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#MicroMBA 第4回 Design UXという概念の総本山、カリフォルニア大DesignLabのマイケル・メイヤー講義。 誤解のほうが本質より広まってて残念な「デザイン思考」とは何で、どう実現するか

過去6回の講義はマガジンにまとめた。

超豪華、DesignLabのマイケル・メイヤー本人が先生

カリフォルニア大Design Labの教授で「誰のためのデザイン」のドン・ノーマンとも論文を共著しているマイケル・メイヤーはこのMicroMBAコースを早稲田大学と共催しているUC San Diego Rudy schoolの先生でもある。
なので、今日の広義はマイケル・メイヤー本人から講義をしてもらう。彼が経営であるRudy Schoolで先生をしている意味と同じで、経営やりたい人がデザインやることはすごく意味がある。デザインも経営も意思決定と選択で、組織運営がどんどんコンピュータの力を借りて省力化されている今、経営とプロダクト開発はほぼイコールで、プロダクト開発とデザインはイコールだからだ。

自分ののぞみは自分でわからない

授業は大気圏突入機のビデオ紹介し、そこでどうデザインがワークしたかをディスカッションしたアイスブレイクの後、Appleにおけるジョブズやフログデザインの紹介をして、
「人々は自分が望むものを、目の前に出てくるまでは理解できない。予測できた人は天才だ。天才はどうやって、他人ができないことができたのか?」
がテーマだ。

人々の要望は多様だ。年齢によっても性別によっても人種によっても好みが異なる。正解に近づく一つの方法として、プロダクトを作るチームそのものが多様であるべきだ。デザインは最終的に一つのものに集約する仕事だけど、もとの選択肢が多いか少ないかは大事だ。

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↑リサーチからデザインを決定していく図。資料は全部コピーライトありなので、引用はこれと、後で紹介するもう2枚の計3枚の最小限にする。
アイデアを形にするための、たくさんの有名なフレームワークが紹介された。そのなかでメイヤー自身が一番大事にしている、デザイン思考のダブル・ダイヤモンドとして紹介したのはこれだ。

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このフレームワークの核は、
ー問題を正しく捉えること
ーソリューションを提供すること
ーどちらも、一発で正確にヒットすることはないので、問題そのものの捉え直し、ソリューションそのものの捉え直しをちゃんとしたプロセスとして行うこと

特に、「わかっててもできない」「そもそもその問題に気づかない」という点で3番めがとても重要だ。PDCAでいちばん大事なのは最後のAなのだけど、なぜか20世紀的な古い組織だとPやCをやる人が声がでかくて一番給料がたかい。

演習:シュガーバーをデザインしよう

やりかたや重点がわかったところで演習だ。女性が朝キャンディバー(スニッカーズみたいなやつ)を食べてる写真が紹介されて、7人ずつに分かれて「新しいキャンディバーをデザインしよう」というお題が出された。
各チーム結果をシェアしたけど、「砂糖が多すぎるし不健康そうなのでなんとかしよう」的な回答が多かった。僕が思いついたのは、「もっとエネルギーが長持ちするようにしようぜ」だったけど、どっちにせよキャンディーバーの枠から抜けるものではない。

メイヤーが紹介したのは、「キャンディーバーみたいなスナックの市場は、アメリカでは車通勤する間で消費されている。僕らは道路や車にカメラをしかけて、人々が車の中で調査をした」という話を紹介して、車の中の行動を紹介した。
「多くのアメリカ人が社内で電話をしている。それは退屈だからだ。同じ道を運転するのはあんまり面白くない。なので、そういう問題を解決するための別のプロダクトをデザインしよう。ただし、キャンディーバー工場で作れそうじゃないとダメだ」

