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004:マイク・リアンの伝説的なプレゼンテーション|クレイジーで行こう!第2章

死を必(ひっ)すれば則(すなわ)ち生き…

マイク・リアンのこんなに大きな声を聞いたのは初めてだった。また、こんなに堂々とプレゼンをするなんて、まったく想像していなかった。

新しく入社したマイクに僕たちは「この会社と製品の問題点を指摘してほしい」と依頼した。マイクはその依頼を受け、プロダクトデリバリーサービスの1スタッフとして、さまざまな人にヒアリングをした。エンジニアリングチームやセールスチーム、デリバリーチームは、自分たちの知識や経験から製品の問題点を流ちょうに指摘する。競合の製品もよく研究しているし、お客様と丁寧なやり取りもしている。

マイクはプレゼンの場でそれらを解説してから、こう言い放った。

「だけど、そんなのはすべて嘘っぱちだ!」

マイク・リアンの決して大きくはない体から、魂の叫びのような甲高い声が鳴り響いた。

「お客様とのミーティングで使っている資料をお見せしましょうか? こんなにも細かい質問表をお送りして、それぞれの項目に答えるよう要求している。何十年も前に埋めた配管のことを聞かれたって、すぐにわかるわけはない。契約書にすぐサインをしたお客様ですら、この質問表へのレスポンスに1週間もかかっています。“フラクタはAIの会社だ”なんて言っているけど、あなたたちが作ったソフトウェアは、お客様の仕事をシンプルにするのではなく、むしろ増やしている! どうして当たり前のことに気が付かないんですか!」

完全なる死角から石を投げつけられたような衝撃。「はっとした」なんていう言葉では片付けられない。あまりに正しい論理に僕は強く落胆し、同時にはっきりと目が覚めた。現場を大切にすることが自分の良さだと思っていたのに、いつの間にかまったく見えなくなっていたのだ。

その情熱的なプレゼンテーションは、僕が若い頃のことを思い出させた。会社員でありながら、とにかく情熱的で、やみくもにタックルするような仕事の仕方をしていた。やりたいことがはっきりしていて「こうでなければならない!」と演説してまわっていた。こうして人々の間を縫って、自分が大切だと思うことを説いて回るスタイルは、「加藤節(かとうぶし)」と呼ばれた。とにかく僕は、良くも悪くも熱烈なのだ。

マイク・リアンのウソ偽りのないプレゼンは、僕の情熱を呼び覚ましてくれた。彼はきっと、このプレゼンによって、自分の立場が危うくなる可能性も感じたに違いない。でもきっと、自分のクビなど恐れていないのだ。

「死を必すれば則ち生き、生を幸(こいねが)えば則ち死す」

僕が好きな漢詩だ。死ぬことをいとわなければ、生きる可能性が見えてくる。逆に生きることにこだわるほど、むしろ死を招く。危険な方に賭けるメンタリティ、そんな潔さを彼の姿に感じた。

もちろん、情熱に任せた主張だけでなく、ロジカルに問題点を指摘している。フラクタの発展が現在の製品開発の延長線上にはないこと。軽くて使いやすいソフトウェアをどのようなアプローチで開発していけばいいのか。まるで神が宿ったかのように話し続けた。

「大きな体を持つクジラは、1匹ずつ魚を捕まえていては間に合わない。口を大きく開けて吸い込むことで、小魚が勝手に入ってくる。フラクタも、軽いソフトを作って間口を広げることで、クライアントを一気に獲得する必要がある」

僕とヒデは、そのプレゼンを受けて、彼の給料を倍にした。さらに、新しい製品を彼に任せることにして、いいものができたら特別ボーナスを渡す約束もした。

マイクのネットワークで血を入れ替える

彼と一緒にプロジェクトを進めるほど、僕がずっとモヤモヤしていたことが解消されていった。僕自身をがんじがらめにしていたものから、少しずつ解放される感覚があった。

プロダクトデリバリーチームのたかだか1メンバーだったマイクは、すぐにプロダクトマーケティングのディレクターになり、今では会社のチーフビジネスオフィサー、つまり幹部になった。たった1か月で、給料は入社時の3倍にもなった。

マイクに対して「クビにしてほしい」と言ったスタンフォード卒のプロダクトデリバリーチームリーダーは、マイクの部下になってしまった。その後、マイクはその彼を「この給料で雇っていても会社に貢献できない」と解雇した。

今思えば、スタンフォード卒のその彼は、マイクのことを「使いづらい」「面白くない」と思ったのだろう。反骨心があり、議論に強く、いつも正しいことを言うマイク。上司として、そんなマイクをうっとうしく思ったのだ。

アメリカでは、「解雇(クビ)」の考え方が日本とは違う。日本では人を解雇するにはよほどの理由が必要だが、アメリカでは日々当たり前に起こることだ。人の流動性が高く、特にシリコンバレーではその傾向が強い。自由意志によってお互いが契約を結んでいるので、性別や年齢、肌の色などによる差別でない限り、例えば「あなたのことが嫌いになった」という理由で解雇しても何ら問題にならない。だから、マイクはすぐにクビにされそうになったし、彼が出世したあとに、元上司を解雇した。それはひどい話ではなく、アメリカの法であり文化なのだ。

マイクは人を解雇するだけでなく、積極的に採用も行った。

「加藤さん、ヘッドハンターに任せていても無駄だよ」

シリコンバレーで人脈のネットワークを持たない僕は採用に苦心し、これまでヘッドハンターに多くのお金を払ってきた。それなのに、満足のいく人材が揃っているとは言い難かったのだ。

