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進めペロブスカイト、Part2

本稿は、話題の「ペロブスカイト太陽電池」に関する情報提供の第2弾だ(2024年5月時点)。

現状では、インターネット上にある情報で構成されていますが、将来的には独自取材などにも取り組みたい。

1:2024年5月時点でのペロブスカイト実証実験

現在、国内各所で実証実験が進んでいる。ここでは、そのいくつかを紹介したい。


1-1:東京都下水局

開始日:2023年5月24日(予定、2025年12月1日まで)

事業主:東京都下水局

場所:下水道局 森ヶ崎水再生センター(東京都大田区昭和島二丁目5番1号)

ペロブスカイト太陽電池提供:積水化学工業株式会社

概要:下水道局 森ヶ崎水再生センターの水処理施設の反応槽覆蓋上部に、大きさの異なる太陽電池3種類 X 3枚を設置、全体で約9平方m、約1kwの予定。

https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/news/2023/0524_6440.html

フィルム型ペロブスカイト太陽電池の下水道施設への適用性を検証するのが目的。

太陽電池の厚さは1mm程度、重さは1.5kg/平方mと発表されている。

出力については、9平方mで1kwなので、1平方mで110w、程度。

これはシリコン型太陽電池の、1平方mあたり、150wから200wに比べると50%、半分ぐらい。

重さは、シリコン型太陽電池が10〜15kg/平方mなので、これは10分の1ぐらいと、圧倒的に軽い。


1-2:神奈川県厚木市・東京都大田区馬込第三小学校

開始日:2024年2月1日(予定、2025年2月28日まで)

事業主:神奈川県厚木市

場所:市役所本庁舎の正面玄関西側の掲示板付近

ペロブスカイト太陽電池提供:リコー

概要:ペロブスカイト太陽電池を搭載した庭園灯を設置し、太陽光により発電した電力を蓄電池に溜めて夜間照明として使用。発電量や耐久性を検証して、今後の技術開発に役立てるもの。

また同時に、温度・湿度・照度データを測定し、ペロブスカイト太陽電池の電力で、データとして送信する(通信方法、LoRA)。

https://jp.ricoh.com/release/2024/0201_1

https://jp.ricoh.com/-/Media/Ricoh/Sites/jp_ricoh/release/2024/pdf/0201_1.pdf

https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/soshiki/kankyoseisakuka/3/5/40423.html

なお、この取り組みは、同じ形で、東京都大田区馬込第三小学校でも行われている。(2024年1月31日から2025年1月30日予定)

https://custom.brickeiotcloud.com/ricoh/perovskite/lighting/7164/

こちらのURLから、馬込第三小学校の、温度、湿度、太陽光の強さ、二酸化炭素濃度などがわかる。


1-3:KDDI、基地局向け電源として

開始日:2023年6月9日(予定、2025年2月まで)

事業主:KDDI

場所:群馬県

ペロブスカイト太陽電池提供:エネコートテクノロジー

ペロブスカイト太陽電池を、電柱型の基地局に設置したポールに巻き付けて、発電システムとして利用。これにより、敷地面積の少ない電柱型の基地局でも太陽光発電を可能とし、「サステナブル基地局」の拡大を目指す。KDDI全体の電力使用量の約5割が、基地局に関連するもの。基地局の省電力化が重要な課題となっている。ちなみにKDDIはエネコートテクノロジーズに出資している。

出典:KDDI

https://newsroom.kddi.com/news/detail/kddi_pr-1064.html


1-4:Fujisawaサスティナブル・スマートタウンの窓ガラス発電

開始日:2023年8月31日(予定、2024年8月まで)

事業主:パナソニック

場所:神奈川県藤沢市

ペロブスカイト太陽電池提供:パナソニック

概要:パナソニック ホールディングス株式会社は、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを開発し、モデルハウス「Future Co-Creation FINECOURTⅢ」に設置し、発電能力等の実証実験を開始した。

Fujisawa SST内に新設されたモデルハウス「Future Co-Creation FINECOURTⅢ」南南東に面した2階バルコニー部分に、W 3,876 mm x H 950 mmの透過型ペロブスカイト太陽電池を設置。目隠し性と透光性を両立させたデザインを持ったガラスで、長期設置による発電性能や耐久性などの検証を行う。



https://news.panasonic.com/jp/press/jn230831-1

1-5:北海道苫小牧、倉庫の折板屋根で発電

開始日:2024年4月1日(予定、2025年3月31日まで)