そしてまたブレイクアウトルームでディスカッションになった。
ー運転中だから、もっと開けやすいのが良いんじゃないか、片手ふさがってるし
ーパッケージの外面にQRコード入れてなにかゲームみたいなのをできないか
ーそもそも退屈を紛らわせる化学物質、カフェインとかカンナビノイド入れようぜ。運転に支障なさそうなやつあるだろう(高須)
ー退屈なドライブに意味をもたせる、キャンディーバー食べることでアフリカの飢餓で悩む人が一食メシが食えるみたいな機能入れようぜ(高須)

みたいな、より広めのアイデアが出た。演習の本質は、「こうやって問題を捉え直すこと」だ。

ほしいのはドリルでなく穴。結果が出ないと意味がない

どこの会社も、デザインというプロセスが大事でなくて、結果を大事にしている。イギリスでの調査では、デザインに力を入れている企業の方が平均のS&P500より結果が良いという紹介がされ、「なので、デザインを経営の中心において、デザインドリブンの会社にしていく」をDesignLabは提唱している。

(僕は、冒頭で経営=デザインと言ったように、デザインドリブンそのものには大きく賛同しているが、株式や利益の例はマユツバだと思っている。たとえば環境保護募金とかやってる会社は、そうじゃない会社より儲かっている。それは、募金をやるから儲かるんじゃなくて、儲かってるから募金やる余裕があるというだけの話だ)

どうやるとデザインドリブンの会社になるか、ということについて、SAPやIBMの例が少し説明されたが、そのへんは時間がないし、SAPやIBMの問題に僕の知識がなくて、きちんとはわからなかった。
この「デザインドリブンの会社にしよう」というメッセージも、デザイナーにもっと経営権利を与えよみたいなイキりメッセージが混ざって、日本では早速誤解が始まっている気がする。ドラッカーの「文化は戦略なんか朝飯にしてしまう」という言葉が紹介された。まさに、「自分がえばりたい」という文化が、いくつかのデザイン思考の誤解を生んでいることはある。
(もっとも、僕もえばりたい文化はある。僕の普段のメッセージは、デザイナーをエンジニアに置き換えたら、デザイン思考の話でイキるデザイナーとだいたいそっくりだ。僕自身がイキりたがる人なので、他人のイキりには結構敏感だ。中国がすごいからオレもすごいとか、デザイン思考がすごいからデザイナーのオレもすごいとか、どれもかなり気になる。)

Theory EとTheory O

こうした結果重視、フィードバックと実行重視の文化として、エンジニア的なアプローチのTheory Eと文化的なアプローチのTheory Oが紹介された。この2つは優劣ではなくて、2本の撚り合わされたロープのように機能するものだ。

この記事は授業と関係なくググってて見つけたものだが、トヨタを例にTheory EとTheory Oについて考察したもので面白かった。カイゼンはまさにデザイン思考的な側面があるし、最短時間でとにかく実行、やらないと改善ポイントもわからないみたいな例で、リーン・スタートアップもトヨタのカイゼンをすごく褒めている。(同時に、無駄をなくすためにちゃんと考えることが大事なんだ、という逆方向の誤解を日本で産んでいる)

宿題「誰のためのデザイン」

今日の宿題は名著「誰のためのデザイン」のessenceを10ページぐらいにまとめた文書を読んでおくことだ。日本にいた頃はHCIの研究者の友だちが多く、分野的にまあまあ近い。(スイッチサイエンスのお客さんにもすごく多い)
インターネットプラス研究所を一緒にやってる@Shaoさんは、この本の翻訳やったSFC安村研の卒業生だ。
僕自身も昔図書館で借りて読んだ記憶があるけど、何しろだいぶ昔に読んだし、似たような内容の本も多いので、この本に書いてあったのがどこからどこまでだかはいまいち自信がない。これを気に読み直そうと思ったら日本語ではKindle版がない。

Kingsoft PDFとDeepLで機械翻訳つかって省力化

デザインの話だから抽象的な話が多くて、僕が普段読んでる英語のデータシートや説明書とかとは違う文章で、10ページも辞書引きながら英語読むのはちょっと面倒だ。
幸いPDFはパスワードかかってないやつだったので、KingsoftのPDFソフトでwordファイルに変換し、DeepLに食わせてざっと翻訳したやつをつくり、英語版と照らし合わせて読んだ。これは中国語の文書でもよくやる。(中国オープンソース年度報告の翻訳でもやった)コンピュータの力はどんどん使っていこう。

