉がとりわけ強く印象に残ったのは、
日本が13年ぶりに出場するW杯が
3ヵ月後に迫っていたからだった。

「日本代表に選ばれて
 日の丸を背負ってプレーしたい」

2019年、8月上旬。
W杯のPG争いは熱を帯びていた。

レギュラーだった富樫勇樹がケガで離脱し、
安藤誓哉篠山竜青ベンドラメ礼生
そして高さのあるPG起用を想定し
田中大貴を入れた4人が
代表メンバー入りに凌ぎを削った。

安藤は若手主体で臨んだ
直前の国際大会で結果を残した事で
勢いそのままにA代表へと招集された。
疲労は溜まっていただろうが、
実戦明けの体はそれ以上にキレがあり
自信がみなぎっているように見えた。

「日本代表に選ばれたい」と聞いてから
わずか3ヵ月。
凄まじいスピードでA代表に上り詰めてきた
今の心境を尋ねると、こう答えてくれた。

あのインタビューから
またジョーンズカップの練習が始まって、
もう一回A代表まで来て
最終候補に残れてうれしい反面、
ここからだなという気持ちもあります。

この時に交わしたやりとりは
わずか一言二言だったが、
安藤の心情を知るのにはそれで十分だった。

そして1カ月後、
安藤は戦いの地へと向かう12名に名を連ねた。

「何で安藤選手なんですか?」

W杯、日本の戦いは上海と東莞で行われた。

安藤はアメリカ戦を含む3試合に出場。
全敗で迎えた最後のモンテネグロ戦では
スタメンに起用され、
開始から攻守に強度の高いプレーを見せたが、
最後はチームとしても個としても
完全な力負けだった。

<安藤 W杯成績>
vs USA:出場時間 17分|得点 0
シュート 0/4|アシスト 0

vs NZL:出場時間 13分|得点 3
シュート 1/4|アシスト 2

vs MON:出場時間 33分|得点 6
シュート 2/4|アシスト 2

試合が終わると、
メディアは引き上げてくる選手達に声をかけ
談話を取る。

限られた時間の中で、
しっかり話が聞けるのはせいぜい2,3人だろう。

本音は日本を代表する12人全員に、
話を聞きたいが、そうもいかない。
その中で僕は、
最後の2試合とも安藤に声をかけた。

それを見ていた知り合いには
「何でそんな安藤選手にこだわるんですか?」
と聞かれたほど異様だったらしい。

しかし、この時に安藤の言葉を聞けて
本当に良かったと思う。

【9/7 ニュージーランド戦後】

【9/9 モンテネグロ戦後】

最後の勝負所で勝ちに持っていく力が
W杯に出てるほとんどのチームが
全員分かってる。それを痛感した。

試合内容を考えれば
話を聞くべき選手は他にいたかもしれない。

しかし、W杯を経て
選手もコーチも「世界との差」として
まずフィジカルの問題を挙げた中で、
安藤が感じたような一見抽象的な感覚が、
実は経験値やメンタルの国民性などに言われる
「世界との本当の差」かもしれないと感じた。

「Bリーグで伝説を残すチームにしたい」

新シーズン、
安藤は新たにキャプテンに就任する。
昨季はリーグ戦中止となり、
普通に考えれば、
3連覇への挑戦は開幕と共にまた「1」からだ。

しかし、
昨シーズン中盤に安藤を取材した際、
彼はこのような言葉を残している。

19.12.15 vs 横浜戦後
「積み重ねなのでシーズンは。
自分達の目指しているやるべき事、
目指しているバスケット、
やるべきバスケットを一試合一試合やってく事。
リーグ戦で成長していって、
最後プレーオフでどれだけ成長してきたか、
そこが3連覇の鍵になるかと思います。」

彼の言葉を借りるなら、
過去の積み重ねがあれば、
チームの力がリセットされる事はないはずだ。

「このアルバルク東京を
Bリーグで伝説を残すチームにしたい」

先日行われたクラブの新体制発表会で
新キャプテンは力強くこう言い放った。

「言葉の力」を持つ、安藤誓哉。

今度はキャプテンとして、
チームの言葉として、
彼から語られる生身の言葉に
目も、耳も、心も、研ぎ澄ませていきたい。

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