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003:レストランで偶然出会った逸材「マイク・リアン」|クレイジーで行こう!第2章

勘の良いウエイターに抱いた違和感

シリコンバレーのメンローパークという地域に、僕が4~5年前からよく通っているレストランがある。そこでいつからか、中華系の男性がウエイターをしているのを目にするようになった。

日本では、定食屋でもとても気持ちのいいサービスを受けることがあるし、スターバックスやマクドナルドのようなチェーン店でも、とても気の利く店員に出会うことがある。ところが、ここアメリカは、そのような機会を目にすることはなかなかない。その賃金なりの仕事を割り切ってする人が多いし、目立って能力の高い人がいたら、すぐにマネージャーに昇格したり、本社に異動になったりするものだ。

だから、その中華系の男性がとても勘がよく気が利いて「ちゃんとしている」ことに、どうも不思議な感じがした。

彼の名は、マイク・リアン。このときの違和感が、僕を驚くような場所に連れて行ってくれるなんて、人生は本当に何があるかわからない。

毎回議論を吹っ掛ける

シリコンバレーという土地は、半導体産業の元エンジニアが「今ではこっちの方が儲かるし、お客さんと話すのが好きだから」という理由でUberのドライバーをしていたりする面白い場所だ。だから、マイク・リアンにもそんなバックグラウンドがあるのかもしれないと、なんとなく感じていた。

お互いに顔見知りになり雑談を交わすようになったころ、ふと仕事の話になった。

「加藤さんはどんなお仕事をしているんですか。忙しそうですよね」

「人工知能ソフトウェアの会社を経営しているんだ。日本とアメリカを行き来しているから、それなりに忙しいよ」

「私も以前はソフトウェアの産業にいたんですよ」

僕はそれを聞いて、なんとなくの予感が当たった気がした。

「今は何をやっているの? この店のウエイターはアルバイト?」

「ここの仕事はアルバイトですよ。夜だけシフトに入っていて、昼間は株や先物取引でショートポジションを専門にしたトレーダーをしています」

ショートポジションとは、下がりそうな商品や株を予測し利益を得る「空売り」のことだ。それを聞いて、映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』が頭に浮かんだ。リーマン・ショックの発端となったサブプライム住宅ローンの破綻を予測した人物を描いた、実話をもとにした映画だ。その中心人物となるマイケル・バーリは、Tシャツに裸足といういでたちでシリコンバレーを活動拠点にし、医師免許を持ちながら投資家になった変わった人として描かれている。

一見するだけでは本当の才能はわからない。マイク・リアンが、マイケル・バーリと少し重なる気がしたのだ。面白い人だと思っていたが、余計に興味が湧いてきた。

好奇心が止まらなくなった僕は、毎週のようにそのレストランに通うようになった。僕もある程度はファイナンスがわかるので、毎回議論を吹っ掛けてみた。例えば「この株は、最近こんな動きをしているけどなぜだと思う?」といった具合だ。

驚くべきことに、彼が答えることはことごとく正しかった。ロジカルで先が読めていて、議論が強く説得力がある。僕たちははSNSのLinkedInでつながり、いつからか、「明日はこの株が下がるよ」といったことを教えてもらう仲になった。

昨年の年末、彼が不思議なことを言い始めた。

「マーケットで何か不穏な動きがある。本来下がるべきものが下がらない。誰かが手心を加えているとにらんでいる。だから私はこのあたりで手仕舞いをして、ソフトウェア産業に戻ろうと思っているんだ」

その言葉に、僕の中でさまざまなイメージが錯綜した。能力の高い人が不思議な職業についているシリコンバレーというこの土地。リーマン・ショックの空売りで財を成したマイケル・バーリ。空売りを専門とするアナリストでありながら、夜には感じのいいウエイターとしてアルバイトをしているマイク・リアン――。それらが絡み合い「彼と一緒に仕事をしてみたい」という想いが沸き起こったのだ。

