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33枚目 Reg-Wink「Reg-Wink」(1989年)/ハスキーヴォイスとハンブル・パイ直系のロックンロールとブギー

#jrock #80s #RegWink #藤井真由美

 前回までジャニス・ジョプリンのフォロワーを続けて紹介しましたが、その文中でも、当時、ジャニスと並んでハンブル・パイのスティーヴ・マリオットが憧れの対象になっていたと書きました。女性のキーよりも高いんじゃないかと思うほどのハイトーンでソウルフルに歌うスティーヴのヴォーカルはもちろんですが、ジャニスと違うのは、そのバンドサウンドへの憧れを持つ人も多かったということです。

 87年に京都で結成されたReg-Winkは、ソニーのガールズバンドのオーディションでグランプリを獲得してデビューしました。ハンブル・パイ直系のハードにドライヴするロックンロールとブギーは、ブルージーかつ適度にポップで、持ち前のイナタさは当時のソニーらしい音の陰に隠れていますが、その硬派な音楽性は当時のガールズバンドの中でも本格派といえるものでした。ギターの杉本香代子はステージ狭しと暴れ回り、ベースの小笠原智子は華奢な体で図太いグルーヴを供給します。そして、ヴォーカルの藤井真由美はハスキーなアルトヴォイスで、叩きつけるように言葉を投げつけてきます。さらにこの3人は揃ってなかなかの美人で、なのにそれを全く売りにしていませんでした。当時のガールズバンドの多くが女の子らしい明快さかセクシーさを打ち出していく中(それは事務所側の売り出し方にすぎない場合もありますが)、ある意味、女であることに必要以上に重点を置かず、男勝りになるわけでもなく、女だけど音を出したら性別なんか関係ないじゃん、みたいな潔さがあるのです。残念なのはドラムのメンバーが安定しなかったことです。デビューアルバムではサポートメンバーとして後にリンドバーグに加入する小柳昌法が叩き、新ドラマーの決定が遅れたため、正式メンバーとなる湯沢菜緒美は1曲のみの参加に止まっています。

 そんな経緯を経てリリースされたこのデビューアルバムは、ロック系の音を得意とするスタジオミュージシャンの土方隆之がプロデュースを担当。楽曲は主に杉本と藤井で書いています。「ついでなら×××」や「トラブル・メーカー」「Oh No!!」のような派手な曲もいいのですが、杉本のリフメーカーとしての才能は「What Do You Do Tonight?」のようなミッドテンポの曲に現れていたように思います。また、NIGHT HAWKSの青木秀一が2曲を提供。「Time Is Up」はこれまた地味目ではありましたが、なかなかの好曲でした。アルバム全体が悪くはないものの、化けるにはもう一つ何かほしいという印象は否めませんが、デビューアルバムでしかも初レコーディングということで、大目に見てあげたいところもあります。

 そんな中で圧倒的な存在感を放っているのが藤井のヴォーカルでした。高校時代に同級生に誘われてバンドを始めたという藤井は、酒を飲んでわざと喉を荒らして歌うための声を作ったといいます(当時、ジャニスに憧れて、酒でうがいをしてハスキーな声を作ったという話はあちこちで聞きますが、普通なら喉を潰すだけなので、絶対にやめましょう)。その影響か、普段の喋り声もガサガサで、そういう歌い方しか出来なかったということなのかもしれませんが、叩き付け絞り出すような歌い方にはスティーヴ・マリオットの影が見えます。当時はハスキーな声の女性シンガーはそれなりにいましたが、本質的に声にブルージーなものを宿していた藤井は、メジャーでは珍しいタイプだったのではないかと思います。また、ステージでは京都弁の喋りと共に、どっしりとした求心力のようなものを放っていたことを思い出します。

現在の藤井は、声のパワーはそのままに、より伸びやかな歌を聴かせてくれます。コーラスグループのSittin' In The Parkのほか、マチルダ・ロドリゲスやUGUISSにゲストで歌っているのは、ダンナさん(元ボ・ガンボスのKyon)の人脈でしょうか。なんにせよ、あまり表舞台に出てこないのは残念ですが、たまにはブルージーな曲でも歌ってほしいものです。

【収録曲】
1. ついでなら×××
2. トラブル・メーカー
3. Somebody
4. What Do You Do Tonight?
5. Time Is Up
6. Oh No!!
7. Not Down
8. 足もとに気をつけろ
9. Shakin' Baby
10. あばずれ…Moonlight


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