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似合わないことを続けるのも悪くない

『一緒に柔道部に入らない?』

高校1年生の春、同じ中学の同級生だったYくんにこう誘われたのが全ての始まりだった。

Yくんは小さい頃から柔道をやっていて、黒帯2段の実力者。
高校でも当然柔道部に入ることを決めていた。

そんな彼はしかし、柔道部に人があまり集まらないこともよく知っていたのだろう。
同じ中学の同級生である僕を含めた4人に声を掛け、柔道部に勧誘した。

先に言っておくと僕はそれまで柔道経験ゼロ。
というか運動なんてロクにしたことがなくて、中学では卓球部だったがサボり気味のいい加減野郎だった。

そんな感じだったが、特に高校で入りたい部活も無かったし、
『何となく面白そう』という好奇心で入部を決めた。

家族やそれまでの僕を知る人達からは例外なく
「本気で言ってる?」
と耳を疑われた。そりゃそうだろう、僕も自分自身がこれ以上なく似合わないことをしようとしているのくらい自覚はあった。

それでも、やってみて合わなければすぐ辞めればいいだけ。
この時はそれくらいの気持ちだった。

Yくんは、部活仲間ができてとても嬉しそうだった。


1年生編

当時の柔道部には、2年の先輩が2人、3年の先輩が2人の計4人。
うち3人が黒帯(初段・2段)で、1人が白帯だった。
そして1年生は、YくんとYくんに勧誘された僕達4人だけだ。

柔道経験ゼロの1年生である僕達に待っていたのは、基礎練習の反復。
マット運動(前転とか後転とか)、エビ、逆エビ、脇締め、受け身などなど・・・

繰り返すがそれまで柔道どころかまともな運動経験すらほとんどなかった僕は、当然ながらこの時点でヒイヒイ言っていた。
練習の翌日には筋肉痛で身体を動かすのがしんどいというレベルだ。

最もそれは他3人も同様だったらしく、Yくん以外はみんなヒイヒイ言っていたが。

そしてある程度基礎が身に付いてくると、今度は技術練習が入ってくる。
打ち込み、投げ込み、乱取り・・・

これも当然ながら、Yくんと先輩方とやるとその力量は歴然の差がある。
僕達初心者はヒイヒイ言いながら打ち込みや投げ込みを何とかこなし、乱取りではバッタンバッタン投げられ続けた。


そんな日々を過ごしていくうち、気が付けば1人、また1人と1年生は部活に来なくなり、2年になる頃にはYくんに勧誘された中で残ったのは僕だけになっていた。

ちなみに僕も柔道をやりたくて残っていたのではなく、辞めようとしていたらみんな先に辞めてしまい、タイミングを逃してしまったという情けない話だったのだが、残ってしまった手前練習はイヤイヤながらやっていた。

とはいえ真面目ではなく、中学の卓球部と同様に行きたくない日はサボっていた。

ちょうどこの頃コンビニでアルバイトも始めたので、「バイトあるので・・・」という便利な名目を掲げサボっていた。


2年生編

そんな風に過ごした1年が終わり、2年生になった。

それまで顧問だった体育教師が異動となり、新たに赴任してきた常勤講師が柔道部の新顧問になるという。

この顧問、柔道で強豪として有名な大学で選手として活動し、黒帯4段という僕からすれば化け物と呼ぶにふさわしい存在。

前顧問(40代)はよくも悪くも放任主義だったので、練習メニューは部員任せだったし練習もあまり見に来ず、僕がサボって練習に参加していなくても何も言ってこなかった。

しかしこの新顧問は、まだ若く熱意に溢れ、部の練習にも積極的に介入してきた。そしてそれに伴い練習の厳しさも上がっていった。

ますます辞めたい気持ちは増したが、かといって2年生の中途半端な時期に辞めるのも情けなかったので、イヤイヤながら続けていた。

新顧問の彼も常勤講師の立場であり自らの夢(教員になる)のための勉強も大変らしく、そこまで部活にベッタリできるわけではないので、そういうところを上手く見計らってサボっていた。

そしてこの常勤講師は、1年(おそらくそういう契約なのだろう)で高校を去っていった。
その後彼がどうなったのかは分からないが、夢であった教員になれているといいなと思っている。


3年生編

3年生になり、部内では最上級生となった。
実は1つ下の代の新入部員はいなかったのだが、ここで1年生の新入部員が2人来た。

1人はYくんと同じように小さい頃から柔道をやってきた黒帯2段、もう1人は『何となく』で入部してきた僕と同じ未経験者だった。

この頃の僕は今更ながら柔道に対して少しやる気を出すようになっており、練習はそれまでに比べ少し真面目にやるようになっていた。

が、ここに来てYくんが部活をサボり始めるようになった。
その理由は今でも分からない。もしかしたら柔道に嫌気が指したのかもしれないし、部活のレベル(人数・練習量・質)に失望したのかもしれない。

分からないがとにかくYくんはそのまま部活に来なくなり、3年生は僕1人になった。

そしてそんな状態なので、せっかく入部してきた1年生2人もあまり練習に来なくなり、僕は1人で筋トレや走り込みなどを黙々とすることが増えた(いま考えても謎のモチベーションがあった)。

そうして過ごし、季節は夏になり、僕は柔道部を引退した。
それはもうあっけない感じで、ドラマや映画であるような後輩達からの惜しまれる声とかも何もなく、誰にも認知されないまま、ひっそりと3年間所属した部活動に別れを告げた。

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・・・と、ここで僕の部活動の話は終わりとなるのだが、もう少しだけ話を続けさせてほしい。

実はこの後、僕はこの謎のモチベーションが維持され燻っていたところで、たまたまジムのチラシを目にして格闘技の世界に足を踏み入れることになる。

ここまでダラダラと話してきたが、このエピソードを通して伝えたいのは
『人生に無駄なことなんてない』
という、ありきたりだけどシンプルなことだ。

僕が部活動で過ごした3年間は、決して誰かに羨ましがられるようなキラキラした青春ではなく、なるべくなら話したくない泥臭く退屈なものだ。

でも、曲がりなりにも3年間続けることで、格闘技に出会い、身体も心も良い方向に変化し、今やライフワークとなった。

これはきっとあの3年間の柔道部での活動がなかったら、存在しなかった道だ。

だから、もし今これを読んでいるあなたが部活動でも他のことでもいいけれど辞めようかどうしようか迷っていることがあるなら、もしそれが辛くて辛くてこれ以上耐えられないことではなかったら、もう少しだけ続けてみるのもいいかもしれない。

「継続は力なり」と言うつもりはないが、続けることで次の道に繋がることはある。

あの高校の柔道部での生活を過ごした過去の僕は、今の僕にこう教えてくれている。

似合わないことを続けるのも、なかなか悪くないだろう?
と。





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