二十日大根、収穫を迎える|生ごみが資源に変わる日 #5
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二十日大根、収穫を迎える|生ごみが資源に変わる日 #5

川口貴史

 2021年1月にスタートした我が家の「生ごみ堆肥化プロジェクト」も、堆肥と土ができ、種が芽吹き、ついに収穫のときを迎えた。それまでゴミでしかなかった食品くずがコンポストにより「EM生ごみ堆肥」に生まれ変わり、わずかながらの野菜を育てたのだ。持続可能な小さな循環の輪が、我が家で生まれた瞬間である。

キッチンで使えるコンポスト「EMバケツ」で堆肥作り

 コンポストにはさまざまな種類があるが、我が家のコンポストは「EMバケツ」と呼ばれるもので、これはEM(Effective Microorganisms:有用微生物群)菌、いわゆる善玉菌の力を借りて、密閉状態で生ごみを発酵させるタイプのものだ。

 2021年1月に導入し、毎食の生ごみと「生ごみ発酵促進剤」をコンポストに満たんになるまで投入し、一次発酵を経て「EM生ごみ堆肥」ができあがった。それを土と混ぜて二次発酵させ、栄養たっぷりで生産力の高い土が準備できた。二十日大根とベビーリーフの種をまき、発芽したのが前回までの記録だ。

 むろん、それまでに何のトラブルも起きなかったわけじゃない。初めての取り組みには問題が付きもので、ひとつひとつ解決してきた。

二十日大根の間引きから収穫まで

 種まきから4日目、5月15日に発芽し、19日には双葉が出そろった。野菜がよく育つよう、株間を開けるためによい芽を残して間引いていく。もちろん摘んだ芽も食べられるから、みそ汁の具にしておいしくいただいた。

 と、その5月19日の早朝、妻がプランターを見て何やらザワついている。

「キノコ、キノコが……わさっと!」

「えっ、キノコ?」

 見るとプランターの隙間から、キノコがにょきにょきといくつも頭を出しているではないか。

 なんじゃこりゃ。いったいどこからやってきたのか。キノコの周りにはコバエが数匹飛んでいる。

 調べてみると、有機肥料を使った栽培ではよくあることであり、とくに害はないらしい。折しも関西では観測史上もっとも早い梅雨入りを迎えたばかりだった。湿気の影響に違いない。晴れ間が顔を出せばキノコもどこかへ消えるだろうと、そのまま放置した。

どこからともかくやってきた、キノコがはえるプランター。

コバエ・クライシス

 毎朝じょうろに水をくみ、コーヒーでも楽しみながらプランターにたっぷりと水をやるのが僕の日課だ。5月26日の朝も、同じようにしてベランダに立っていた。

 が、いつもと様子が違う。

 おかしい。

 何か、コバエが多いような気がする——。

 キノコが生えたときには気にならなかったコバエの数がやけに多いのだ。プランターの周りを歩き回ったり飛び回ったり、忙しそうに活動している。

 その翌日にはさらに激増しており、「いけない、このままではご近所迷惑になりかねない」と、ひとまずプランターを室内に待避させた。コバエを駆除しなければ。

キノコバエ対策

 コバエと一口にいっても種によって対策方法が違う。プランターをよく観察してみると、そのコバエは灰黒色で、土の上を歩き回っていた。

 これは菜園や観葉植物に発生する「キノコバエ」だ。

 アース製薬「害虫駆除なんでも事典」によると、キノコバエは湿気が多く薄暗い場所を好み、観葉植物の腐葉土に混ざり込んだ卵から発生するケースが多いという。餌は観葉植物そのものか、真菌類——つまりキノコだ。

 なに、キノコを餌にするだって?

