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オン・ボーディングの秘訣は組織社会化にあり!?

立教LDCでの学びログ_2020.08.16

學則不固、主忠信、無友不如己者、過則勿憚改
(『論語』学而第一・八)

立教の同期である高橋さんより、組織社会化に関する論文を読むオンライン読書会のお誘いをいただき(ありがとうございます!)、昨日参加してきました。私の発表はさておき、他の方の論文レビューからの学びや、みなさんとの対話から気づく点が多く、刺激的な場でした。特に考えさせられたのは、職場において社員が描くリアリティを企業はどのようにデザインできるのか、という点です。

「リアリティショックを軽減するためにRJPだ!」「人事部門内の連携が重要。特に採用部門と教育部門で言っていることが違うと入社してきた社員は幻滅感を覚える」などと言われますが、もっとメッシュを細かくして社員をケアすることにこそ、人事がビジネスに対して貢献できる価値があるのかなぁなどと考えました。

以下では、私が発表を担当させていただいた論文を振り返ります。

竹内倫和・竹内規彦(2009)
「新規参入者の組織社会化メカニズムに関する実証的検討」

オン・ボーディングが日本に輸入される形で流行しています。しかし、これは日本企業がもともと(良くも悪くも)得意にしてきた新卒一括採用でのプラクティスが活きるのではないでしょうか。結論を先に言えば、本論文では、予期的社会化と組織内社会化を、採用部門・人材開発部門・配属部門とが連携して対応する重要性が示唆されています。新卒の定着を意識的に行ってきた一部の日本企業にとっては、自分たちの活動を内省することで対応できるものなのではないかと。

(1)研究目的

本論文で明らかにされているのは、日本の企業に入社した新規学卒就職者(以下、新卒)がいかに組織適応を図るのか、という点です。これをさらに深掘りして、二つの研究上の問いを立てています。

一つ目は、入社前における個人のキャリア探索行動企業の採用施策を説明変数に置き、結果変数として入社直後時点における組織適応を設定しています。個人と企業の両側面から、入社前のどのようなアクションが入社後に組織適応に効果があったのかを見ています。

二つ目は、入社直後の時点での組織適応が入社一年後の組織適応にどのような影響を与えているのか、です。入社後における変化を見ようとしているわけですね。その際に組織社会化を媒介変数として置いていることに留意が必要でしょう。

(2)分析フレームワーク

これらの研究上の問いを基に、研究のための分析フレームワークとして統合したものがこちらです。

実務目線で面白いのは、入社前、入社直後、入社1年後という定点観測が行われている点です。新卒側の視点に立てばお分かりのように、就職活動(採用(人事))入社時研修(教育(人事))業務遂行(現場)というそれぞれのタイミングでは、関与する担当者が代わります。

その結果、何がどのように入社一年後の組織適応に影響しているかをみることは難しいものなのですが、本研究ではそれを縦断的に明らかにしているわけです。この点が大変興味深い点であると言えるでしょう。というのも、よくある(悪い)例としては、ある新卒が早期離職してしまった場合に、それぞれが責任を押し付け合い、その後のアクションに何も繋がらないという非生産的な非難の応酬になりがちだからです。

(3)考察

では何が分析の結果、もたらされたのでしょうか。分析の詳細方法を紹介するとマニアックになりすぎるのでポイントを基に私が整理したマトリクスを基にご紹介します。

まず横軸の説明を念のためにします。予期的社会化とはある組織に入る前における社会化を指し、組織内社会化とは参入した後における組織化を指します。後者ばかりが組織社会化というイメージを持たれがちですが、予期的社会化もまた重要な組織社会化の段階と認識することが重要でしょう。つまり、企業目線でいえば、採用活動・内定段階から社会化を促すということです。

では四象限に分けて重要な点を見ていきましょう。

①企業による予期的社会化

求職宣伝施策(ウェブサイトによる求職情報、会社パンフレットなど)の効果が認められています。他方で、リクルータをはじめとした口コミ施策や、企業の魅力を伝えるための求職情報以外の企業情報(新商品、マーケティング戦略など)を伝える広報施策は今回の調査では効果が出ませんでした。

とりわけ、広報施策は入社後における転職意思を高める結果もあるという結果が出ている点に要注意です。推察の域を出ませんが、求職宣伝施策でRJP(Realistic Job Preview)を十分に行わず、企業の全般的なブランドイメージだけを訴求して内定者をリテインしようとすると、内定辞退は防げても入社後のリアリティ・ショックが強まってしまい離職へと至る、というストーリーでしょうか。

②新卒の予期的社会化

この象限は、学生の側における入社前の社会化についてです。自分自身のキャリア志向を内省的に明らかにすることが重要、という結論は異存ありません。だからこそ大学でもキャリア教育が盛んになっているわけですから。

他方で、業界研究や職業理解といった環境探索行動が効果を出さなかったという分析結果には留意が必要でしょう。環境探索行動が何かネガティヴな影響を与えたわけではないことから鑑みると、自己キャリア探索行動が学生時代に行われていれば、環境探索行動はそれをサポートすることができる一方で、その逆は成り立たない、というレベルに留めておけば良いかと思います。

③新卒の組織内社会化

従来は、新卒社員は石の上にも三年働くことで「なんとなく組織に馴染む」ものだとされてきました。しかし、若年離職率が高くなるとその組織社会化の内実に関心が高まってきました。

本論文では二つの関連を明らかにしています。まず、入社直後の組織コミットメントや達成動機の高さと転職意思の低さといった組織適応が、組織や課業に関する社会化学習内容にポジティヴな影響を与えることが明確にされます。さらにこの社会化学習内容を媒介することで入社一年後の組織適応が進むということが明らかにされます。

④企業による組織内社会化

本論文では、企業が行う社会化戦術が三つ挙げられています。一つ目は新卒社員だけを集めて行うという実施のプロセスに着目する文脈的社会化、二つ目は教育内容に着目する内容的社会化、三つめはロールモデルや支援役による社会的社会化です。いずれも入社一年後における組織適応にポジティヴな影響が与えられることが明らかになっています。

冒頭で述べたとおり、入社前の採用部門、入社直後の教育部門、新卒配属後の配属部門とが、新卒社員の情報をやり取りしながら連携することにより、新卒社員の組織社会化が促進されることが示唆されています。


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