正解がない時代の人事制度はどうやってつくるのか?

たなけんです。今は組織人事のコンサルタントとしてクライアントと一緒にタレントマネジメント施策を検討したり、人事制度を作ったりしています。
2020年の6月ぐらいに人事制度の勉強会をしたいなと思い、改めて、自分が伝えられることは何だろうと考えていたら、PCのローカルフォルダに、ぽつんと置かれたワードファイルを見つけました。そのファイルのタイトルは「正解がない時代の人事制度設計」。クライアントと人事制度の検討をする中で感じた違和感を書き留めていたことを思い出しました。

そうだ、この内容で勉強会をしようと思い、そのワードファイルの内容を編集しましたので、ぜひ、ご一読いただけたらと思います。

はじめに

我々が生きている現代の事を「VUCA」の時代と呼ぶようです。ここ数年、インターネットや雑誌、書籍などで見かけるようになりました。先が読めない時代ということのようです。

そのような環境の中、各企業はどのように人事制度設計に向き合っていくのでしょうか。

フリマアプリの雄であるメルカリは、社員数が10人の時から300人まで対応できる人事制度を構築していたようです。そのメルカリでも退職エントリを見かけるようになりました。今では、連結で約2,000人の会社です。そりゃ、規模の拡大に組織が耐えられなかったという感じでしょうか。

人事にとってメルカリと言えば、リファラル採用とOKRでしょう。特にOKRは最近はやっている評価の仕組みだと思います。

OKRもそうですが、人事施策には流行り廃りがあるものです。人事制度に限って言えば、職能資格制度から成果主義、役割主義の人事制度、最近では職務主義への見直しなど、日本型雇用システムの枠組みの中で如何に働かないおじさんの処遇を下げるのかと、これまで様々な制度が導入されてきました。

また、評価制度においても、MBOや前述のOKR、ノーレーティングやリアルタイムフィードバック(1on1)など、様々な取り組みが実施されています。

現在、人事制度設計の仕事に携わっていて感じるのは、そういう“最先端の人事管理手法”や“先端企業が取り組んでいる評価の仕組み”など、どうでもいいということです。上述した様々な取り組みは、人事制度における設計手法や評価制度の運用方法でしかありません。

私としては、MBOもOKRも社員を方向付けるという意味では同じような効果があると思うので、OKRの方がMBOより優れている!みたいなツイートを見かけると、なんの話してんだ!って思ってしまいます。

VUCAという先を見通せない時代で、人事制度設計の現場から、正解がない時代の人事制度のつくり方をまとめられたらという思いで筆をとりました。
しばらくしたら書き直すかもしれませんが、現時点での私なりの考えです。

人事制度設計では、制度を作る前に思想を作ることが大切

人事制度を見直す際に人事コンサルは「処遇の軸を職能にしますか?役割にしますか?」とあまり意味のないことをクライアントに聞きます。処遇の軸より大事なことは、“どういう人をどういう風に処遇していきたいか?”を考えることにあります。それが職能なのか、役割なのかは後で考えることだと思います。(往々にして、想いをそのまま反映しようとすると職能や役割という既存の軸にははまらないところが多い)

そもそも、人事制度とは「社員から期待する貢献を引き出すインセンティブシステム」です。その前提に立つと、まず考えないといけないことは「貢献」をどうデザインするか。
そして、人事制度を思想的に考えるということは、当社における「等級とは何か?」「評価とは何か?」「報酬とは何か?」という根本的な問いからスタートする必要があるということです。

人事制度は、会社がつくりたいように作る。これが正解のない時代の人事制度設計の基本だと思います。

人事制度に会社の思想を実装する

人事制度とは、一般的に「等級制度」「評価制度」「報酬制度」という3つの制度からなります。本によっては「ステップアップ制度」や「評価育成制度」など、さまざまな名称がついていますが、機能としては、この3つに収れんします。
人事制度設計とは、会社がこの3つの制度に会社の思想を実装することで、社員から期待する貢献を引き出せるようにすることです。

それでは、各制度を見ていきましょう。

等級制度とは、教科書的に説明すると「社員に期待する能力・職務・役割などにより社員を区分し、階層化することで序列をつける制度」です。等級制度は人事制度の基盤であり、報酬制度、評価制度の設計の前提となります。ただ、これは教科書における定義であり、人事管理的な観点によるものです。