事業主:日揮

場所:北海道苫小牧

ペロブスカイト太陽電池提供:エネコートテクノロジーズ

概要:物流倉庫の屋根と壁面に、ペロブスカイト太陽電池を設置。発電データを取得する実証実験。北海道でのペロブスカイト太陽電池の実証実験は初めてであり、低温・積雪・塩害といった環境条件の港湾エリアで1年間かけて実験を実施し、設置方法や設置場所の評価をするとともに、社会実装に向けた検討を加速する。ちなみに日揮はエネコートテクノロジーズに出資している。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000199.000065135.html


1-6:東京都北区、浮体式ペロブスカイト太陽電池

開始日:2024年4月3日(予定、2025年4月3日まで)

事業主:積水化学工業株式会社、エム・エム ブリッジ株式会社、恒栄電設株式会社

場所:東京都北区

ペロブスカイト太陽電池提供:積水化学工業

概要:閉校となった旧清至中学校跡地の学校プールを活用し、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を水上に設置する共同実証実験を実施する。区では、本実証実験を支援することで、「2050カーボンニュートラル」の実現に向けた取組を加速化させる後押しをする。

従来の水上設置の浮体式太陽光発電システムは、太陽電池および架台の重量を支持する浮体構成や施工性等に課題があった。これに対し、ペロブスカイト太陽電池の軽量性を活かした浮体構成や施工性を検証するため、東京都北区の閉校となった学校プールに浮体式ペロブスカイト太陽電池を設置し、浮体構成、施工性、発電性能の実証を開始した。

エム・エム ブリッジは、橋梁及び沿岸構造物の設計、製造、設置、そして維持補修を一貫して手掛ける総合エンジニアリング会社であり、恒栄電設は、国内太陽光発電設備の所有や自社建屋における太陽光発電設備の導入等、脱炭素に向けた取り組みを積極的に行っている。

https://www.city.kita.tokyo.jp/koho/kuse/koho/hodo/press-releases/r0604/2400405-2.html

https://www.sekisui.co.jp/news/2024/1401291_41090.html


1-7:フィルム型ペロブスカイト太陽電池の設置方法を確立するための共同実証実験

開始日:2024年3月27日(予定、2025年3月まで)

事業主:積水化学工業株式会社、センコーグループホールディングス

場所:茨城県古河市にあるセンコー茨城支店・茨城PDセンター

ペロブスカイト太陽電池提供:積水化学工業

概要:センコー茨城PDセンターの建屋において、西日の当たりやすい西向き壁面に1m×1mサイズのペロブスカイト太陽電池を16枚(16m2)設置した。新しい簡易設置法により、施行準備から配線収納まで6時間で完了した。今後、発電能力の検証に加えて耐候性、特に耐風性について1年間かけて検証する。


https://www.sekisui.co.jp/news/2024/1400963_41090.html


2:実証実験から見えるポイント

2-1:各所と実証を進める積水化学

実証実験で先頭を走っているのが、積水化学だ。「1」では、2箇所を紹介したが、他にも、

各所で実証実験を行なっており、大型ビル向けには、2023年10月5日、大阪本社が入居する堂島関電ビルに自社開発のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を実装した。日本国内における建物外壁へのフィルム型ペロブスカイト太陽電池の常設設置としては、初めてだ。

加えて、国内の大型導入事案が控えている。

東京都千代田区の「内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業」で建設予定のサウスタワーに、スパンドレルと呼ばれるビル外壁の化粧板のような部材に、定格出力1MW以上のペロブスカイト太陽電池が設置される予定だ。

従来の太陽電池は、耐荷重や風圧への対応、高額な更新コストなどが課題だったが、ペロブスカイトなら、「薄い」「軽い」「曲げられる」などの特徴を活かした新たな設置方法で、技術的・経済的な課題を解決できる見込みとなった。なおサウスタワーの完成予定は、2028年だ。

https://www.sekisui.co.jp/news/2023/1395109_40075.html

https://www.tepco.co.jp/press/release/2023/1666482_8713.html

他には、2024年4月ごろからNTT品川TWINSデータ棟の外壁に設置し、都心部での発電効率も含めて、実用性を検証する予定。

https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/021300/

同社のHPを見ると、

「薄くて曲がるペロブスカイト太陽電池」で描く、新しい資本主義の勝ち筋

https://www.sekisui.co.jp/connect/article/1393104_40890.html

開発チーム長は、「私たちは2013年ごろからペロブスカイト太陽電池に関する技術探索を開始しました。フィルム型ペロブスカイト太陽電池に必要とされる封止技術、成膜技術において、それぞれ液晶向けの封止材や合わせガラス用中間膜で世界シェアトップであるため、その開発・製造技術が活きると考えたのです」とペロブスカイト開発に突っ込んだ理由などが記載されている。

