【VFK】VS栃木(H)10.1 届け

歴史的な5連敗。衝撃的なラストプレーでの敗戦。悔しさという悔しさを味わい尽くし、それでも勝利へ手は届かない。

届いてほしい。届かせたい。そして、チーム最後の希望である天皇杯準決勝へ繋げたい。水曜日に試合を控えながら、チームは現状のベストメンバーをスタメンに送り込んだ。

スタメン

     リラ
 宮崎     長谷川
   荒木  石川
須貝   山田   関口
  マンシャ 浦上
     河田

ベンチ

岡西 山本 野澤 松本 
鳥海 三平 ジェトゥリオ

スタメンは、宮崎と鳥海が入れ替え。ベンチメンバーに野澤陸、松本、ジェトゥリオが復帰。

野澤陸はマンシャ加入後、マンシャのパフォーマンスが悪くてもチャンスを与えられない立ち位置に序列を落としており、出場となれば、プレーで自分の存在価値を示したい。

ジェトゥリオは状態が上がらない状態での無理な起用で評価を大きく落としたが、フォワードとして求められる能力や献身性というベースが備わっている印象。ラスト4試合の段階で状態が上がってきてどこまでのプレーを見せられるか。このまま1点も決められないのなら、通常のスケジュールにおける補強であっても失敗の烙印を押されることになる。彼にとっても大切な試合だ。

宮崎牽引

前半の甲府の攻撃を牽引したのは宮崎純真だった。裏への抜け出しと出し手のタイミングが改善され、宮崎が効果的に裏へ抜け出したり、ドリブルで揺さぶったりできる場面が劇的に増えた。

中盤でマンシャの楔を引き出して、シンプルに須貝にはたいてチャンスを作り出す。

ショートコーナーの崩れからリラが左サイドの競り合いを制すると、宮崎の手前へグラウンダーのクロス。わずかにタイミングが合わずディフェンスにクリアされてしまう。

そして、39分、山田陸の鋭い差し込みを絶妙な位置どりとトラップで受けると、伝家の宝刀、無回転右足ミドルが炸裂。

惜しくもキーパーにセーブされるも、持ち味を十分に発揮してくれた。

右サイドでの優位性は捨てきれないが、左サイドでも持ち味を生かして相手の脅威となるプレーを発揮し始めてくれたことは、チームにとって好材料である。

あとは、ボールタッチの精度や、ボディフェイントのシャープさが増してくればより怖い選手にステップアップしてくれるだろう。


長谷川元希 狭間

長谷川も福岡戦で自らのアイデンティティを取り戻しながら、いきなりの立ち位置変更で守備の強度不足などを露呈し、連敗の一因となってしまった。

ただ、攻撃面においては、アイデアや意外性を交えて攻撃を活性化することは引き続きできている。

決めにいくことよりも作り手としてのプレーに重きをおいている印象で、ライン間で受けてリズムを整えたり、シュートの一歩手前での違いを出すことに力を発揮している。

28分の中央から右アウトサイドで単独突破し、クロスまで打ち込んだ姿は圧巻だった。攻撃に人数をかけられるようになったことで、石川や関口と有機的に連携して相手を崩せるようになってきている。

だが、その分フィニッシャーとしての精度が著しく低下。作ることと仕留めることの狭間で、チームを勝たせるんだという、ギラギラとした点取屋としての姿は薄らいでいる。

今季長谷川は、ゲームをつくり、チャンスをつくり、シュートを決める。そんな膨大なタスクを課せられ、悩みながら、苦しみながらそのキャパシティを広げてきた。

チームを勝たせられず、苦しい思いもしてきたと思う。そして、確実にそのタスクを背負える選手へと歩みを進めてきたように感じている。

だが、システム変更してからは、ゲームメーカーであり、チャンスメーカー。そこで止まってしまっている。

リラの復調、三平とセンターフォワードが結果を出してくれたこともあるし、留まることない成長で決め切る選手への足がかりを掴みかけている鳥海の存在もある。自分が決めなくても、決めてくれる選手がいる。

だが、現実は長谷川が決めないと甲府は勝てないままだ。

長谷川が甲府で最も得点力、決定力のある選手である。それは彼の大きな魅力であり、失ってほしくないもの。

元エースになってしまった現状を打破し、もう一度エース長谷川の輝きで、チームを勝利へ導いてほしい。

強すぎる責任感✖️決定力
自由と高揚✖️創造力

その狭間の繊細なチューニング。それを今より決定力側にアジャストできたとき、今季の長谷川元希に求められていた究極の姿が顕現する。

顕現、させてほしい。
甲府で。このチームで。

型と反復で打開せよ

ラストパスとストライカーが合わない。これは、今シーズンはじめから言われていること。しかし、改善されてこなかったこと。

例えば、長谷川のアウトサイドパスに反応できないリラ。

例えば、リラのクロスに反応できない宮崎。

毎日一緒に練習している中で、パスの出し手と受け手のタイミングは合っていく。少なくとも対戦相手よりは鋭く反応できていい。

リラと関口が個人練習で培ったクロスからのヘディングは、今や甲府の大きな武器となっている。


40分

山田陸の楔をウィリアン・リラが腰を落とした体を張ったキープ。まるで須藤大輔のように。シンプルに山田に落として、ドリブルで運んだ山田から長谷川。

右足ヒールで関口へ。ディフェンスの意表を突いたトリッキーなパス。関口は完全にフリーで、狙いすましたクロス。

合わせるのはもちろん、リラ!

