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【読書メモ】『働くひとの心理学』(岡田昌毅著)

本書は著者の博士課程論文を基にした内容ですが、言葉を噛み砕いてより多くの方に理解してもらえるよう意を尽くしていることがよく窺われます。キャリア理論を実践の場で活用できるように学び直したい、という方にオススメしたい一冊です。

というのも、先行研究をまとめている第2章が極めて秀逸で、ここだけでも読み応え十分なのです。第2章を読むことで、自身が無自覚に依拠している理論の位置付けを理解することができます。依拠している理論を知ることで、その方法がどのような対象に対して適切なものなのかを理解できます。それによって、現場での実践をより良いものにすることができるのではないでしょうか。

キャリア発達と心理・社会的発達

本書ではcareer developmentをキャリア発達と訳しているので、この表現で統一することにします。本書で明らかにしたこととして、職業におけるキャリアを考える際には、所属する企業組織以外の多様な組織や他者との相互作用を考えること、また自分自身の人生という縦軸を踏まえる必要があること、といったことが挙げられています。

詳細は、192-193頁のまとめを引用するのでご参照ください。

  1. 仕事への取り組み、役割成果は順次蓄積されていく。役割成果の累積が大きくなるに従って、発達課題への取り組みも積極的になる可能性が高くなり。積極的な取り組みが心理・社会的発達課題達成へ向けた累積につながっていく。

  2. 「職業キャリア発達」=「心理・社会的発達」ではなく、心理・社会的発達が職業キャリア発達の上位概念であり、職業キャリア発達により心理・社会的発達が促進される。

  3. 心理・社会的発達課題への取り組みの累積が、ある水準(達成水準)を超えると発達課題が達成される。しかしながら、心理・社会的発達課題への取り組みがネガティブな方向へ向かいある水準を切ると、再度課題として発現してくる

トランジションに向き合うこと

キャリア発達を特に意識するタイミングとして、トランジション(異なる段階への移行)があります。本書では、トランジションにはポジティヴなもの(例:昇進)とネガティヴなもの(例:ポストオフ)とがあり、自分自身がどのようなトランジションのタイミングにいるのかについて自覚的であることが重要であるとしています。

というのも、ポジティヴなものかネガティヴなものかによって対応が異なるからです。上で述べたような客観的にわかりやすいトランジションであれば意識せずともわかるのですが、成長感停滞感といった内的で主観的なものもあるので、自分自身のトランジションに自覚的になることはそれほど簡単なことではありません。

ではどのように気づくことができるのでしょうか。月並みですが、自分自身でゆっくりと内省することも重要ですが、他者と対話することで気づくことも重要です。というのも内的なものは、外化しないと自分自身で気づけないものですから。キャリアを対話する場を設えることの重要性はこうしたところにもあるのかもしれません。


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