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「時間の借金王」と「時間の大富豪」

 むかしむかしあるところに「時間の借金王」とよばれている男がいました。なぜ時間の借金王とよばれていたのか? それはその男に関わると、なぜだか時間が奪われてしまうからです。

 メールを送っても返事がなかなか返ってこないので、こちらはそわそわイライラして時間を奪われます。お仕事をお願いしても「もう少し、もう少し」と言われ、なかなか完成品が届きません。

 だから「あの人に関わると時間が奪われるよ」と噂されるようになり、いつしか「時間の借金王」と呼ばれるようになってしまったのです。

 時間の借金王。当の本人は、時間を奪おうだなんて思っていません。

 メールが来たら「どう返そうかな?」「こんな言い方は素っ気ないかな?」とうんうん考えます。そうこうしているうちにめんどうになって「明日でいっか」と思ってしまいます。気づけばメールは1週間放置され、相手の催促メールがあってから、あわてて返事をするのです。

 仕事も同じように、悪気があるわけではありません。「完ぺきな仕事をしよう」「最高の仕事で驚かせてやろう」。そう思っています。でも、完ぺきを求めているとどうしても時間が足りなくなります。「もう少し、もう少し」と締め切りを先延ばししてもらい、仕事を続けます。締め切りを延ばしてもらったからには、下手な仕事はできません。ハードルはさらに上がり、さらに完成が遠のくのです。


 さて、隣の村には「時間の大富豪」とよばれている男がいました。なぜ「時間の大富豪」とよばれているのか? それはいつも時間が有り余っていて、たくさんの時間を持っているからです。おまけに時間の大富豪に関わると、時間のおすそわけがもらえます。

 大富豪にメールを送ると一瞬で返ってきます。一瞬で返ってくるので、すぐに次の行動に移ることができます。大富豪に仕事をお願いすると締め切り前に仕上げてくれます。だからこちらも大助かりです。

 大富豪はてきとうに仕事をしているわけではありません。

 現時点で、自分のできるベストの仕事をします。ただ必要以上に「自分をよく見せよう」とは思いません。それよりも「相手をよろこばせよう」という思いのほうが強いので、なるべく早くメールも仕事も返してあげるのです。

 仕事にはやりなおしや急なトラブルがつきものであることも理解しています。なので自分が思う「完ぺき」というものは思い込みであり、妄想だと思っています。はなから「完ぺき」は目指しません。それよりも、なるべく早くかたちにして相手に見せてあげようと思っています。

 大富豪には、どんどん仕事がきます。どんどん仕事が来るけれど、どんどんこなすので、どんどん時間が生まれます。大富豪と関わると時間に「利子」がついてもどってくるようなものなので、どんどん人も集まってきます。関わりたい人がどんどん増えるのです。


 時間の借金王は、関わっている人に返すべき「時間の利子」がどんどん増えていきます。

 ふつうにメールを返すのではなく「遅れて申し訳ございません」などの余計な文章を書かなくてはいけません。これも「利子」です。ふつうに仕事を完成させるのではなく、締め切りに遅れたぶんいいものにしないといけないというプレッシャーが生まれますし、なにより仕事相手の時間を奪っているというペナルティもあります。これも「利子」です。

 がんばりやさんなのだけれど「借金」の重荷でまいにちがしんどそうです。なのに信頼はどんどん減っていきます。


 時間の大富豪は、時間の資産がどんどん増えていきます。

 メールはすぐ返すので一行でも嫌がられません。むしろ相手は「早いですね」と喜びます。仕事も締め切り前に提出するので、ちょっとしたやりなおしはあるもののスムーズに進みます。「またお願いしますね」とよく言われます。

 もちろん時間の借金はゼロなので軽やかです。時間があるので新しい仕事も受けられますし、チャンスがあったらすぐに飛びつけます。そして、時間とともに信頼もどんどん増えていきます。

「すぐやる」ことをサボって、先延ばししたくなったとき、この物語を思い出してみましょう。あなたは借金王になりたいですか? 大富豪になりたいですか?



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