今や甲府で最も再現性とゴールの可能性を感じさせるホットラインが火を吹く。しかし、クロスバーに弾かれてしまう。

ここで感じるのは、受け手と出し手の反復練習により、チームの武器は作り出せるということ。長谷川のアウトサイドやトリッキーなボールの配球にいかに合わせられるか。

攻撃には無数のバリエーションがあり、同じ場面は訪れないとはいえ、決まった型を反復にて落とし込み、選手が反応できる状況を練習から作り出すことは重要。

型を身につけ、状況に応じて選び、応用する。相手ゴールを破ることについて、状況を全く打開できない以上、セットプレーを含め、いくつかの必殺パターンを徹底的に磨き上げることも大切なのではないか。

全体練習でなくても、居残り練習でも高められることはリラと関口が証明してくれている。

より多くのホットラインの開通が急務。

リラ、長谷川、宮崎、関口の前半に見られた決定機を振り返ってそんな思いが強くなった。

後半開始

リラのポストプレーとプレスバック、ヘディングに選手としての成長を感じる。後半のオープニングシュートも荒木のコーナーキックからのリラのヘディングだった。

球際の粘りでも栃木を上回る甲府は、前半途中から握った主導権を相手に渡さない。だが、相手のブロックの周りでボール回しするだけの時間も長く、総じて動きのない時間帯がゆっくりと過ぎていくのであった。

鳥海、三平投入

鳥海投入に伴い、長谷川が左、鳥海が右にスタートポジションを移す。

その鳥海が、早速チャンスを作る。須貝が左大外でボールを受けると、すかさずダイアゴナルに走り出し、ボールを引き出す。

うまく相手に体を預けてボールを保持すると、フォローに走った須貝にテクニカルに繋ぐ。須貝もドリブル突破でペナルティエリアへ侵入し、思い切ってシュートを放ち、コーナーキックを得ることに成功する。


飲水タイム後にシステムを3バックに戻した甲府。右ウイングバックに関口、左ウイングバックに荒木。

立ち位置を変えて局面の打開を図る。

そして、73分

甲府最大のチャンスが訪れる。
石川から裏抜けする鳥海へダイレクトパス。完全に抜け出す鳥海。キーパーの位置を確認して、ゴールファーサイドに完璧といえるシュートを打ち込む。あの場面において、本当に完璧で、最高のシュートだった。

それが無情にもポストを叩いてゴールに収まってくれない。なぜなんだ!叫びたくなる気持ちを抑えられず、頭を抱える。

関口も詰めていた。だが、こぼれ球もこぼれてはくれなかった。

こうなると、心配なのはカウンターからの失点。取るべき場面で点が取れないと取られるのがサッカーの常。

立ち位置のズレはまず、甲府に良い方向に作用したが、これまでうまく行っていたディフェンスのバランスを失うリスクも伴うことも怖かった。


カウンター一閃

そして、恐れていたことは現実になる。
きっかけは、三平と栃木DF2人の空中の競り合いで三平が痛めたところから始まる。一つ前のプレーで相手のボールタッチをオフサイドにされていたことも選手の脳に負荷をかけていた。

主審へと飛ぶ抗議の声。最前線のチェイサーを失った甲府。そこを余裕を持ってドリブルで持ちあがる森。

山田と長谷川の間でボールを引き出す高萩。1つのファールの判定をめぐる集中力の欠如。こんな隙すらもサッカーの神様は、見逃してくれない。栃木の攻撃のキーマンに対する寄せが、甘い。長谷川が反応しきれない。

反転して放たれるジュニーニョへのボール。根本が甲府のウィークであるマンシャの背後をとって走り出す。浦上が根本についていくのかと思いきや、ジュニーニョのシュートコースを塞ぎにいく浦上。

これで甲府の3バックは完全に崩壊した。須貝が一歩中にいれば、浦上が前節体にシュートを当てられていたら、河田の適切なコーチングがあれば、あるいは防げていたかもしれない。

