はじめまして

去る2019/12/1、青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラムの全課程を修了しました。3ヶ月半に渡る学びを通し、自己変容をもたらすきっかけとなったキーワードをいくつか挙げながら、これから数回にわたり、省察を兼ねて新たに得られた気づきをまとめていこうと思います。

まず初回は、自己紹介から。

わたしのこと

普段UXデザイナー(以降UXer)としてHCD(Human Centered Design-人間中心デザイン)、あるいはほぼ同義として用いられるUCD(User Centered Design)と呼ばれるデザイン思想・哲学およびそのプロセス・メソッドを通じて事業活動を行っています。

UXerを一般的な言葉で説明するとしたら、「ユーザー視点でプロダクト・サービスにおけるユーザー体験をデザインする人」といえます。具体的には、プロダクトやサービスの利用文脈を把握するため観察やインタビューを通して、ユーザーの本質的欲求を探り、その実現のためのコンセプトメイキング、プロトタイピング、検証といったプロセスを経ながらプロダクト・サービスをリリースし、継続的にブラッシュアップしていきます。

UXerのミッション

UXerとして求められるスタンス・態度は、一言で言えばユーザーファーストつまりユーザーを最優先としたモノ・コトづくりです。もちろんビジネスですので、ユーザーの期待を超える体験価値提供の実現に向けて、当然UXerは顧客にコミットする必要があります。言うは易し行うは難しではありますが。

つまり盲目的に彼らのニーズ、一言一句をつぶさに真に受け、その通りプロダクト・サービスに織り込む単なる御用聞きのような振る舞いをしていては、優れたユーザー体験は創れません。同時に、クライアントに言われたとおり迎合する姿勢は、短期的に見れば印象は良いかもしれませんが、長期的な持続可能エンゲージメントは期待できず、当然我々の市場価値も上がりません。

デザインリサーチで得られた客観的定性・定量データにデザイナー的洞察を加え、ユーザー自身も気づかなかった、声にならない潜在的な欲求を炙り出し、カタチにすることがUXerのミッションといえます。もちろんビジネス要件もおざなりすることなく、ユーザー体験を設計することが求められます。

UXerのマインドセット・資質

著名なデザインコンサルティングファームである、Adaptive Path共同創設者であるJanice Fraserさんは、UXerに求められるマインドセットと資質について以下とおり言及しています。

マインドセット

・「協調性(Collaboration)」
・「好奇心(Curiosity)」
・「探究心(Exploration)」
・「現状へ苛立ちを感じていること(Impatience with the status quo)」

資質

・ロジカル
・他者理解
・謙虚さ

優れたUXデザイナーが持つ資質・マインドセットとは?【インタビュー】ホワイトハウスも注目のUXデザイナーJanice Fraser氏(後編)

確かに同感と思えるような的を得た項目ばかりです。特に「他者理解」と「謙虚さ」は、いまだに発展途上ではありますが、UXerである以上日頃から常に意識してきた点です。

過去を遡ってみると

こうしたUXerの資質について意識するきっかけとなった原点ともいうべき出来事が、今でも脳裏に焼き付いています。その社会人になりたての頃のエピソードを振り返ってみます。それは今から20年ほど前、クリエイター職として新卒入社した会社の上司のことばでした。

デザイナーであっても、アーティストではない

ウェブを中心としたアプリケーションのユーザーインターフェイスデザインおよび、そのほか人工物とのインタラクションデザインがその頃の主な業務でしたが、ビジネスパーソンとしての基本をこの言葉はよく体現しているのだと腑に落ちたのはそれからしばらく経ってからでした。

デザイナーとは、他者との協働を通し合意形成を図りながら、時間・コスト・リソースといった制約条件の中でユーザーの課題発見・解決に向けた行為の対価として、サラリーを享受する職種なのだと。

