秋田先生 @akita11 の深セン滞在から感じた、海外生活やプロジェクトを成功させるために重要なこと

4ヶ月あまりで多くの成果を生んだ秋田先生のサバティカル

2022年の5-9月、秋田先生は4ヶ月あまり(隔離などを入れて5ヶ月、プログラムとしてのサバティカルは6ヶ月)の深圳滞在を終えました。見聞きしたことはここにまとめられています。

  • 自分で設計した製品を2つ(ほか設計中1)、深圳のベンチャーM5Stackと一緒になって世界に向けて売り出す

  • 現地のVCと提携して金沢大融合学域の留学プログラムを作る

  • 拠点としてのメイカースペースを作る(上記のプログラムあわせて、今後も深圳に拠点をおいた活動を続けるため)

  • 南方科技大、深圳大学、山東省シ博市ほかで講演や交流をし、コンピュータやロボット関係を中心に多くのベンチャーと交流して、中国の半導体についての生の調査をする

など、具体的な成果のサマリだけ見ても価値があるし、サバティカル前に自分の予想よりも得るものが多かったと感じました。

僕と秋田先生サバティカルとの関わり

僕は隔離終了時のホテルへの出迎えから、帰国前日のJENESIS藤岡さん/HCI研究の福本博士/M5Stackの村谷さんでの飲み会まで、多くの行動で一緒でした。毎週2-3回は一緒に会社訪問したり、何かを分解したり、ガジェットを試したりしていたとおもいます。
僕もよく、「深センでうまくいくには何が必要ですか?」と聞かれます。自分自身の経験をよく話すのですが、それではn-1だし、もう外国に出て10年近い人が言っても、特例になりがちです。
秋田先生は初めての海外ぐらし(一人暮らしもひさしぶり)で、工学部の博士という比較的n数の多いバックグラウンドをお持ちです。そして、今回のサバティカルは大成功で、深圳に来る多くの人のヒントになりえると思います。何より僕自身、秋田先生を見ていて学ぶことが多かったです。
多くの分野で僕より詳しいから教えてもらったことも多いし、自分が勝手に思い込んでいたことに気づく機会にもなりました。

横で見ていて僕が感じたことを、忘れないうちにまとめておこうと思います。このあと深圳に来る人に向けて、大きなヒントになるんじゃないかと思っています。

具体的な、自分がハンドルできるプロジェクトが、なるべく沢山あると強い

「具体的」のよさ

有名なものをよくわからず紹介するだけの知識や、表面を撫でるだけの視察が、あまり成果につながらないことはよく知られています。

秋田先生がサバティカルで、M5Stackでのインターンをしたことは、すごく良いことだったと思います。秋田先生はM5Stackの拡張製品アイデアがいくつもあったし、M5Stack側もそういうアイデアを受け入れる素地がありました。もともと仲良しでもあったので、インターンの話はすんなりまとまりました。

限定・記念品的な製品づくりよりも日常的なプロダクトに持っていったのは大成功だし、M5はその後も様々なエンジニアとオープンなコラボレーションの機会が増えているので、彼らにもメリットがあったと言えるでしょう。

僕も2014年4月にメイカーフェア深圳に参加して初めて深圳を訪れてから様々なプロジェクトを始め、翌年の2015年5月にはMaker Faire Shenzhen 2015の運営チームとして1ヶ月Seeedオフィスに出勤して一緒に働いていたことが、今の深圳での様々な仕事につながっています。(詳しい経緯は市原えつこさんのインタビューに

「自分がハンドルできる」ことの良さ

プロジェクトの内容や報酬の有無よりも、「双方仕事と思って具体的に試行錯誤し、手を動かす」ことが大事で、それをやるとお互い何ができるかわかるし、様々な新しいことを、「コイツならどうやって対応するか」がわかるようになります。
深圳みたいな街なら、お互いそこから他人の紹介がはじまって、別のプロジェクトにつながっていくことはとても多いです。なので、ハードウェア設計に限らず、ビジュアルデザインでもイベント運営でも、自分でハンドルできる/動かせることが大事です。決定権者が他にいたり、指示がないとできないようなものよりも、規模や内容はともかく主体的に動ける方が、相手から見て話しやすくなります。勤務先や仲間の存在は大事だけど、たとえば「自分の研究内容を紹介する」「自社を売り込む」などなら自分がハンドルできるプロジェクトになります。

沢山あることの良さ

秋田先生は自分で電子工作をする、製品を作るというほかに、本業である半導体/知覚センサの研究者としての専門性や、ロボカップOBとしてのロボット方面、中国の科学技術支援や半導体開発、イノベーション研究など、多くの分野に関心があって、それぞれ関連しています。
学生のインターン先を探す、半導体開発や技術系の製品開発を調べる(それぞれ研究活動や、レポートや講演につながる)過程にするなど、いろいろなプロジェクトがあると、協力できる相手が増えます。

協力できるかどうかは、めぐり合わせや環境みたいなもので決まります。ひとつの評価軸で点数を上げていく/チェックボックスを埋めてくようなやりかたよりも、プランB,Cも受け入れられる自由さがある状態で、多くの相手アプローチするほうが、様々な協業ができる確率は上がると思います。評価軸の種類と、それぞれの方向性ごとに会う相手の数、どちらも重要です。