現在、メディアの発表を見る限りは積水化学が、ペロブスカイトでは一歩先んじている印象は強い。特に「曲がる」特徴に注力している部分は、他にエネコートテクノロジーズや東芝が目立つぐらいなので、(他社のペロブスカイトはガラス基盤への塗布が、まだ中心)、メディアも取り上げやすい。

現在、同社は30cm幅のロールtoロールに製造技術を確立しており、これは大きなコストダウンにつながる。将来的には1m幅、発電効率20%(今は15%)、耐久性20年を目指しており(今は10年)、これが可能になれば、国内ペロブスカイトで抜きん出た技術ポジションを取れるはずだ。

耐久性については、2025年までにシリコン相当の耐久性20年を実現する方針を固めたと発表もした。今後、積水化学の動きからは目を離せない。

気になる点があるとすると、下水処理場、プール、発電所の沿岸など、実証実験のジャンルに一貫性が薄いことか。最終的には、大型建造物を目指していると思われるが、同社はビルディング業界とのコネクションが薄いと思われるので、このあたりのビジネス展開に戸惑っているのだろうか。

特に積水ハウスとの協業に期待したいが、いまだに発表がないのも気になる。

2-2:社会実装に一番近いか?!「日揮」

対して、「お!」と思わせるのが、日揮の北海道苫小牧倉庫での実証実験だ。写真を見ると、お馴染みの山型金属の屋根に6、7枚のペロブスカイト太陽電池が乗っているだけだが、これが意外に可能性を見せてくれる。

この山形の屋根は「折板屋根」と言われるもので、国内の工場や倉庫の屋根の多くで利用されているものだ。山形にすることで、1mm程度の暑さの鉄板でも、雨風を凌ぐぐらいの強度がかせげ、安価で施工も簡単と人気の屋根である。他にも屋根材にはスレートなどもあるが、国内はほとんどは折板と考えてかまわない。そして国内には「日本金属屋根協会」という団体があり、そちらの発表によると、年間で、50000k平方mもの広さで金属屋根材が販売されているという。

しかし、こうした折板屋根は、雨風、雪に耐えられれば良いので、シリコン型太陽電池のような思い設備を載せることは、考えられてないケースが多い。実際、折板屋根でも太陽電池が乗っているケースはあるが、それはトン単位になる重量物を、最初から「載せる」ことを想定した作りになっている場合が多い。つまり「太陽電池で電気代をかせぎたいけど、重くて乗らないんだよね」という屋根は多いのだ。

ここでもう1度、写真を見てみよう。

折半屋根の山形に沿って、ペロブスカイト太陽電池が、止められている。

同社のyouTubeを見ると、

https://www.youtube.com/watch?v=veOGI8ZI3Tg


上図のように、シート状のペロブスカイト太陽電池を、折半屋根に置いて、専用のバーで「パチ」っと止める様子が見られる。

これなら軽いし、設置も簡単なので、価格さえ折り合えば、「乗せたい」と思うユーザーは多いはずだ。

特に最近は、発電してそれを売る、というより、電気代の値上げもあって、そのまま自社工場や倉庫で電気を使いたいというニーズは高い(昨今は、脱炭素や災害への備えは、中小の企業にも必要という認識が強まっている)。

特に「簡単につけられる」というニーズは高いようで、積水化学も、協業した企業の壁に「畳ぐらいの大きさの太陽電池6枚を、たった6時間で壁に敷設できた」というリリースを発表したが、これなぞ「太陽光発電の敷設が面倒で、難しい」ことを知る業界人しか意味のわからないリリースだろう。

ペロブスカイト太陽電池では、曲がる、発電効率が高い、などが話題に上がるが、「実際の設置が簡単」という点が、実は現場に向けての強い訴求力になるのかもしれない。すでに「太陽電池が欲しい」というニーズはあるのだから。

end




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