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020:懐が痛まず、金だけが動くアメリカの歪み|クレイジーで行こう!第2章

あなたにとって何が普通か? 文化の違い

ベンチャーを経営していると、大企業とのスピードの違いは大いに感じる。それは、親会社である栗田工業とプロジェクトを進めるときも、取引先と仕事をするときも、大なり小なりのハードルとなる。また、会社だけでなく、それぞれの人にも染みついていると思う。

時期の明言は避けるが、だいぶ前の話になる。僕はある職種の人材を探していた。スタッフの友人が適任だというので、面接をしたあと、入社してもらうことにした。とても優秀でいい人だった。

ところが、彼は大企業出身だったため、実感としてスピードが合わない。僕が2週間程度を想定して依頼したことを、複数の会社に見積もりを取り、慎重なプロセスを踏んで、4か月かかると言ってくる。

「僕たちはベンチャーなんだから、そんなに時間をかけるわけにはいかない。2週間程度でなんとかならないかな」

「いや、でもそんなに短い期間では、クオリティが下がってしまいます」

彼にとっては、高いクオリティで長い期間をかけるのが普通の感覚なのだ。むしろ、それでも早いと思っているのかもしれない。大企業では、それが最適解だったのだろう。

だが、ある会社、ある組織の常識が、別の組織で全く通用しないことは往々にしてある。どちらが正しいわけではなく「普通」と思う感覚が違うだけだ。大企業で新規事業を立ち上げようとしてもなかなかうまくいかないのは、そういう理由もあるだろう。

例えば、フラクタにはモモ(百瀬君)というエンジニアがいるが、彼は大学を卒業してすぐに僕たちと一緒に働いている。フラクタの最初のソフトを担ったエンジニアの吉川君、現在人工知能アルゴリズム開発の先頭に立つ蓑田君たちと共に過ごし、ベンチャー企業のスピード感を当たり前だと思って働いている。

指示されたことはその日のうちにやる。メールが届いたら即返信。これが、彼にとっての「普通」というわけだ。

出された食べ物は残した方がいいか? 残さない方がいいか?

自分の体に染みついた文化を変えるのは、なかなかに難しい。

例えば、現代になるとある程度変化しているとはいえ、日本人は出された食事は最後まで食べるのがマナー。お茶碗の中に米粒ひとつ残さない習慣があるほどだ。

ところが、中国では食べられないほどに食事を出すのがもてなす側のマナーだった。もてなされる方も、残すことで「美味しかった。満足した」と表現する習慣がある。

仮にお互いの文化の違いを知らないとして、僕が中国出身の人に「せっかく出されたものを食べないなんてもったいないし、相手に失礼。考えればわかることだ」と言っても、相手にとってはなんのことかわからないだろう。前提が違うのだから、どう説明しても理解できるものではない。

大企業出身の彼と、前提条件の違う中で理解し合うことは困難を極めた。いろいろなことを何度も話し合うことで溝が埋まっていくかと思ったが、話すほどに溝の深さを知る羽目になる。彼だけではない。これまでも大企業出身の人をたくさん雇ってきたが、残念ながらほとんど残っていなかった。

「お米を残しちゃダメだよ」
「残さないとありがたさを表せないでしょう」

そんなすれ違いをずっと繰り返していくのは、とても不毛だ。彼に才能がないわけではない。フラクタにフィットしないだけだ。それならば、判断を早くした方がお互いのためだろう。

だからと言ってすぐに解雇するわけでなく、別のポジションも提案した。雇い続ける方法を模索したものの、彼のプライドがそれを許さなかったのかもしれない。結局、彼は辞めることになった。

弁護士からのレターが届く

彼が辞めて少しすると、知らない弁護士から、会社宛てにレターが送られてきた。僕はあまりにもレターを多くもらっているように見えるかもしれないが、これがアメリカの文化なのだ。

それを読んで僕は驚愕した。今でも読んだら涙が出そうなほど、ひどいことばかり書かれている。

「フラクタはあまりにも日本人優位の会社。外国人ということで特別な差別を受けた」
「正当な意見を言った腹いせに解雇された」

お金が取れそうな出来事を、好き勝手に捏造しているのだ。さらには、解雇によって大きな精神的ダメージを受けたと書かれていた。

「ストレスで酒浸りになり、タバコを吸い始め、体重が増えた」

辞めた後には会っていないので、本当かはわからない。でも、これが弁護士の常とう手段だと話には聞いていた。彼らはこういうことが仕事なのだ。

以前も書いたが、例えば和解金として500万円を取得できたら、その半分の250万円を弁護士が成功報酬として受け取ることになっている。着手金は必要ない。訴えようとしている彼には、何の痛手もない。つまり「言ったもん勝ち」なわけだ。

僕たちが彼に対して不当な扱いをした証拠はない。だが、レターには「裁判になったらこれからの資金調達もしづらくなる」と脅しのように書かれている。

顧問弁護士に相談すると、「彼がどれだけ仕事ができないかということを、彼に直接送ったメールは残っていないか?」と言う。そんなものはいちいち残さず、口頭でやり取りしていることがほとんどだ。しかし弁護士によると、訴えられた時のために残しておくべきだと言う。

毎回スタッフを疑って、そのようなコミュニケーションを取らなくてはいけないとしたら、信頼関係をどうやって築いていけばいいのだろう。

失うものがない中で傷つけ合う

結局、彼には少額の和解金を支払うことにした。ところが、これもまたおかしな話で、会社は訴訟になったときのために保険に入っている。免責の金額を少し払えば、あとは保険が支払ってくれるので、こちらにも痛みが無いのだ。

相手は成功報酬だから、根拠のないことで訴える。僕たちは、身に覚えのないことでも、面倒なので保険を使って支払う。失うものがないところで戦いが起き、対立をしているのだ。闘うコストが低いから、対立が後を絶たないのだろう。僕は改めて、そういうアメリカ社会の歪みにいたたまれなくなってくる。

アメリカはいいところもたくさんあるが、悪いところもある。CEOという職に就いていると、そういう面にも嫌が応にも触れざるを得ない。

金額的に大きな痛手がなくても、何か大切なものを失っているような気がする。この社会に慣れることに、恐ろしさを感じてしまうのだ。

(記事終わり)

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You do have a California Soul!
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連続起業家。1社目を米国Googleに売却。2社目のフラクタを栗田工業に売却(現在も同社CEO)。カリフォルニア州メンローパーク在住。Newsweek誌『世界が尊敬する日本人100』に選出。渋谷のカフェオーナー@menloparkcoffee

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