技術とプロダクトを中心に手を動かせること、ハンドルできることがたくさんある、いろいろな方面に関心があることは、バニー・ファンとも共通点があり、深センでうまくいくためにとても有利なことだと思います。

中国語はできなくてもいいが、学ぶベクトルがすごく大事

外国でいろいろな会社と協力するときに、語学の話はいつも聞かれます。深圳は、英語だけでも面白いコラボがたくさん生まれるところです。

英語だけでも面白い深圳

2017年に深圳にサバティカルされた、伊藤亜聖先生のレポートに、深圳と英語について載っています。

非チャイナスペシャリストに発見されるくらいTechでStartupでMakerな街が中国に生まれていて、だからこそ大事で面白い。でもそこは平均的中国ではない

深圳の、あるいは現代のテック業界知りたいなら、英語でいいじゃん、ということです。(そのうち英語すらもテクノロジーの進展で不要になるかもしれません)

https://aseiito.net/2017/04/09/shenzhen_2017_2/

↑このレポートは、「伊藤先生が高須のやってることを見て書いてくれた」もので、これを見て自分が知らなかったことが沢山発見できました。今回、秋田先生のレポートを見て自分がこの文章を書く理由の一つです。

『中国のレストランで自力で中国語で注文し、支払いを済ませられる程度には中国語ができますが、おそらくまだプレゼンはできませんし、「弊社は2015年に創業し、2年間の間に急成長したカメラメーカーです」といった中国語は理解できない』
秋田先生は2017年当時の僕とどっこいどっこいの中国語だったと思います。

テクノロジーの研究や提携なら、だいたいそれで要は足りてしまいますが、秋田先生は滞在時、自分でマイコンメーカーのリスト・辞書を作る、中国語の本を買う、翻訳機を買って持ち歩くなど、中国語が必要なところは中国語でやろう、という姿勢が見れました。
滞在時、秋田先生の中国語レベルは月単位で見ると相手に伝わるぐらい上がっていたと思います。このベクトルはすごく大事です。

中国語を毛嫌いすると世界が狭くなる

なぜかはわからないのですが、語学が苦手な人で、機械翻訳も使わないし、外国語になると見ない人が結構います。
また、一つ外国語できる(例えば英語ができる)人で、他の外国語になると急に「その言語のものは見ないし、おぼえない」となってしまう人も結構います。

僕ら日本人はほとんどの漢字が読めるので、中国語で書かれたPPTは、自分の得意分野なら、「見ればだいたいわかる」ものになっています。「英語か中国語か」にとらわれすぎて中身を見なくなるのはもったいないし、秋田先生は中国語でも、面白そうな本は資料としてバンバン買っていました。僕もテックニュースで一番良く見てるのは中国語のものです。

英語や日本語のもののほうが、もちろんもっと早く間違いなく読めるのですが、僕もまだ中国に来て日が浅いので、自分が知らない面白いものを見たいのです。苦手意識よりも、「面白そうなものがそこにあるので見る」が前に出ている方が世界は広がるし、似たような人が集まってきやすくなります。

学ぶベクトルとは

まだ実用上は問題が多いのだけど、嫌いではないし、向上しているというのが相手に伝わることは、大きな信用に繋がります。
僕の中国語も相当ボロボロで、細かい話になると英語に変えてもらうことも多いのですが、いちおう継続的に勉強をしていて、たまに会う相手から見ると、少しずつは上手になっていることが相手に伝わっているようです。

深圳は新しい試みの多い街で、「わからないものに歩み寄っていく」という姿勢がまわりに伝わる方が、良い人間関係を作りやすいです。
現在のレベルは問わず、「言葉はできないんだけど、だんだんマシになっている」というベクトルを見せる一つのポイントとして、中国語は役に立つと思います。

何よりもインタレスト駆動であり、パワフルだったこと

今回のサバティカルは、「何をすればいくら貰える」「終わりまでに何を達成しないとならない」という、よくある仕事ではなかったと聴いています。
結果が全然約束されない日々の中で、面白そうだという感覚だけを頼りに時間やお金を使ってで飛び込んでいくわけです。
だからこそ新しいこと-工場見学ビデオづくりとかオンラインイベントとか-にしょっちゅう誘われ、すぐ決定できて、期待外れでも別のことに迎えます。

深圳の1週間がシリコンバレーの1ヶ月、毎日がメイカーフェアみたいな深センだと、いろいろ消耗するし、日々が濃いわけです。秋田先生のnoteに「設計→製造のイテレーションが早く進んで快適」とありますが、つまり設計の回数そのものは増えている。
面白がらないと続かないのだと思います。
このインタレスト駆動は、何度か原稿を書いているけど、僕はなかなか言語化できてなくて、でもおそらく一番大事なポイントです。
プロの博士・研究者というのはすごいものだと思いました。自分の活動量も、その間は何割か上がったと思います。

パッとおもいついたのは、具体性/専門性についてと、中国語についての、この3つ(大見出し3つ)です。
他にもいくつか、思い出すことはあると思うので、また追加すると思います。
もしまだ読んでないなら、ぜひこの本記事を読みましょう


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