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さすが研究者の書いた文章。一発でかなり意味が通る文章が出てきた。
さて、 #MicroMBA という授業の性質上、僕がこうやって効率的に英文を読むことはまったく問題ないが、機械翻訳したPDFやこのやり方を事前にシェアするのはネタバレ的でよくないだろう。(MicroMBAの学生から受講者Slackで直接連絡きたら和訳のPDF渡すので、takasu masakazu を探してください。それは良い気がする。怒られたらやめます。)

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デサイン思考の本質

去年の3月に、多くの知人が参加しているこの本を読んだ。

これは、ドンノーマンやメイヤーたちがやっているスタンフォードのD-Schoolで学び、自分でもそのメソッドを東工大でやっている斎藤先生を中心に書かれた本だ。すごく面白い。

「デザイン思考」や「デザインドリブン」という言葉の中に、頭の中や言葉だけで終わるものは一つもないのだけど、世間では多く誤解されている。残念ながらそれは言葉で終わらないぶん理解されづらいので、単なるアホの思いつきにデザイン思考だのUXドリブンだののラベルを貼っただけのゴミがネットには溢れている。例えばこんなのだ。↓(これはプロダクトとUX、ドリブンなどの使い方が全部逆方向に間違ってること、ツイート主が他でやってた経歴ゴマカシなどなど全部ひどいから、別の意味で有名になったのかもしれないけど...)

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本質は「デザインはそれを使う人間のために行うものなので、実際に目的の行動を実現させるためにデザインすること。そして、他人はゼッタイ自分の思う通りに動いてくれないので、試しに作ったものを使ってもらって、そのフィードバックを繰り返すこと」だ。つまり、
・つくること。かたちにすること。
・結果重視。何考えて作ったのかはどうでもいい。
・結果はユーザが判断する。ちゃんと使ってもらって、そのフィードバックでさらに改善すること
それがデザイン思考の本質で、他はどうでもいい。

ジョブズは復帰後のアップルでデザインに関わるようになったときに、デザイナーたちが壁に貼っているPPTの目標を全廃させ、デザイン室に大量のCNCマシンや3Dプリンタを運び込ませて、
とにかくモノをもってこい。モノで女性向けとか老人向けとか一発でわからなかったら意味がない。PPTからデザインの話を始める能書きデザイナーは全員クビ」みたいなことを言ったらしい。これがデザイン思考だ。

↑この話はアイザックソンのスティーブ・ジョブズ伝記かジョナサン・アイブ伝記のどっちかで読んだ。

もちろんメイヤーとノーマンは、デザイン思考についてそのように書いている。この「Design Thinking, Design Doing, and Design-Driven Transformation」というタイトルも、Design ThinkingにThinkingとつけちゃったので誤解のほうが広がるのが嫌になって、「デザイン行動」って言い出したのだろう。案の定、授業でもこんなスライドが出た↓

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行動経済学とデザイン思考はそっくりというか同じものの別の側面

最近流行りの行動経済学も、デザイン思考と極めて近い関係がある。行動経済学も、デザインと経済学の違いだけで、どっちも人間を相手にしていることなので、この2つはそっくりというか、同じものを別の角度からみているだけだ。

本質は「経済学はそれを使う人間のために行うものなので、実際に目的の行動を実現させるために経済学をすること。そして、他人はゼッタイ自分の思う通りに動いてくれないので、試しにやったものを使ってもらって、そのフィードバックを繰り返すこと」だ。つまり、
・つくること。かたちにすること。
・結果重視。何考えて作ったのかはどうでもいい。
・結果はユーザが判断する。ちゃんと使ってもらって、そのフィードバックでさらに改善すること
まったくおんなじだ。アホが適当な思いつきをナッジという誤解が広まってるのも同じ。

