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拡張する『宇宙戦艦ヤマト黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』──作品紹介

宇宙戦艦ヤマト公式ファンクラブ会報に5回にわたって連載していました宇宙戦艦ヤマト新作小説がついに書籍化します!

ぼくは〈小説家+SF考証〉という自己紹介をしていますが、基本的にはそのどちらかに重点が置かれることが多いです。オリジナルの小説を書くときは小説家であり、アニメやゲームにSF考証として参加することもあります。

本作『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』では──〈小説家〉〈SF考証〉そして〈小説家+SF考証〉──3通りの役割があったように思います。

今回はその3つの視点から作品紹介! 初出情報多め!

〈小説家〉にとっての『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』

本作はまずは小説として書かれています。ヤマト案件なので、もちろん映像化は個人的には超期待していますが、まずは小説から始まります。

ヤマトの小説を書けるということは、小説家として、極めて挑戦的なことで、依頼は即受諾しました。

おそらくそのときすでに思っていたのは──そして刊行前の今も思っているのは──ヤマトファンの人に楽しんでもらいたい、今は少しヤマトから離れている人にも、そして初めてヤマトに接する人、すべての人に楽しんでもらいたいということです。

誰にでも楽しめる作品にするため、ファンには当然の情報をなるべく端的に提示しながら、なめらかに物語を立ち上げるよう書き進めています。このあたりはSF的な──科学的な記述を面白く描き出す──技巧かも。ちなみに、いわゆるハードSF的な硬質さよりは速度感を重視していますので、そのあたりもぜひお気軽に読んでみてください。

他の方向性の工夫、あるいは決断としては、思い切って2021年そしてさらに先に読まれるものとして、現代的な記述に振り切っています(瞬間的な流行り言葉などはもちろん入れていません)。ヤマトは本当にたくさんのスタッフが、その時々で最高の描写をしています。本作でも、単語レベルでも文章レベルでも、最先端の知見を取り入れつつ、上でも書きましたが軽やかに書いています。なのでアイデア数やクオリティはかなり充実しながら──きっと──読みやすい、もしかすると最も新しい小説(あるいは(ハード)SFに)になっているようにも思います。

そしてumegrafix(ウメグラ)さんによる表紙ピンナップ挿画、西川伸司さんによるメカニックファイルという豪華すぎるビジュアル上の充実も、本小説の特長です。

本小説は制作チーム〈アステロイド6〉の幾度ものディスカッションを経て完成しています。すべてにわたって連携が取られていますので、文章とビジュアルの融合も完璧です。他の小説であっても小説家とイラストレーターが連絡を取ることは珍しくはありませんが、本作のように小説執筆前からテキストとビジュアル双方の内容について長時間議論して互いに高め合うことは極めて稀であり、さらに本作はそのなかでも稀有な成功例と言えるでしょう。

〈SF考証〉にとっての『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』

普段ぼくはSアニメやゲームでSF考証として提案を出しています。SF考証は基本的に作品に1人なので、本作のように〈アステロイド6〉として、あたかも複数人のSF考証で議論するということは初めてで、とても刺激的なものでした。

何が刺激的かと言えば、それはたとえば本作で古代が向かうことになる轟沈したヤマトの現状についても、実に多様な意見があり、どの意見にも極めて合理的な理由があるということが、まずは挙げられます。

本作においての絶対的な根拠/基準点はもちろん宇宙戦艦ヤマトのオリジナルシリーズの一連の作品群です。特に本作は『完結編』と『復活篇』を結ぶオフィシャルストーリーですから、その2作は常に参照しました。

『完結編』ラストでついに轟沈するヤマト、しかしその後どうなるのかは、描かれていません。艦体は崩壊し、あるいはバラバラになっているのか。いずれにしろその現状に至るためには──SF考証的な──根拠、論理が必要です。

我々〈アステロイド6〉がたどりついた、そして古代進がたどりつくヤマトの真実は、ぜひ実際にお読みいただいて確かめてください!

〈小説家+SF考証〉にとっての『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』

おそらくぼくが本作に向き合った時間のほとんどは──小説家としてだけでなく、SF考証としてだけでもなく──足し算としての〈小説家+SF考証〉としてだったと思います。

それは別の言い方をすると、本作が小説として始まりながら、ほとんど映画的な作られ方をしていったということでもあります。

小説家の多くは自分の小説の映像化を望んでいると思います(そうでもないかも?)。ぼくも自分のオリジナルの小説はすべてアニメ化、マンガ化、実写映画化、2.5次元化──ありとあらゆる形態への拡張を期待しています。

本作と他のぼくのオリジナル小説との大きな違いは、本作が宇宙戦艦ヤマトという壮麗な映像群を母体としていることです。本小説の主人公たる古代進も他の登場人物も基本的にはすでに映像化されています(一部、本小説が初出の人物もいますので、ぜひ見つけていただいて、お気に入りにしていただければ幸いです)。

あるいは小説の基盤たる世界がすでに映像として存在していると言えるのが本作なのです。それゆえ本作、本小説は、読まれる際にも、映像や声、そしてあの主題歌と、極めて強く呼応し合います。

このような本作の豊穣な広がりに対して、〈小説家+SF考証〉として、つまりぼくとしても役割を足し算/拡張して向き合う必要があったということです。そのようにして、テキスト的にもビジュアル的にも、繊細にあるいは大胆に、本作が呼応/拡張するように作り上げています。

それは本記事冒頭で書きました、熱いヤマトファンにも初ヤマトの人にも、すべての人に楽しんでいただけるヤマト小説とするためです。本作を読んで他のヤマト作品を楽しまれてもいいですし、『完結編』を見て本作を読んで『復活篇』を見るという時系列に沿った楽しみ方もおすすめです!

ぜひみなさま──ヤマトを探索する古代のように──本作の楽しみ方を拡張していってくださいませ!

本作『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』は紙版と電子書籍版同時に9月27日刊行! ただいま絶賛予約受付中です!

最後までお読みいただきありがとうございます! 引き続きどうぞよろしくお願いいたします!

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