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【読書メモ】共感の本質:『G・H・ミード著作集成』(植木豊編訳)第2篇・第38章

本章では共感が鍵概念として登場します。ミードは共感を「我々の示す構えは、今現在我々が手を差し延べている相手側の構えを、我々自身のうちに喚起するということ」(513頁)という意味合いで捉えているようです。

したがって、共感という事象が生じるためには、自分だけではなく自分に応答する他者という存在が不可欠になります。言い換えれば、自分と他者との協働過程の中に共感は生じるということです。

前章で述べられた経済分野を例にミードは解説をしています。経済行動を媒介する手段には貨幣があります。貨幣は、なぜ媒介手段として成り立つのでしょうか。

貨幣という抽象物は、自分で何か別の物を入手しうるための手段である。このような[自己によって他を表現する]消極的価値こそが普遍性を生み出す。というのも、貨幣のこうした性質ゆえに、貨幣と引き替えに使用可能な何かを入手しうる人がいるかぎり、貨幣は誰の手にでも流通するからである。(516頁)

直接的な価値がないからこそ間接的な価値を生じるというマルクス的な考え方をミードは述べつつ、さらに抽象化して議論を進めます。個人的には以下の箇所を非常に興味深く読みました。

交換手段の創出は、何か高度に抽象的なものである。それは、個人が自分自身を相手側の立場に置いてみる能力に依存するのであって、この能力を通じて知ることができるのは、相手側が必要としているのは自分に不要なものであり、自分に不要なものは他の誰かが必要としているものであるということである。(516頁)

ここでミードは、経済過程における貨幣の説明という文脈で述べていますが、社会における相互作用という現象一般を捉えることもできるのではないでしょうか。つまり、ここまで何度も述べているシンボルの機能を提示しているとも捉えられます。それ自体は抽象的であったとしても、それを指し示すものを自分と相手とが共有していてお互いに影響を与え合うという意味合いにおいてです。

ミードは、共感というキーワードを本章で取り上げることで相互作用の鍵となるシンボルについて新たな側面から説明を試みていると考えられます。


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