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恩師

私が10歳くらいのときだった。小さな部屋に私と母と兄が並んで座り、向かいには近所のおばさんみたいな(後で知ることになるが本当に近所に住んでいた)人がニコニコしながら座っていた。

私の人生の師(というとたぶん怒られるが)、塾長との出会いだ。

私は兄と比べると放置されてきた方だと思う。兄には過剰な愛と心配が必要であり、私には一般レベルのそれ、といった感じだとは思うけれども。勉強で分からないことがあってもそんなに怒られなかったらしい。らしい、というのは私の記憶の中では、解けない問題があると叩かれたり、夜に寝させてくれなかったり、という記憶があるからだ。それも兄と比べると大したものではないという。
とにかく、私は両親にはそれほど注目されたことがない。


しかし、塾長は違った。
まず、「あなたはすごい子。よくできる子。」とほめてくれた。そして、授業では私の知的好奇心をくすぐるような世界や科学の話をしてくれた。そうして勉強は楽しいものだと思わせてくれた。
中学生になって一度はその塾を離れたが、戻ってきたときに私が全然違う人になってしまったことに気づいてくれたのも塾長だった。その頃、兄に病気が見つかり、ストレスや疲労を抱えていた私の変化に気づいてくれた初めての人だった。
中学、高校となり周りの世界が広がるにつれて「私の家はおかしいのではないか」というもやもやを抱えていた私の話を聞いて、的確なアドバイスをくれたのも塾長だった。
塾長がいなくては、私は異常を通常だと思う大学生になっていただろう。


私は幼いころから塾長に

「出世しなさい。女性が誰かを頼って生きる時代はもう終わるよ。」

と、ことあるごとに言われてきた。
その言葉で元来強かった気がさらに強くなり、常に何かにチャレンジしていたい、もっと広い世界があると思えるようになった。


こう振り返ってみると、今の性格の大半が塾長の言葉と指導によって形作られてきたような気がする。そんな私は今でも塾長に救われているし、その塾でアルバイトを始めて3年になった今では、性格が塾長にさらに似てきたといわれている。


やっぱり振り返ってみると塾長の存在は大きい。

今日のアルバイトで、そんなことを考えていた。


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