しかし、失点は、それが必然かのようにさまざまな偶然の積み重なりによって生まれてしまった。

数々の好機を決めきれず、オフサイドでなかったにせよ枠に飛ばせなかった甲府と、きっかけはなんであれ、唯一の枠内シュートを決め切った栃木。

0-1

完全に勝利が見えていた流れの中で、ワンチャンスに沈む。前回対戦の栃木の素晴らしさを凌駕し、甲府の成長を見せられていた内容だっただけに痛恨の失点となってしまった。

栃木の喜びようが、この試合の苦しさを物語っているようだった。


勝ち点を目指して

20試合目の先制を許した甲府は、ジェトゥリオを投入して再び4バックに戻す。

その矢先だった。相手の執拗なプレッシャーとファールを受けた怒りが暴発。マンシャが報復のキックを見舞って一発レッド。

反撃ムードに水を差す残念な行動を起こしてしまう。

しかし、数的不利となっても甲府は攻め続けた。相手が守りに入ったこともある。それでも、得点の可能性を少しでも高めようとチャレンジし続けた。

長谷川のスルーパスに鳥海が抜け出し、さらに
裏抜けするジェトゥリオへ。ジェトゥリオも相手の股下を狙ったシュートを放つ。

ようやく相手の脅威となれそうなコンディションまで上がってきたジェトゥリオの動き出しだ。

さらにジェトゥリオの鋭い動き出しから左サイドの最奥をとると、須貝に落として、そのクロスから三平ヘッド!

枠を捉えられないものの、やはり鋭さを増すジェトゥリオ。

鹿島戦という大一番を前になんとかアジャストさせられたかもしれない。

そして、今季はじめて、負けているセットプレーでキーパー河田が攻め上がってくれた。勝ち点へのこだわりを見せてくれた。

このチームに足りない勝ち点にこだわる気持ち。パワープレー、求め合い、高め合う声の掛け合い、ゲームプランへの意思統一。かけるべきときにかけるリスク。

まだ不完全ながら、勝てないからこそ劇的に高められた勝利に必要な要素。

それらを胸に刻み、チームは最後まで戦ってくれた。だが、手にするはずの勝ち点は手中から取りこぼし、屈辱の6連敗が2022の歴史に刻まれた。

届け

そんなあらゆる足りないもの。連続引き分け、連敗を経て、選手も監督もそれと本気で向き合い、突き詰め、自分ごととして血肉に変えてきた。

今年を振り返って思うことは、勝ち負けに関係ない部分における吉田流ポジショナルプレーという外骨格だけは一年かけて形成された。

しかし、伊藤彰体制下で積み上げてきた勝つための血肉も骨も、新たな骨と一体化することは叶わなかった。

昨年度の指導陣の的確なティーチングによって上位進出を果たした若いチームは、自らの思考によって正解を掴み取らせる吉田流の中で迷い、苦しんだ印象だ。

よいサッカーはできるが勝てない。そんな現実を突きつけられ、もがき苦しみ、最終盤の連敗でいよいよ勝つために必要なサッカーの本質にチームとして一人ひとりが主体的に向き合える集団へと進化を始めている。

皮肉なことに、結果が出ないことで、選手たちの勝利への渇望は本物になった。監督の指示ではなく、チームとして自ら、自発的にその骨を動かす血肉を急速培養できてきているように思う。

ありえないほどの我慢をクラブに、スポンサーに、サポーターに強いながらも、ようやく今年のチームは1つの答えに辿り着こうとしている。

どんな逆境になろうとも自分たちで道を切り開ける、真の大人のチームへの変貌である。

思えば、今年のチームは幼かった。つい最近まで自分たちの問題を、遠慮してぶつけ合えないチームだった。旧主将の存在の大きさを嘆く選手もいた。

だが、失った彼の厳しさを、複数の選手たちが補おうと動き、精神的な成長を促された。その筆頭が関口だと感じている。

あと少しで勝利へ届く。
でも届かない。そんな試合を6試合続けてきた。届きそうで届かない苦しさ。

ブーイングをぶつけるべき試合だったのかもしれない。

新潟戦、横浜戦のように。


でも今振り返ると最後まで戦う姿勢を示せなかった新潟戦はブーイングで良かった。

横浜戦は戦う姿が見られていただけに手厳しく感じた。

6連敗目のこの試合はどうだろうか。

選手たちが挨拶に回る中、サポーターが彼らに届けたのは精一杯の歌とメイン、バックからの手拍子だった。

甲府愛する友のために
俺たちクルヴァで歌う
勝利を信じて声を張り上げ

届け 俺らの思い


今日の戦いは、負けたことが不思議なほどに勝利に近づいた、勝利に相応しい試合だった。

それでも届かない。
届かなかった。
あれだけ勝利を目指して戦ったのに。

それならば
届かなかった一歩を、届かせられるようにと、思いを歌に乗せることが最善だったと思う。

そして、思いは届いたとも思う。

雨降って地固まるというには、大雨が過ぎるけれど、ともに辛い時期を過ごしたからこそ得られた一体感や連帯感がある。

止まない雨はない。
止まらない連敗もない。

リーグ残留まであと一勝という監督に悲しいハードルを作らせてしまった。

ならば天皇杯決勝進出という前向きなハードルも設定しよう。

大きなジャンプを届かせるためには、大きく沈み込むことが必要だったんだって、意地と胸を張って心の中で言えるように。

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