見出し画像

【読書メモ】人的資本、社会関係資本、心理的資本:服部泰宏著『組織行動論の考え方・使い方』[第8章]

社員は企業にとって大事な存在である、というフレーズの背景には、社員が持つ資本が前提としてあります。この人が持つ資本については、①人的資本、②社会関係資本、③心理的資本、という三つの観点で捉えられます。

①人的資本

従来、企業の競争優位性は立地や機械設備などといった物的資本で測定していましたが、それだけではないんじゃない?という問題意識から人的資本への注目がなされるようになりました。本書では、Becker(1967)を用いて、人的資本の定義として「従業員個人が持つ能力・知識・スキルなどの総称」(153頁)が用いられています。

人的資本は、教育・訓練によって開発可能な資本として企業によって捉えられ、汎用性が高く多くの組織で有効な人的資本を開発・訓練する一般訓練と、特定の組織や文脈においてのみ有効な人的資本を開発・訓練する特殊訓練に分けられます。日本では、雇用システムとも相俟って後者がOJTとして発展してきた歴史的経緯があります。

人的資本への投資に対する効果性の検証については、人事制度や管理システムといった施策により企業の財務的成果などのマクロレベルではポジティヴな影響を与えることがメタ分析で明らかになっています。他方で、働く個人というミクロレベルでは明らかになっていないようです。

②社会関係資本

個人が何を知っているかという人的資本に対して、社会関係資本は、組織の中での「人と人の関係性に埋め込まれた資本」(162頁)を意味するもので、この定義はAdler & Kwon(2002)に則ったものとして著者は紹介されています。

組織である以上、通常、社員は一人で働くわけではないので関係性の中に資本が内在しているという考え方です。社会関係資本にはさまざまな捉え方がありますが、ネットワークとして捉えてその強弱や役割として認識するものが直観的にもイメージしやすいのではないでしょうか。

③心理的資本

心理的資本は、個人の心理状態という内面を対象とするもので、「個人のポジティブな心理的発達状態」(164頁)を指すものとして、Luthans et al.(2007)を用いて説明されています。具体的には、以下の四つの心理的資本が挙げられると164頁で紹介されています。

自己効力感
自らに対する自信を持ち、挑戦的な課題に対して必要な努力をすること。

オプティミズム
現在や未来に対してポジティブな帰属を行うこと

希望
目標に向かい、成功のために必要であれば目標への道筋を修正すること

レジリエンス
問題や逆境に直面しても屈せず、成功をつかむためにそれを乗り越えられること

人の持つ資本について改めて理解するとともに、企業が「組織は人が大事」というメッセージを発する時に、明示的には現れない暗黙的な含意に着目したいと思える一章でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?