川口貴史
文章を書く全ての人におすすめしたい5つの辞書・事典
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文章を書く全ての人におすすめしたい5つの辞書・事典

川口貴史

 文章を書く。

 これはなにも作家やライターに限ったことではない。メールや報告書などのビジネス文書、学生のレポート提出、SNSへの投稿、noteを書いたりメッセージアプリを利用したり、あらゆる人が日常的に携わることである。

 しかし僕がそうであったように(いや、現在進行形だ)、作文が大の苦手だという人も決して少なくないことだろう。少しでも読みやすく分かりやすく、誤解の余地のない平明な文章を書くためにはどうすればよいだろうか。

 そのヒントのひとつが、ここでご紹介する辞書・事典を使いこなすことである。

 文章を書くのに類い希な才能など必要ない(と、思いたい)。辞書を活用し、ちょっとしたコツを学習すれば誰にでも書けるのである。

表記を調べる記者ハンドブック

 後述する国語辞典や類語国語辞典と比べると、あまりなじみがないかもしれない。共同通信社発行の『記者ハンドブック』は、言葉の意味ではなく、表記を調べる辞書だ。例を挙げてみよう。

修正前:キャノンの最新一眼レフカメラは、我が社の新型カメラの存在を脅す程の様々な機能を備えている。その高性能ぶりは図り知れない。

 どうだろう。一見問題なさそうな文章だが、社名や漢字遣い、送り仮名に誤りがある。いくつかのポイントを記者ハンドブックに従い修正した。

修正後:キヤノンの最新一眼レフカメラは、我が社の新型カメラの存在を脅かすほどのさまざまな機能を備えている。その高性能ぶりは計り知れない。

 昔、作文の授業で「漢字で書ける言葉は漢字を使うように」と教わった記憶がある。だがこれは、覚えたての言葉や漢字をものにするための、教育方針にのっとってのことだろう。社会人となった今、これを実践すると漢字だらけの大変読みにくい文章が出来上がってしまう。文章には漢字で書くべき言葉と平仮名にひらいて書くべき言葉があり、日本語表記の諸基準があるのだ。

  • 【送り仮名】

  • 考える(活用のある語は活用語尾を送る)

  • 承る

  • 潔い

  • 著しい(語幹が「し」で終わる形容詞は「し」から送る)

  • 恋しい

  • 【異字同訓】

  • 送る言葉→(送辞)

  • 贈る言葉→(賛辞、祝辞)

  • 写真・ビデオに収める(撮る)

  • 写真・ビデオに納まる(撮られる)

  • 【会社名】

  • キューピー→キユーピー

  • ブリジストン→ブリヂストン

  • 富士フィルム→富士フイルム

 送り仮名はどう付けるのか。

 異字同訓の使い分けはどうするのか。

 記者ハンドブックには用例が豊富な用字用語集が収録されており、書く人のための必携の辞書である。

 ただし、記者ハンドブックの表記が絶対というわけではない。

 僕の場合は記者ハンドブックを参考に、クライアントの表記ルールに従っている。報告書を提出する前に、記者ハンドブックで表記を統一してみよう。それだけで、文章はぐっと読みやすく生まれ変わるのだ。 

重複を取り除き、語彙力を補助してくれる類語国語辞典

 類語国語辞典は、類義語を集めた意味別で引く辞典である。

 すっきりとまとまった文章を書くための第一歩は「重複を取り除く」こと。文章は一度書いて完成することなどまずあり得ず、推敲を重ね、ブラッシュアップしなければならない。その基本中の基本が、重複を削り落とすことだ。

 よくある例が、敬体(です、ます調)の文章で「〜です、〇〇です」と、文末表現が連続してしまうこと。それに、「……楽しかったです。……楽しかったです」と、気がつかないうちに小学生の作文のように同じ言葉を連続して使ってしまいがちだ。

 同じ表現が繰り替えされると、読む側が飽きてしまう。連続2回でイエローカード、3回目はレッドカードと考えよう。そこで類語国語辞典を活用して、表現や言い回しに変化をつけるのだ。