決してアートの領域を否定した発言ではないとは思いますが、「自己表現にそんなに拘りたいのなら、人知れず山奥に篭ってパトロンに養ってもらいながら、思う存分創作活動に打ち込めばいい。」真意のほどはわかりませんが、行間を読めばそんな上司の想いも含まれていたのかもしれません。

確かに、インタラクティヴなウェブデザイン表現として、出始めたばかりのFlashでのコンテンツ制作に夢中だったわたしは、当時のHTML規格では実現できないあっと驚くような斬新なコンテンツをつくることで、クリエイティブな創作欲求を満たしていましたし、いわば「狭義のデザイン」スコープの中で戯れ、そのコンテンツに触れるユーザーが何を期待してそのウェブサイトを訪問するか、クライアントが求めるニーズなどは今思えば二の次だった気がします。

変化

上司のことばに触れてから、職業としてのデザイン・キャリアプランについて思慮深く対峙するようになりました。

先ほどのUXerのマインドセット・資質を例にすれば、それまでのわたしは「好奇心(Curiosity)」「探究心(Exploration)」の趣くまま、インターフェイスの向こうにいるユーザーに対する「他者理解」もそれなりで、若気の至りからくる根拠のない自分への自信から、QCDの平衡感覚を無くした「謙虚さ」も「協調性(Collaboration)」も欠如した人間だったに違いありません。

当時社会はネット黎明期のパラダイムシフトに騒めき、今後ますますHMI(UI)の重要度は増す予感は自ずとしましたし、インタラクティブなウェブがこれまでのコミュニケーションのあり方そのものを変える、魅力に満ち溢れていることに少しの疑いもなかったので、この業種における最適なキャリア伸張に必要なスキルセット・マインドセットを模索する日々が始まりました。

もともと人文社会科学系を専攻していたこともあり、研究対象としていた言語や音韻・音声といったコミュニケーション媒体への興味の延長上に、情報アーキテクチャや認知心理学は必然と存在していました。ドナルド・ノーマンヤコブ・ニールセンなどの書籍を読み漁っては、HMIにおけるユーザーとのコミュニケーションの側面について深耕する中で、わかりやすさ、使いやすさといったユーザビリティーへの視野が広がりました。また数多くの受託プロジェクトのディレクション経験にも恵まれ、クライアントの存在が「ロジカル」や「謙虚さ」を、そしてチームメンバーが「協調性(Collaboration)」をわたしに気づかせてくれました。

それから

10年ほど時は流れ、サービス・システム開発にエンジニアと一緒に携わりながら、クライアントの、こうしたい・こうあって欲しいといったふわっとした要求や希望を要件として定義し、設計仕様・実装に落とし込むデザインプロセスの実践を重ねる中で、「広義のデザイン」と「狭義のデザイン」の違いを知り、ともに深める機会を得られました。まさに「何故?」という問いを重ねながら、0から1を創り出すクリエイティブなデザインの過程は、とても苦しく辛く、挫折することも数多いのですが、ユーザーのゴールやサービスコンセプトをとことん突き詰め、それらを満たすようソリューションを作っては壊し、検証していく作業は刺激的で、充実感で満たされるものでした。

そんな矢先、また忘れられない出来事がありました。あるイベントでエクゼクティブの方とお話する機会があったのですが、世間では未だに表層的なデザイン価値のみが語られる現実を目の当たりにすることになります。

デザインなんて、人の好みでしょ?
- あるエクゼクティブ

見た目の好き・嫌いという枠を超えた、広義のデザイン価値をもっと広く伝えていく必要があると実感したのは、UXというコトバが日本でも聞かれ始めるようになった、ちょうど2012年頃でした。時期を同じくして、UXデザインの実践者としてHuman Centered Designのプロジェクト適用や、コンサルテーション経験を積み重ね、ステークホルダーへの啓蒙・共創デザイン活動におけるファシリテーターとしての役割も担いながら現在に至ります。

今回は自己紹介ということで、これまでのキャリアについて、いくつかのエピソードをもとに駆け足でざっと振り返りました。

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
次回をお楽しみに。(いつになることやら笑)



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