これは質問したくて、最後の質問セッションで、「行動経済学とデザインシンキングは同じものの別の側面で、リーンスタートアップもかなり似てない?」という質問をメイヤーにしたら、
「行動経済学とデザインシンキングについては全くそのとおり。同じものを、別の言葉と別のバックグラウンドの人が説明したものだ。」という言葉と、「リーンスタートアップは、どちらかというと"最小限のリソースでやる"というところに力点が置かれているから、ちょっと言いたいことが違うかも。僕たちの仕事は、何かを削ろうとするところに力点は置いてない。十分なパワーがあるけどうまく使えてないところでワークする。似ている部分もあるけど、デザイン思考はあれもやろう、これもやろう、リーンスタートアップはあれはやめよう、これはやめようだ。」という、すごい納得感のあるanswerをもらった。こういうやり取りからも、メイヤーの考え方がわかるし、僕は大好きになった。
感謝のコメントを添えて、「とてもよくわかりました。ありがとう。ちなみにその3つ、デザイン思考と行動経済学とリーンスタートアップ、Well known, Well misunderstood (よく知られるぶん誤解も増える)なところもすごいそっくりだね」と返したら、大笑いしてサムズアップしてもらった。大成功。こういう、別の学問がガチっと噛み合う瞬間は大好きだ。

この質問には牧先生が追加して、牧先生が問題意識にしている「僕は経営みたいな、ちゃんとした正解がないものがサイエンス足り得るかという問題意識をずっと持ってるのだけど、デザインもサイエンスになるのかな?」という質問があり、ここもメイヤーから「コンピュータサイエンスがサイエンスなんだから、デザインもサイエンスだろう。」という明確な回答が来た。この答えも牧先生の「サイエンスとはなにか」という問題意識も大好きだ。

デザイン思考とは必要な人が自分で手を動かすこと

メイヤーの文書は、これまで書いてきたようなデザイン思考の後階から始まり、デザイン思考とはなにか、どうやってデザイン行動が実現するかについて書いてあるものだった。

ただ、実際問題として、デザインを専門家に任せているようだとデザイン行動は難しい。デザイン行動を実現する唯一の方法は決定権者がデザインチームに入ることだ。美大や工学部を出てないことや、Photoshopが使えないことは、そこでは問題にならない。ジョブズはどれもできなさそうだし。

そもそもほとんどのデザイナーも、「アイデアを形にする」トレーニングや経験が多いことが専門性で、それはデザイン思考のごく一部だ。そもそもの問題が間違っているときにデザイナーのできる仕事は少ない。必要なのはちゃんとした問題を解くことで、それはプロジェクトの当事者が、体験の中で掴むやりかたが一番手っ取り早い。
僕の務めるスイッチサイエンスにはちゃんとしたデザイナーもエンジニアもいるけど、僕はカンタンなものならバナー画像や動画のサムネイル、いくつかのソフトウェアは自分で作るようにしている。目的やニュアンスをちゃんと伝えるのはかなり難しいし、フィードバックが自分に来ないと意味がないからだ。たとえばブログのサムネイル画像は、人によっては顔写真のほうがいいんだけど、僕の顔よりもプロダクトそのもののほうが良く読まれる。

もちろん、これはブログや対象の性質によって変わる。人間は様々な答えを出すものだ。そして、理詰めで予測できる範囲と違う回答にたどり着いたら、それはしばらくの間(コモディティ化するか、人間がまた変わるまで)はアドバンテージになる。そのアドバンテージは僕のビジネスにはとても大事なものだ。

文書の最後の章「Design Driven Transformation」は、まさにここで僕が書いてきたようなことのために、大企業の経営層をデザインのチームに入れるにはどういうアプローチが有効かを語るものだった。

90分の予定がディスカッションが盛り上がって2時間も話してくれた。ありがたいなあ。

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過去6回の講義はここにまとめた。


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