 例えば「美しい」を類語国語辞典で引いてみよう。すると美を表す多彩な言葉が他にもこれだけあることが分かる。

  • 壮美

  • 優美

  • 綺麗

  • 美麗

  • 秀麗

  • 華麗

  • 絢爛 など

 全てを「美しい」で済ませていては、すぐに表現の限界に突き当たる。類語辞典を活用すれば、自分が述べたいことを的確に表してくれる言葉がきっと見つかるだろう。

言葉の意味を調べ、誤用を防ぐ国語辞典

 国語辞典も欠かせない。日常で意外と多い、言葉の誤用を正すためだ。

 例えば「敷居が高い」。

 これは、不義理や不面目なことを重ねその家に行きにくいことを表す言葉だ。

 が、「程度や難度が高い」意で使われることがあり、これは誤りである。その場合は「入試というハードルを越える」のように、「ハードル」を使う。他にも誤りやすい語句は数知れない。

  • 愛想を振りまく→愛嬌あいきょうを振りまく

  • 気が置けない人(遠慮・気兼ねのいらない人。気が許せない意に使うのは誤り)

  • 熱にうなされる→熱に浮かされる

  • やむ終えない→やむを得ない

  • 煙に巻く→けむに巻く

 日本語って本当に難しいですね。僕はこれまで、意味を誤って覚えていた言葉や慣用句がたくさんあった。ちょっとひっかかった言葉は、かならず国語辞典で調べている。

百科事典を活用し、「ググる」以外の武器を得る

 ある事柄を調べるために、真っ先に引く事典が『日本大百科全書(ニッポニカ)』および『ブリタニカ国際大百科事典』の2冊である。

 ブリタニカ国際大百科事典は、国際的な英語の百科事典『ブリタニカ百科事典』の日本語版だ。ブリタニカ百科事典は1768年に初版が発行され、ノーベル賞受賞者や一流学者が執筆協力する、学術的に高い評価を受ける事典である。『日本大百科全書』は日本を代表する百科事典で、小学館より1984年に初版が発行された。

 これらは無料オンライン辞典「コトバンク」にも収録されている。何か調べものをするときは、まず百科事典を引くことをおすすめしたい。それは「ネット検索ほど当てにならないものはない」と僕は考えているからだ。

 残念ながら、WEBの情報は必ずしも信頼性が担保されているわけではない。有名なオンライン百科事典「ウィキペディア」でさえ、不特定多数の人が編集するため、信頼できる記事もあれば、情報の出典や脚注が不明記の記事も多数あり、現段階では信頼性に欠くと言わざるを得ない。

 検索ボックスにキーワードを入力して得られる情報は、当てにならないことが多すぎる——ならば初めから、確実な情報源に当たるのが賢明というものだ。  

先達の豊かな表現力を借りる、比喩表現辞典

 ちょっとした文学的な表現がほしいときは、比喩表現辞典を活用すればさらに豊かな文章が書ける。

 その中でも『てにをは連想表現辞典』は、日本を代表する現代作家400人の、名表現 22万の文章例を、類語・類表現で分類した辞典である。ためしに「美しい」を引いてみよう。

  • 悲しいほどに星が美しい。

  • まばゆいように美しい。

  • 生涯の最も美しい瞬間。

  • 朝顔の花が友禅染めのように美しい。

  • 山も川もおぼろに霞んでひとつにとけ合っている風景が夢のように美しい。

 「美しい」を用いた文章にもこれだけの表現があるのだ。文章を彩る文学的な表現がほしいとき、僕は本棚から『てにをは連想表現辞典』をさっと取り出し、ページを繰りながらあれこれと考える。そうして言葉の原野をさ迷いながら、そこに差し込む一条の光を、そっと拝借するのである。

  1. 記者ハンドブックで表記を統一する

  2. 類語辞典で語彙を増やし、重複を取り除く

  3. 国語辞典で言葉の正しい意味と用法を調べる

  4. 調べ物は百科事典で

  5. 文学的な表現は比喩表現辞典を活用する

 これらの辞書を適宜使い分け、ちょっとしたコツを習得すれば、誰でも読みやすく、分かりやすい文章が書けるのである。

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川口貴史
大阪市在住・WEBライター / 靴用品アドバイザー。ライティングのご依頼を承るかたわら、靴業界での経験をもとに、靴用品の開発にも携わります。旅、山、日々の暮らしを発信します。