歓迎会で泥酔する失態

僕たちの会社フラクタは、スタンフォードや東京大学、MIT出身といった、誰が見ても優秀な人たちがたくさんいる。そのため、マイク・リアンのようにアウトローなタイプの人を受け入れる土壌があるかは疑問だった。とはいえ、彼もイリノイ大学のアーバナ・シャンペーン校という名門校で電気工学を学んでおり、大きく見劣りするバックグラウンドではないはずだった。

部署やポジションを決めず、面接をすることになった。ところが、なかなかうまくいかず、エンジニアチームには断られた。プロダクトデリバリーチームのリーダーが「加藤さんが言うなら、一番下っ端で使ってあげますよ」と、なんとかOKを出した。そのリーダーは、スタンフォード出身のエリート。マイクは面接での評価が低かったため、最低限の賃金でフラクタの一員となった。

入社早々、マイクの歓迎会をした。アメリカ人は日本人ほど無茶な飲み方はしないが、「いいやつなんだよ」と言いながらたくさん飲ませてしまった。その日は、マイクが人生で一番というくらいに酔っぱらったらしい。

「車を運転して帰る」と言い張る彼を必死で止め、別のメンバーがタクシーで送り届けようとするも、ダウンタウンのレストランで「降ろしてくれ」と言ってそのまま消息不明に。明け方、僕に電話をして「いまメンローパークのダウンタウンにいる。自分で帰るから大丈夫」とだけ告げて電話を切った。結局、メンローパークの警察に拾われて、家まで送ってもらった。その日の記憶はまったくなかったそうだ。

「もしかして、ちょっと困ったやつを雇ってしまったのだろうか」

そんな思いが、少しだけ僕の頭をかすめた。

「解雇してくれ」というリーダーたち

「マイクはため息が多い。何とかしてほしい」

「あの能力では活躍できない」

入社早々、そんなクレームがいろいろなところから僕の耳に入るようになった。スタンフォード大学卒のプロダクトチームリーダーがわざわざ僕の所へ来て「マイク・リアンをクビにしたい」と言ってきたのは、まだ入社から1週間しか経っていない頃だ。

加えて、マイクの少し前にCOOとしてジョインしたヒデにも「営業部からマイクに対してクレームが入っているが、加藤さんがブロックしていてクビにできないと聞いている。なんとかならないか」と言われるほどだった。

僕はそのたびに、彼らを説得した。

「マイクには何か秀でた才能がある。だから、結論を出すのはせめてあと1~2週間待ってほしい」

そう言いながらも僕は、同時に不安に思っていた。歓迎会の失態もあるし、他のメンバーの評判も悪い。自分の直感を信じてマイクを雇ったが、間違っていたのかもしれない。会社もある程度安定してきて、僕は豊かになってしまった。そのせいで、昔は自信のあった勘が鈍ってしまったのだろうか。

ただ、不安があるなら自分で試してみればいい。各チームに任せておくのではなく、僕から彼にひとつ仕事を頼んでみた。そうしたら、驚くべき着眼点で、本当に正しい報告をしてくれたのだ。ヒデに話すと彼も驚き「もしかして、マイクはものすごく仕事ができるんじゃないか!?」と、2人で顔を見合わせた。

僕とヒデは、マイクに別の仕事を依頼した。

「フラクタという会社や、その製品に悪い所や改善点があったら指摘してほしい。そのために資料を作り、プレゼンをしてくれないか」

マイクは顧客に対して製品説明をする部署で雇われていたため、お客様のフィードバックなど、プレゼンの材料をそろえられる立場にいる。また、当時のプロダクトチームのリーダーは、課題のある「重いソフトウェア」に対して、対策を打てていなかった。そこに、新たな風を送り込みたいという考えもあった。

2週間ほど経ち、彼がプレゼンをする日になった。それは、フラクタにとって伝説的な一日。僕は後にも先にも、誰かのプレゼンにあんなにも心が震えたことはない。

(記事終わり)

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Thanks from a water man!
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連続起業家。1社目を米国Googleに売却。2社目のフラクタを栗田工業に売却(現在も同社CEO)。カリフォルニア州メンローパーク在住。Newsweek誌『世界が尊敬する日本人100』に選出。渋谷のカフェオーナー@menloparkcoffee

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