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窓のカーテンがはためいている理由

 ある町に3人家族がおりました。
 仲良しのパパとママと小さな女の子。空にはお日さま、庭には花たち。かわいい家で仲良く暮らしていました……

 という物語が始まりそうな絵皿です。

 作者は絵本の挿画家としても知られるスウェーデンのデザイナー、スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg | 1916-1982)。

 
 リンドベリの描く人々はお日さまのような丸顔が特徴です。


 家族の絵皿はスウェーデンのBOROという建設会社からの依頼で制作されました。きっかけはリンドベリの新居を同社が建てたこと。社名にちなんでBOROと名づけられたシリーズは一般には販売されず、顧客へのプレゼント用として配られました。現在では入手の難しいヴィンテージ品です。

 近寄って家の中を覗いてみましょう。

 軒先の鳥かごにはオウム。
 きょとんとした目がかわいいですね。

 家の中ではパパがパイプをくゆらせています。
 ママはテーブルの鍋の蓋に手を添えています。

 北欧好きの人ならこの鍋のかたちに見覚えがあるかも。リンドベリが考案した耐熱食器テルマに似ていますよね。下の動画(60秒/無音)の後半にお鍋が出てくるので確かめてみてください。パイプを持った男性はリンドベリ本人です。

 
 次に絵皿の下を見てみましょう。
 家の外には女の子。
 きょうはお庭で何をして遊ぼうかな。

 三輪車、ボール、ラッパ。
 女の子が出てくるのを犬がうれしそうに待っています。

 そして、この絵皿で一番注目してほしいのは右側の窓。
 カーテンがはためいているのはなぜでしょう?

 BOROシリーズのティーカップも、ほら、カーテンがゆれています。

 窓辺で髪をとく女性。
 カーテンがふわーっ。

 反対側では男性が鉢植えに水やり中。
 こちらの窓のカーテンも、ふわーっ。

 2つのことが分かります。
 窓があいている。
 そして風が吹きぬけている。

 日本でも人気の高いスウェーデンハウスは、冬は断熱性が高く暖かく、夏は通気性が良く涼しいことで知られています。大きな窓から自然光と風をたっぷり取り入れ、一年中快適な室内環境を保てるのが特徴です。

 絵皿の静かな構図の中で1ヵ所だけ元気にカーテンがはためいているのは、目に見えない夏の風をリンドベリが描きたかったからかもしれません。

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 BOROシリーズには深皿もあり、スウェーデンらしいこんなものが描かれています。何だかわかりますか?

 ルストヒュース(Lusthus)と呼ばれるスウェーデン式あずまやです。真上から見ると六角形または八角形。人々は庭に建てたあずまやで読書したり、バーベキューパーティーを楽しんだりします。窓を全開したら気持ちいいでしょうね。

 映画好きの人なら、日本でも大ヒットしたスウェーデン映画『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』(1985年)を思い出すかもしれません。

 主人公のイングマル少年とグンネルおじさんが建てたルストヒュースが劇中に出てきます。おじさんはこのあずまやで趣味のレコードを聴くのが楽しみでした。

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 夏のそよ風を感じさせる北欧デザインに囲まれて、涼やかなひとときを過ごしてみませんか。

 なお、ルストヒュースと並んでスウェーデンの家でよく見かけるのが、庭の緑に囲まれた一角にテーブルや椅子を置いたベルソー(berså)です。北欧デザインの代名詞ともいわれるリンドベリのBerså(日本ではベルサとも)シリーズは、庭のベルソーをイメージしたデザインでした。



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