マイクはこれから、自分の友人知人や、広告媒体を使って人を集めるという。彼に任せていると、さまざまなつてをたどって優秀な人材を集めてくる。しかしそれは、ハーバードやスタンフォード、MIT卒といった輝かしい学歴や、GoogleやFacebookに勤めていたといった華やかな職歴の人たちではない。また、Ph.D.(博士号)学位を持っている人が応募して来ても、マイクはまったくひるまない。

「Ph.D.を持っているからといって、それだけであなたを信用できるわけではない。実際には、地に足の着いた本当の賢さ、つまり“ストリートスマート”じゃなきゃダメだ。それがどういうものか知りたいなら、うちの会社に入って勉強するといいよ」

採用面接ではそんな風に強く出て、人をフィルタにかけていく。

「働く人と働かない人は、顔と目を見ればわかる」と言うマイクが集めてきた人には、ことごとく「GRIT(グリット)」があった。日本語では「やり抜く力」と訳される。マイクは足元の実行力が非常に強く、フラクタの創業期のように寝る間も惜しんで働くエネルギーがある。マイクが集めてきたメンバーも、優秀なだけでなく彼と同じように根性とガッツがあった。

プロジェクトホエール始動!

僕は、マイク・リアンに賭け、彼とともに伝説を作ろうとしている。

「君がいいと思うなら、何十人採用してもいい。会社の口座にあるお金を、すべて賭けてもいい。僕は、君が決めたことであればすべてにイエスと言うよ」

僕がマイクにそう告げてから、彼は十人以上を採用し、並行して十人以上を解雇した。役員も含めて35名ほどの会社だから、社員だけを見ると半分近くの血を入れ替えたことになる。

クジラを例に出したプレゼンになぞらえて、彼が率いるプロジェクトを「ホエール」と名付けた。

僕たちがやろうとしているのは、Appleのスティーブ・ジョブズが率いたMacintoshプロジェクトに似ている。AppleのApple IIが売れに売れていた頃、Macintoshプロジェクトは、新しいビルを作って開発チームの席を移し、Apple IIに関わった人が入れないようにしたという。

同じように、ホエールには、旧来システムに関わる人を入れないようにした。これまでの功労者の人を差し置いて、新しい場所でスタートを切るのだ。なぜなら、旧来のソフトウェアを作っていた人は、その製品に愛着を持っていることで余計なバイアスがかかるから。ホエールにそのバイアスが入ると、ストッパーとして働いてしまう。

その判断は、僕や会社にとって非常に苦しいことでもある。だからこそずっと決断ができなかった。しかし、ダウンタウンのレストランから来た英雄がフラクタの道筋に光を照らし、苦しい決断の後押しをしてくれたのだ。

日陰の才能に光を当てる

僕もそうだが、子どもの頃に苦労をしてきた人たちは、独特の強さを持っている。マイクは中華系アメリカ人ということもあり、おそらくこれまでの職場でもいじめのようなものにあってきただろう。さらに、正しいことを忖度せずに言うから既存の組織になじみにくい。

誤解を恐れずに言うなら、僕はこれまでも社会適合性の高くない人たちと一緒に仕事をしてきた。学歴とは関係なく、優秀な技術者というものは、賢すぎるゆえ社会になじめない人が多かった。片面では精神的に不安定である一方で、もう片面ではとても緻密で繊細な技術的積み上げをやってくれる。

そういう「オタク気質」な人たちと対等に渡り合うことが、僕の才能だと自負している。彼らに寄り添い、気持ちを理解して、伸びたい方向に環境を整えていく。マイクに対しても、その時と似たような感覚を持った。会社の1パーツでは力を発揮できないが、彼がヘッドになりチームを作れば、巨大な力になる。

現在、プロジェクトホエールには会社の予算の8割を使っている。それは、見方によっては怖いことだ。だが、これが僕の生き方でもある。かつてヒト型ロボット事業に賭けられたのも、同じ考えによるものだ。

学生時代、僕は何も持たず、だれの目にも留まらなかった。だからこそ、才能は大学の名前や会社名なんかには関係ない、という反骨心のようなものを持っている。僕が存在しなかったら光が当たらなかっただろうものに光を当てたい。これは、昔の自分に対するリベンジなのかもしれない。

誰も見つけていない才能に賭ける。それができるからこそ、自分に価値があるのだと思っている。直観に従う勇気以外に、自分にもたらされた才能はない。それを除いたら他の人と同じだし、一般的な意味で、僕より優秀な人はごまんといる。

発見した才能を信じ続ける力は、当然ながらリスクを伴う。信じ続けても、裏切られるかもしれない。僕が一瞬でもマイク・リアンに対し疑いの目を向けたときのように、さまざまな反証が幾度となく僕を揺すぶりにかかる。オーソリティや権威主義、大なるものに負けそうになる心もある。

でも、そこに挑み続けて信念を貫くこと。それこそが僕の哲学なのだ。

(記事終わり)

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Thanks from a water man!
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連続起業家。1社目を米国Googleに売却。2社目のフラクタを栗田工業に売却(現在も同社CEO)。カリフォルニア州メンローパーク在住。Newsweek誌『世界が尊敬する日本人100』に選出。渋谷のカフェオーナー@menloparkcoffee

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