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「書き手が言いたいこと」と「読者が聞きたいこと」は違う

 編集者には「著者・書き手にテーマを提案する」という大切な仕事があります。椎木さんには「経営」を、可士和さんには「打ち合わせ」を、新谷さんには「文春の仕事術」を、という具合です。

 どういうふうにテーマを見つけているのか?

 まず興味を持った人物がいたら、その人の情報をほぼ全て収集します。

 過去に本を書いていたらその本にはひととおり目を通し、Webや雑誌のインタビュー記事があれば、それもすべて入手して目を通します。ツイッターをやっていたら過去にさかのぼってツイートを見ますし、フェイスブックやウェブサイトなどで発信していたら、それにも目を通します。トークショーやイベントがあれば足を運び、その人の温度感や人間性を把握します。

 情報収集を徹底的に行ない、考え方・哲学・仕事観・人生観・死生観などがおぼろげに見えてくると、その著者に「憑依」できるようになります。憑依…というと大げさですが「人生において何に重きをおいているのか」「どういう価値観で世界を見ているか」がわかるようになります。すると、自ずとその人が次に書くべきテーマが見えてきます。


「言いたいこと」と「聞きたいこと」をすり合わせる

 と、ここで編集者が考えなければいけないのは「著者が書きたいこと」だけを考えて提案するのではなくて、「著者が書きたいこと」と「読者が知りたいこと」「読者が聞きたいこと」その二つが重なる部分を見つけて提案することです。シンプルに言えば「発信したいこととマーケットのすり合わせ」です。

 たとえば著者が「コミュニティについて書きたい」と思っていたとしても、その著者にコミュニティのことを聞きたいという読者がどれぐらいいるのか? そこは冷静に見極めなければいけません。もしかしたらその著者には「お金について」書いてもらうほうが読者がいるかもしれない。

 その重なり合う部分を見つけることが大切だと思います。

 人は案外「自分の強み」をわかっていません。「何を発信することが読者にとって面白いと思われるのか」はなかなか自分ではわからないのです。だからこそ客観的に、編集者がその人を把握して、ベストなテーマを提案することが大切だと思うのです。

 読者の知りたいことに応えつつ、結果的に書き手の伝えたいことを伝えることができればベストです。

 ちなみに、なにが自分の求められているテーマかがわからない人にはこんなアドバイスをします。「あなたが講演会をするとしたらどういうテーマで話すと人が集まりそうですか?」と。税理士の方なら、多くの人は「税の話」「お金の話」を求めるはずですし、心理カウンセラーなら「心理学」について聞きたいはずです。リアルにどれくらいの人が来てくれそうか? を想像すると自分が発信すべきテーマが見えてくる気がします。


もし堀江さんと本をつくるなら

 もし僕が堀江貴文さんと本を作るとしたら『もたないくらし』というテーマを提案したいと思っています。

 堀江さんが(以前、たしか「サンデージャポン」に出られているときだったと思いますが)「僕は家もないし、スマホとカードくらいしか持ち歩かない」と仰っていました。家も財布もないなんて「究極のシンプルライフ」だし「究極のもたないくらし」です。これを読者に提示することで、より多くの人の参考になりますし、売れる本にもなるのではないか。(ハズしてたらすいません!)

 ※イメージ図 

 ずっと小説を書いている人が次に小説を書くべきかどうかは誰もわかりません。もしかしたらビジネス書を書くことがいいのかもしれない。

 逆にずっとビジネス書しか書いてない人が、実は小説を書いた方がいいという場合もありそうです。

 書き手や著者の可能性を見極めて、「なるべく遠くに」飛ばす。興味を持った人物をよく観察し、調べて、その人が次に何を発信するべきかを見つける。それが編集者の役割なのかなと思います。

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