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【読書メモ】11章 自尊感情(箕浦有希久著):『非認知能力』(小塩真司編著)

自尊感情の章を読んでいると、学部と修士時代の恩師である花田光世先生がゼミで盛んに語っておられた自己効力感自己肯定感の話を思い出しました。正直に白状すれば、当時の先生の話を、私は三割程度しか理解していなかったのだなぁと本章での解説で思い知りました。というのも、自尊感情についての考察はウィリアム・ジェイムズにまで遡るようなのですが、私がジェイムズを知り、読むようになったのはつい最近のことだからです。

ウィリアム・ジェイムズと自尊感情

本章では、プラグマティズムの哲学者でありアメリカの初期の心理学をリードしたウィリアム・ジェイムズの論旨から解説が展開されています。

ジェイムズは『心理学原理』のなかで自尊感情=成功/願望という公式を提示しています。分子の成功とは、自分自身が内的に決めた目標達成とともに他者や社会からの評価といった外的な基準も含まれます。同様に、分母の願望にも内的な理想や憧れとともに外的な基準による「こうあらねばならない」という義務や束縛も含まれます。

成功と願望という形式で捉えられる自尊感情には、基礎研究から主に三つの特徴があることが明らかになっているようです。

①自尊感情の多次元性

自分とは何か、という哲学的な問いには深入りしませんが、唯一無二の「本当の自分」があるのではなく、自分には多様な側面があるという考え方があります。たとえば、子どもの頃、自宅で友人と話していたら親が部屋に入ってきた時に、話し方について気恥ずかしさを感じる、というあれです。【学校での私】と【家族の中での私】には多分に相違があるために違和感をおぼえるわけです。

このように自分には多様な側面があれば、それぞれの側面に対して自分自身の評価も異なることになります。こうした自己理解と自己評価の多面性を自己複雑性と言い、自尊感情が多次元から構成されることとも関連していると言えそうです。

②自尊感情の変動性

自尊感情とは、安定的に高かったり低かったりするというものではなく、失敗して低下したり成功したと認識して高くなったりといった変動的なものです。

したがって、静的なものとして捉えるのではなく、自尊感情が低下した時にどのように回復するかといった動的なシステムとして捉える必要があると言えます。

③自尊感情の本来性

変動がありながらも自尊感情を調整することで今のありのままの自分を良いと思えるようになるとされますが、この自分像を本来感(sense of authenticity)と言います。本来感を得るための方略として二つの側面があると基礎研究では言われています。

第一に、ジェイムズの公式の分子に当たる成功を拡大する方略です。「とても良い」(very good)の感覚を高めることを目指すもので、自己評価、自己有能感、コンピテンス、自己効力感、自己有用感といった要素と関連して、随伴性自尊感情と呼ばれるようです。

第二は、分母の願望を縮小する方略です。願望を小さくすることによって「じゅうぶん良い」(good enough)の感覚を高めることと関連します。具体的には、自己受容、自己好意、自己肯定感、自己価値感といったものと関連するもので真の自尊感情と呼ばれます。個人的には、この第二のアプローチに共感をおぼえます。

自尊感情を高めるアプローチ

自尊感情を伸ばすための介入研究の結果、主に二つのアプローチが明らかになっています。一つ目は認知行動療法と呼ばれるもので、教育や訓練を行うことで、対象者の問題行動を直接的に変容することで適応を目指すものです。

もう一つは対人関係に関するアプローチです。ソーシャルスキルトレーニングでは、対人関係を円滑にするための知識や技術を強化するものです。また、アサーショントレーニングは、他者への意見や感情の表出を強化して自己表現を高めることを目指すものです。

いずれも幼少期から学校における介入まで幅広く教育プログラムの実践と検証がなされていて、日本での取り組みも為されています。


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