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【図解】なぜ鏡は上下は逆さに映らないのか【思考実験】

「どうして鏡は上下は逆さにならないの?」という素朴な疑問を、誰もが一度は思い浮かべたことがあると思います。
姿見の前に立ったとき、体の左右は反対に映って見えるのに、頭と爪先つまさきの位置が変わらないのは不思議だ、というように。
今回は、創作とは無縁の内容ですが、鏡について今まで僕が漠然と考えてきたことを、図を交えて整理したいと思います。

・上下も逆さに「見える」

まず最初にお伝えするのは、鏡は必ずしも上下を逆さに映さないわけではないということです。「逆さ富士」がいい例でしょう。ウィキペディアから画像を借ります。

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田貫湖たぬきこの水面が鏡の役割を果たすことで、富士山の上下が逆さに見えています。このことからわかるのは、鏡は上下もきちんと逆さにするということです。
ただし、このとき「上下が逆さだ」とされるのは、人間がそのように見ているからに過ぎません。それはこういうことです。

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画像を90°回転させました。すると、富士山の実像と鏡像、及び水面の位置関係に変化はないにもかかわらず、今度は「左右が逆さ」の風景に見えます。
つまり、鏡としての水面は、ただ水面としてそこにあるだけで、別に「上下を逆さにしてやろう」などと考えているわけではありません。人間が勝手にそう感じているだけなのです。

地球上に生きる限り、上下左右の「感覚」からは逃れられませんが、それは生き物にとっての話です。鏡の現象を考える際に、上下左右はかえって混乱の要素になります。鏡には感覚はありませんから、「上下を逆さにしている」つもりもなければ、そもそも「左右を逆さにしている」つもりもないでしょう。
僕は、鏡の反射現象の具体的内容(見え方)については、「座標を反映している」という言葉で説明がつくのではないか、と考えています。

・座標の反映

そもそも、鏡の仕組みである、反射角と入射角の知識があれば、疑問の半分近くは解消されるでしょうし、中には完全に納得できてしまう人もいるかと思います。
ですが、この記事では反射角と入射角については触れません。話がかえって複雑になるからです。

姿見に映る人を基準に考えていきましょう。そのとき、みなさんが思い浮かべる「上下が逆さになる」状態とはどのようなものでしょうか。きっとこんな感じでしょう。

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このとき、上下の両端である、頭頂部を座標A、爪先を座標Bと指定してみます。

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座標同士を線で結んでみます。すると、両端の線が鏡面で交差することがわかります。
それでは、本来の「左右が逆さ」の状態でも、座標同士を結ぶ線は交差するのでしょうか、見てみましょう。

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画像左が、普段目にしている、「左右が逆さ」の状態です。このときの左右の座標を確かめるために、俯瞰ふかんしたものが右のサイコロです。人の俯瞰図はわかりにくいので、サイコロにたとえました。
サイコロ(人)の左側をA、右側をBとしたとき、鏡の中の同じ座標と結ぶと、両方の線は交差しないことがわかります。つまり、座標同士を結ぶ線が交差しない状態が正常で、先ほどの「上下が逆さ」の状態は、鏡としては「座標を反映していない」ことになってしまいます。

「座標の反映」とは、“鏡から見て”頭は頭の位置に、右手のものは右側に、手前のものは手前に……と対応して映すことを意味します。

「待ってくれ」と思う方もいるでしょう。「結局、左右は逆さになり、上下は逆さになっていないことに変わりはないじゃないか」と。
みなさんはおそらく、頭の中で、以下のように実像と鏡像を並べて想像しているのではないでしょうか。

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①の〈R〉を実像としたとき、鏡像は②として、横並びに比較されます。
これは、天と地を基準ベースに、左右を反転したイメージです。
なぜこうなるのかというと、人間が普段から、天と地を基準に世界を見る癖がついているからでしょう。

しかしこれを、以下のように想像することも、不可能ではないはずです。

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今度は水平線を基準に反転したイメージです。それによって、「上下が逆さ」になったように見えます。
この③の鏡像を、先ほどの②の鏡像と比べてみてください。向きが異なるだけで、実は全く同じものだと分かります。
このことから、「左右が逆さ」の状態を、「上下が逆さ」と言い換えることが可能になります。この二つは同義です。

しかし、ここで浮き彫りになるのが、鏡は「上下左右すべてが同時に逆さにはならない」という事実です。
僕たち人間が「左右が逆さ」として見ようとする限りは、「上下が逆さ」には見えませんし、その反対もまた然りです。
それはつまり「どちらでもない」ということでもあります。
この混沌とした状態を一言で表す言葉が「座標の反映」というわけです。


僕たち人間が頭を悩ませている間、当の鏡はといえば、上下左右のことになど全く無関心なのです。

・思考実験

それでも納得がいかないという方のために、二つの思考実験を考えました。正解はないので、みなさんも一緒に悩みましょう。

思考実験①「寝そべる人」

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人が床に寝そべって、体を水平にした状態で鏡を覗き込んでいます。
この人は、鏡に映った自分の姿をやはり「左右が逆さ」と認識するでしょうか。
それとも、「上下が逆さ」と認識するのでしょうか。
あなただったら、どちらに感じるでしょうか。

思考実験②「スプーンに映る文字」

先ほど、鏡は「上下左右すべてが逆さ」にならないと言いましたが、それは鏡が平らな場合です。
金属のスプーンをお持ちでしたら、ぜひくぼみを覗いてみてください。みなさんがイメージする「上下左右が逆さ」の真の状態を見ることができます。鏡面が歪んでいることで、通常の鏡とは違う映り方をします。

そこでひとつ疑問です。
「上下左右すべてが逆さ」という状態は、実像と鏡像の間に、実は違いがないことを意味します。果たして、これを「逆さ」と表現することは的確なのでしょうか。

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……以上、文系の性分で観念的な内容となりましたが、あくまで一つの参考程度にご賞味いただければ幸いです。

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