 覚えがある。

 あのとき、キノコにたかっていたコバエがプランターに卵を産み付けたのだろう。ここにきて大量に発生したのだ。

 キノコバエは、キッチンや生ごみに発生する「ショウジョウバエ」や「ノミバエ」とは違った対策が必要である。そこで家庭園芸用の「コバエ撃退スプレー」と、「コバエ粘着剤」を用意して、プランターに仕掛けた。

 これが効果てきめんだった。

 あまり詳細に書くと鳥肌が立つから、簡単に記そう。

 プランターの下に敷いた白いマットが一面、コバエの死骸で黒く染まったのだ。

 あぁ、その後の掃除がいかに大変だったことか。こんなことが3日も続いたのだからたまらない。

 ともかくこうしてコバエの撃退に成功し、またプランターをベランダに戻し、安眠と清々しい朝の水やりの時間を、再び取り戻すことができたのである。

コバエ粘着剤とスプレーを併用して、平穏をとりもどした。

収穫

 6月9日、二十日大根を観察してみると、根元が1.5cmぐらいに大きく育っているのが確認できた。

 そろそろ頃合いだろう。

 その日は妻も休みだったから、一緒に収穫することにした。うまく育ってくれただろうか。なにせ以前挑戦したときは、発芽こそしたが大根はほとんど育っていなかったのだ。

 恐る恐る一本引き抜いてみる。

 おおっ!

 ふくよかに育った大根が姿を現した。太陽の光を浴びて、白と緑のコントラストが華やかに輝いている。成功だ。

 土を洗い、ザルに並べてみた。小さなプランターで育てた割には、我ながら上々のできである。

 大根はサラダにして、ポン酢マヨネーズをディップに、生でバリバリといただいた。葉は刻んでみそ汁の具にした。量は決して多くはないが、数日分の食卓をちょっと彩るには十分だった。何よりこの小さな大根は、それまで処分していた生ごみを肥料に育ったのだ。

持続可能な、家庭内での小さなサイクル

 「持続可能」という言葉が世界の潮流に乗ってから久しい。

 そもそも現在の環境問題は、18世紀後半にイギリスで起きた産業革命を発端とし、第二次世界大戦後の医療の普及によりさらに加速した、「人口爆発」が原因である。激増した人口を養うため、地球の資源の枯渇を顧みず、経済発展を優先し、化石燃料をじゃんじゃん燃やした結果であるのだ。

 今、先進国を中心に、早ければリミットが2030年に迫るとされる気候変動についての具体的な対策が議論され、実践されている。

 しかし正直なところ、あまりにも問題が大きすぎて個人では捉えようがない、というのが本音ではないか。

 日本では、度重なる台風や豪雨災害で気候変動の影響が如実に表れているといわれているが、いったい僕たちはどうすればいいのだろう。——ただ、生まれた子供が普通に成人する世の中を作りたかっただけなのに、その行動が地球環境を苦しめているなんて。

 そこで、我が家で始めたのがコンポストによる「生ごみ堆肥化プロジェクト」だった。

 それまで捨てていた生ごみを堆肥化し、それで野菜を育ててみよう。

 気候変動のような地球規模の問題は僕の手に余る。ならば家庭内での小さなサイクルを体験することで、生活を見直し、将来世代の権利を奪わない、持続可能な暮らしのための気づきが得られるんじゃないか。

 失敗もたくさんやらかしたが、実際ベランダでも野菜は育ってくれるし、自分で育てた有機野菜が食卓に並ぶのは、実に気持ちのよいものだった。コンポストを運用している間、ごみの量はずいぶんと減り、他のゴミもきちんと分別すればリサイクルの軌道に乗ってくれる。

コンポストの運用を改めて見直す

 ただ、問題がないわけじゃない。

 我が家のEMバケツは19Lの容量があり、運用し続けていると約2ヶ月おきに19Lの堆肥ができることになる。

 こんなに大量の堆肥はとても使い切れない。そこでコンポストの運用を見直すことにし、現在は一時休止している。

 わずかでも環境負荷を減らし、持続可能なサイクルの中で誰もが幸せに暮らす方法はないだろうか。持続可能な暮らしへの道はまだまだ遠く、これからも模索が続く。



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川口貴史
WEBライター / 靴用品アドバイザー。ライティングのご依頼を承るかたわら、靴業界での経験をもとに、靴用品の開発にも携わります。旅、山、日々の暮らしを発信します。