身体で覚えたはずのことができなくなるという流れ
今朝は珍しく寝過ごしました。起きたら9時でした。慌てて娘の薬を用意していると、これも慌てた様子の妻が起きてきて「どうして……」みたいな感じなのですが、それはともかく慌てて薬を用意して娘に声をかけ、塩分チャージとバナナに続いて薬を飲んでもらいました。
妻と私もバタバタと慌ただしく朝食を済ませ、すぐに片付けに突入します。今日は娘の部屋の棚の中身を片付ける予定です。
棚は3段のオープンタイプです。無印良品だったかなあ。一番上には娘のはがきや手紙とバイオリン、バイオリンの楽譜が載っています。妻がどんどん片付けます。棚の横にゲームボーイ3DSとWiiのゲームが山積みになっています。私はそちらのカートリッジを一心不乱に拭いていきます。ホコリはひどいのですが、妻と娘が不在の間にかなり熱心に掃除しておいたのが少しは効いているようです。アレが無かったらもっと大変なことになっていたのは間違いありません。
お手紙などについては捨てて構わないとの旨、妻が娘に確認しています。なので、どんどん捨てます。が、たまに娘の写真が入っているものがあったりします。写真が入っているものは保存です。
娘、以前よりさらに文章を読むのは厳しいようです。子供の頃からまとまった文章を読むのはダメでしたが、病気の影響で「読む」については壊滅的な状況です。
二段目は娘の学校の文集とバイオリンの楽譜と妻のゲーム攻略本です。学校の文集も捨ててかまわないということで妻が確認しています。とにかく、文字は読みたくないというより「読めない」ようなので、無理にどうこう言うつもりはありません。分けておいたうえで、後で紐で縛って資源ごみに出します。
三段目はほとんど妻のゲームとゲーム攻略本です。攻略本は取っておくかどうか迷いましたが、ここでついに妻が捨てると決断。どんどん重ねていきます。かなりの冊数です。
棚を片付けた段階で午前中はほぼ終了。昼食はどうするか迷ったのですが、ハンバーガーを買いに行くことになりました。もちろん、私が自転車で。
ハンバーガーは娘も食べます。久しぶりに食べようかと買ってきたアップルパイも娘の胃袋に収まりました。引き続き、午後の作業です。
午後は棚の続きと娘の机の上です。私がハンバーガーを買いに行っている間に妻がどんどん進めていました。とにかくどんどん捨てていきます。迷ったら捨て、そんな感じです。片付けの場所は娘の机の上から机に乗った本棚へ、さらに場所を変えてアップライトピアノの周辺へ。
夕方になってようやく一旦収束へ。娘の布団が敷けるよう、床に掃除機をかけたりします。この時点でヘトヘトですが、そう簡単には終われません。
なんとか娘の布団を元に戻すところまでたどりつきました。しかし、廊下に出した冊子や紙ゴミは縛ってゴミ置き場まで運ばなければなりません。
だいぶモノが減った部屋の中と机の上を見て。本人は何もやっていないのにうっすら満足げな娘ではありましたが、一角で目が止まりました。
「大学の教科書は?」
教科書も捨てて良いと妻が聞いていたはずなのですが、違ったのでしょうか。それならそれで、本の類はまだ捨てていないので、元に戻すべく運んできます。生化学の教科書がありました。
「いや、これじゃなくて」
「これ、教科書だよ」
「そうじゃなくて、青いボックスに入った……」
「青いボックスにはノートだけで教科書は入ってなかったよ」
「青いボックスが……」
話が噛み合わず、ついこちらがイライラしてしまいます。
「教科書って何の科目?」
「だから、大学の教科書……」
思わず「あっ」と声が出そうでした。娘が行っているのは私が理解している「教科書」ではなく、どうやら自分で書いたノートのことを言っているようなのです。
「青いボックスにはノートしか入ってなかったよ。ノートは捨てたよ」
「見たの?」
見てはいましたが、この状況で「見た」というのはあまりに危険です。
「見てないけど捨てたよ」
「そう……」
なっとくしたのかどうかは分かりませんが、この話はここまでだったようです。
捨てた娘のノートの一部には、娘の脳内で繰り広げられた妄想の一部が書きつらねられていました。本人の記録といっても学術的に意味のあるようなものではありません。微妙にピントのずれた「記録」が綴られているだけです。しかも、微妙なことに、娘の「記録」は、誰か第三者が望んでいる方向に微妙に修正されたものであったりするわけです。
統合失調症の初期に調べた病気の進行度合いの中で、出来なくなっていく流れとしてざっくり、読書→ゲーム→自転車等という方向性が示されていました。読書は文字を読むという行動、ゲームは映像から情報を得るという行動、自転車等というのは考えてどうにかではなく身体で覚えるタイプの動作について、ということです。
娘は既に、本はもちろん、簡単な説明書き程度の文章でも読むことはありません。読めないようです。ゲームももうやりません。疲れるそうです。そして、考えてどうこうではなく身体で覚えたはずの楽器、バイオリンもピアノも、今はもう触ろうともしません。
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