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映画大好きポンポさん

全体としては、シネフィルと呼ばれるような人(映画マニアでもいいけれど)や、映像関係、マスコミなどクリエイティブ職に就いている人間なら共感できる作品だと思う。

また、アニオタは、「冴えカノ」とか「SHIROBAKO」といったクリエイティブ職の人間の産みの苦しみを描いた作品を大絶賛する傾向が強いので、本作も彼等からの高評価を得る予感がしてたまらない。
彼等には自分が制作側の人間のように思い込んでいる連中が多いから、作中のクリエイターの苦悩を自分の苦悩と勘違いしている人も多いんだよね。何も知らないくせに。

ちなみに自分はシネフィルでもあり、一応、クリエイティブ職の人間でもあるから、本作に共感できる部分はかなりあった。

でも、あえて言わせてもらうが、これってハリウッド(正確にはハリウッドを模したニャリウッドだが)を舞台にした作品ではなく、日本のミニシアター系邦画の制作現場の話だよね。

ハリウッドじゃ、労働時間は厳守だし、スタッフは自分の担当パート以外には口出し・手出しはしてはいけないし、撮影現場でプロデューサーがAPにメシを買いに行かせることもないからね。というか、現場で調理したあたたかい食事が提供されるのが普通だしね。
あと、アカデミー賞(正確にはアカデミー賞を模したニャカデミー賞)の授賞式で司会が受賞者にインタビューすることもない。それは、日本アカデミー賞だから…。

あと、若干、フィルム時代の撮影や編集とデジタル時代の撮影や編集を混同している所も見受けられる。

日本のコミックやアニメにおける映画現場の描写には、“それは違うよね?”って思うことが多々ある。最近でいえば、「神様になった日」の自主制作映画の撮影シーンでも感じたが、本作でもそういうことが多かった。

それから、撮影したシーンをプレイバックする時に合成したクリーチャーが映っているってのはないと思うな…。

まぁ、彼等は自分たちのアニメ現場も実写映画の現場も同じ映像制作の現場だし似たような役割だと思っているんだろうな。
ハリウッドのアシスタント・プロデューサーをアニメ現場の制作進行みたいなもの、あるいは、演出見習いみたいなものと思っていないか?
全然、違うんだけれどね…。

というか、ハリウッドでは、APや助監督が監督に昇格するなんていうシステムはほぼなくなっているからね。日本も今では似たようなものだが。

正直、もう少し、ハリウッドのシステムを勉強してから描いてほしいとは思ったかな。

まぁ、ほとんどのキャラクターが欧米人っぽい容姿なのに、主人公とヒロインだけは日本人キャラクターといっても通じるようなルックスになっているのは、ハリウッドではなく日本の映画制作現場というより、アニメの制作現場に重ね合わせているんだろうね。

それから、映画大好き(英語表記ではシネフィル)とされているポンポさんが、エンドロールを見ないというのも納得いかないな。映画大好きなら1コマ(今はデジタル上映だからコマって呼ぶのは間違いかな…)たりとも見逃すまいってなるはずだから、エンドロールを見ないなんてありえないんだけれどね。

まぁ、「ニュー・シネマ・パラダイス」も勝手に作品をカットして上映したり、フィルムを別の映画館でも使い回すからという理由でエンドロールまできちんと上映しなかったりというシネフィルにとっては許せないことをする連中の話なのに、自称映画好きの連中が大絶賛していたから、本作もそうした似非シネフィルにはマンセーされるんだろうね。

この作品のタイトルロールのポンポさんは90分以上の上映時間の映画は見たくない主義の人らしいから、主人公であるAP(後に監督となる)のジーンほど、映画に対する思い入れはないような気がするな…。
“映画大好きジーンくん”より、“映画大好きポンポさん”の方がタイトルにインパクトがあるからそうなったんだろうが、内容に偽りありって感じだな…。

ただ、“映画は90分まで”というポンポさんの主張には概ね同意できるかな。
個人的には90分だとちょっと短いとは思うから、120分までは容認してもいいとは思うが。
どんなに面白くても、どんなに感動しても、どんなに芸術性が優れていても、上映時間を120分までに収められなかった作品は、監督やプロデューサー、脚本家、編集マンといった人たちの力量不足だと思う。
せめて、120分を超えるなら、間で休憩を挟むなどして、事実上の2部作にするべきだと思う。
休憩なしで3時間以上も上映するなんてありえないよ。
まぁ、「シンドラーのリスト」も「タイタニック」も「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」も映画史に残る作品だとは思うけれどね。
というか、3作ともアカデミー作品賞を受賞しているから名作なんだけれどね…。

それから、ポンポさんが好きな映画の条件が“90分以内の作品”というのに合わせて、劇中劇(ジーンの監督作品)も、そして、現実世界の本作の上映時間も90分にするというメタに次ぐメタな構成もやり過ぎかなとは思ったかな。

なので、シネフィルとしては不満や疑問に思うことも多かった。
でも、全体としてはプロでもアマでもいいから創作活動をしたことがある人間なら何らかの共感はできる要素も多いので、鑑賞後の満足度は高いと思う。

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