会社の文脈で等級制度を考えていくときに大切なことは、等級区分、等級階層が何を意味するか?を考えることです。具体的には、等級区分や階層によって、誰と誰を区分するのか?区分することによって社員に何を伝えたいか?ということです。そもそも、区分する必要があるのか?というところから考えることで、その等級区分や階層の意味が明確になります。現に、等級制度で階層や役職を廃止している会社も出てきています。

評価制度は皆さんも馴染みがあると思います。評価制度には、一般的に、社員の行動を評価する行動評価、社員の成果や業績、取り組みを評価する成果評価や業績評価があります。ただ、評価制度も等級制度と同様で、会社が評価したいものを評価すればよいと思っています。
行動評価が導入されていない会社に対して、コンピテンシー評価(行動評価の一種)を実施ましょう!と提案することがありますが、大事なことは、社員の貢献を引き出すうえで何を評価することが適切なのか?を考えることにあります。そのため、いくら人事コンサルタントが「能力そのものを評価することは不可能です。社員の能力を評価するのであれば、能力が発揮されている行動を見て評価しましょう」と言ったとしても、会社として能力を評価したいし、評価できるという事であれば、それでOKだと思います。その時は自信をもって「我々は能力を評価できます!」と言っていただけたらと思います。
(ただ、評価者が変わっても比較的同じ目線で評価しやすい評価手法は?という話もありますが…)

大事なことは、会社として何がしたいのか?何を伝えたいのか?です。

報酬制度も同様です。報酬とは何か?何によって給与が決まるのか?基本給とは何か?賞与とは何か?手当は必要なのか?から考える必要があります。どういう人に、どれくらいの報酬を払いたいか?どのように払いたいか?を考えることが大切になります。
また、お金に”意味を持たせることも大事になります。具体的に言えば、3,000円の昇給に「成長度合い」や「成果の大きさ」などの意味を織り込ませるのです。

報酬制度は等級制度、評価制度以上に、社員に対する会社のメッセージが伝わるものです。いくら上司から「君はそのままで問題ないよ!」と言われていても、結果として減給となると「自分は評価されていなかった。自分の行動は問題だったのだ」ということを認識します。そのため、会社の思想を人事制度に実装するうえで報酬制度の設計が最も重要になります。

最近では、市場価値連動で報酬が決まる会社、自分の給与を自分で決められる会社が出てきています。細かいところでは、毎月昇給ができる会社、四半期ごとに賞与を払う会社もあります。

会社が社員から期待する貢献を引き出すために、どのように社員の価値や貢献を認識し、それをどのように社員に伝えるか。これを1つ1つ丁寧に考えていくことが正解のない時代の人事制度設計の方法です。正解がないからこそ、自分たちでちゃんと考えないと自社に合ったものはつくれないということです。

人事制度をつくるうえで

人事制度をつくること自体は難しくありません。人事制度には「等級」「評価」「報酬」という決められたモジュールがあり、そこに埋め込むことも大体決まっています。人事制度をパッケージで考えると、特に設計自体の難易度は高くないと思います。

ただ、何が難しいかで言うと、会社が表現したいことを、どのモジュールで、どのように実装するかということです。繰り返しになってしまいますが、例えば、成長実感を表現するのに、“昇格”で表現するのか、“昇給”で表現するのか?はたまた“役職登用”で表現するのか?そもそも、表現したい成長はどんな成長なのか?仕事での習熟は何で表現するのか?役割の変化は何で表現するのか?など、成長1つとっても 考えることや表現する先は無数にあります。

人事制度は、第三者が見て合理的かどうかは重要ではありません。会社として表現したいこと(人事制度)が会社の文脈(戦略や組織文化)に適合的であることが大切です。
人事制度設計でコンサルタントを活用するにしても、自分たちでリスクを取りにいかないと自社にとって最適なものにはなりえません。(モジュール間のバランスを崩すこと自体がリスクになるので)

人事制度設計におけるコンサルの活用方法

正解のない時代の人事制度設計にコンサルタントが必要か?と問われれば、「使い方次第」というのが私の今のところの答えです。

そこで、私なりに、正解がない時代の人事制度設計におけるコンサルの使い方をまとめています。

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【人事コンサルの4つの役割】
・先生:人事制度の設計手法のインプット先
・専門家:労務リスクの判断
・コーチ:壁打ち相手
・作業員:作業のアウトソース先
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会社がコンサルタントを、時に先生として、時にコーチとして活用し、会社が自分の意志を持ってコンサルタントからの提案を押し返す。これが人事制度設計に必要なプロセスではないでしょうか。

この内容が、少しでも多くの会社に、その会社らしい人事制度を考えるきっかけとなったらと思います。



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