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009:日米間のコミュニケーションに死角あり|クレイジーで行こう!第2章

空を切るようなメールのやりとり

しばらく前の話になるが、僕がCC(=Carbon Copy:電子メールを送信する際、同じ内容を他の宛先にも送信する機能)で送付されたメールで、不毛なやり取りが繰り広げられたことがあった。日本法人と米国法人のスタッフ同士のコミュニケーションだったのだが、それはまさに空を切るばかり。まったく前に進まない。しばらく見ていたが、メールのやり取りが5回か6回を過ぎたころ、僕が間に入ることになった。

背景はこうだ。アメリカで導入されているソフトウェアを日本にも広めようとすれば、日本版のソフトウェアの準備が必要になる。英語ではなく日本語で、またマイルではなくキロメートルで表示されるのはもちろんだが、日本人が使いやすいように、小さな仕様を変える必要があった。そのためには、日本側でもエンジニアを採用する必要がある。

日本法人で人事を担当していたスタッフ(今回はあまり名誉な話ではないかも知れないので、仮に田中さんとしておこう)が、米国本社のCFOであるカオルに送ったメールが発端だった。田中さんの上司である樋口さん(ニックネーム:ナイキ)、それから僕も面接をして評価の高かった人物を採用するため、年俸の承認を得たい、という内容だった。

カオルは本社のCFOであり、全社の管理本部長として、米国本社のみならず、日本法人、イギリス事業全ての人事に責任を持っている。カオルの疑問は「なぜその人を採用するのか?」「組織のどのポジションで、どういう役割を期待しているのか?」「年俸の妥当性は?」といったこと。田中さんは自分なりに答えるのだが、カオルから見たら質問に答えているとは言い難かったようで、「それでは首を縦に振れない」と議論が終わらない。

実は、田中さんは新型コロナウイルスの影響で、日本法人が在宅勤務になるかならないかのタイミングで入社したスタッフで、上司であるナイキとも対面で話ができない状況にあった。ナイキに電話やメールで判断を仰ぎながら、情報が少ない中で手探りのやり取りをする。しかし、最も言語化が難しい人材採用の世界にあって、情報の解像度はなかなか上がらない。

メールのやり取りを繰り返す中、田中さんとカオルの間で、徐々に不信感が高まっていくのが伝わってきた。

シリコンバレーの「すぐ決める」は「適当に決める」ではない

「お互いの話が、全然かみ合っていないよ」

このままでは議論が終わらないと、僕がメールで間に入った。カオルは日本の体制について情報を持っていないし、田中さんは日本市場向けのソフトウェア開発に関する全体予算も聞いていない。また、田中さんの上司であるナイキが議論に入っていない。それぞれの情報が錯綜する中で、プレイヤーとして田中さんが一人で重荷を引き受けているのも、構造としておかしいと思った。

「ナイキの出番じゃないのか?」

一連のメールに同じくCCされていたナイキに、僕は厳しく告げた。

シリコンバレーでは、ものごとがダイナミックかつスピーディに決まっていく傾向がある。一方で、「すぐ決める」「(一部の)情報が足りなくても、今日決済する」という表面的な事ばかりが強調され、組織の中に、「伝えたい内容を言語化し、議論の相手方の納得感をきちんと得る」ということができない、もしくはそれを億劫(おっくう)に感じる空気が蔓延してきたとも言える。

各々のメンバーが持つ情報は、プラスとマイナス、また全体観を意識しながら、きちんと要約し、メンバーにシェアする。各メンバーがそれをきちんと理解した状態で積極的に議論に参加する。議論を尽くし、最後に各々の意見が割れたとしても、リーダーが責任を持って右か左か判断する。それが正しい姿であり、それは、お互いが異なった前提で話をし、同じ情報を持っていない中、よく分からなくなったら「加藤さんに決めてもらえば良い」という話ではないのだ。

今回のことは、上司であるナイキがしっかりと田中さんやカオルと議論して、内容を煮詰め、僕の承認を取るなら取るで、連絡してくるべきだった。アメリカの製品が向かうべき先とともに、日本で作るべき体制やそれに必要な人数、それぞれの役割を決め、さらに、全体の予算を踏まえて、採用しようとする人たちの年俸を決めていく。その中で、できるだけコストを抑えていくように努力をする。

貧しい家庭に育ち、月に1万円、2万円しか食費が無い中ならば、スーパーマーケットに行っても、きっと10円単位、1円単位まで豚肉や玉ねぎの値段を気にするだろう。しかし、うちのスタッフが採用活動で行っている議論は、会社の預金口座にある他人の金を使うことで自分の腹が傷まない結果、豚肉や玉ねぎの値段を1,000円単位で議論しているように見えた。

末端で問題が起こるとき、本当の問題はトップにある

僕はメールで間に割って入った後、ナイキとも電話できちんと話をした。しばらくした後、田中さんがとても丁寧に反省と振り返りのメールをくれた。それはとても素晴らしいことだ。飽食の時代にあって、多くの人は、なかなか自分で自分の行動を省(かえり)みるということができないのだから。そのメールに対して、僕は次のように返信した。

「今回の件、田中さんだけが悪いなんてことは絶対にないんですよ。あなた一人が悪いことなんて、会社の中では絶対に起こらない」

加えて、田中さんの責任は、同時に上司の責任でもあると伝えた。

「何か不穏なことが起こるときには、それより上位で何か悪いことが起こっていることが多い。田中さんに何か至らない点が生まれるということは、ナイキに至らない点があるということ。ナイキに至らない点があるということは、僕に至らない点があるということ。僕だって、コロナだ何だでコミュニケーションが疎になることを予期して、ナイキに前もって良く話をしておくべきでした。採用の件は、もっと手前で情報をくれと僕が騒ぐべきだし、採用しようとしている方にも条件交渉をする前に良い顔をするべきではなかった」

つまり最終的には、今回の問題は僕の責任ということになるのだ。

僕は高校生の頃、不祥事を起こした食品会社のトップが辞任に追い込まれるニュースを目にして、若いながらにとても疑問に思っていた。なぜ、末端の従業員が起こした事件に対して、トップの社長が責任を追及されるのだろう。何千人、何万人という従業員のいる会社で、会ったこともない従業員の不祥事を、社長がどうやって防げるのか、その当時はさっぱり分からなかった。

ところが、今はその理由がものすごく良くわかる。例えばその事件では、トップが敷いた利益至上主義の目標に対して、会社全体が原価を下げることに躍起になっていた。その結果、原材料の賞味期限切れを無視して商品を製造することにつながった。緻密(ちみつ)なプロセス、具体的な計画を持たない中、社長の単なる「掛け声」が、悪事を先導してしまったとも言える。

末端で起こることのすべては、トップの責任だ。電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、全て社長の責任だ。あらゆる組織の中で、上に立つ人間のものの考え方が、下の人たちの考え方を決める。無理に帳尻を合わせようとすると、末端でひずみが起こり、そこから大事故につながっていく。

これは、「トップが無理な目標を立てるべきではない」と言っているのではない。そうではなくて、大胆な目標を立てたなら、それを実行できるものすごく優秀な人(学校の成績が良いとか悪いとかは全く関係ない。行動に移せる人かどうかが重要だ)をきちんと雇うか、普通の人でもそれを実行できるくらいの、緻密(ちみつ)なプロセス、具体的な計画が必要だということだ。今回の件は、自分の組織に、それが欠落していたことを改めて認識し、僕は反省した。

本当のフラクタへようこそ

同時に今回の件は、日本法人とのやり取りならば、そもそも母国語である日本語のコミュニケーションということもあり、「ツーカーでやれる」と思っていた僕の慢心でもある。当然ナイキにも責任はあるので、彼には1年分とも思えるほどの嫌味を言った。反省を促すため、大根おろし器にゴシゴシと押し付けるように、プライドを粉々にするよう心がける。それも僕の仕事なのだ。

ただそれは、ナイキに言っているようで、自分に言っている。創業者である以上、すべては僕に責任があり、そこから逃れることはできないのだ。

田中さんへ宛てたメールは、次のように締めくくった。

「悲しいけれど、僕たちは社会を語る前に経済を語らなければならない。それは柔らかい組織ではないかもしれない。ピリピリした組織かもしれない。しかし、その行く先に水道産業の変革が、国民市民の生活の向上が待っているのであれば、ある組織の人たちが苦労したとして大変に疲れたとして、それは問題にはならないと思っています。『あなたたちがいてくれたおかげで、今日も安価に水が飲める』そういう人たちの姿が目に浮かぶのなら、僕たちの衝突や和解、不安や驚き、そのすべてが良い思い出に変わります。いつも会社を危険な方向に傾けて、ギリギリを進むことによって真実を探求する。『クレイジーで行こう!』とは、言葉だけではないのです。本当のフラクタへようこそ」

(記事終わり)

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連続起業家。1社目を米国Googleに売却。2社目のフラクタを栗田工業に売却(現在も同社CEO)。カリフォルニア州メンローパーク在住。Newsweek誌『世界が尊敬する日本人100』に選出。渋谷のカフェオーナー@menloparkcoffee

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