見出し画像

マイ・ブロークン・マリコ

永野芽郁と奈緒の組み合わせは誰もが2018年放送の朝ドラ「半分、青い。」を思い浮かべる。

同作が酷評された理由はいくつかある。

●団塊ジュニアの話なのに何故か背景となる風俗はバブル世代のもの
→だから、バブル世代、特に女性には絶賛されていた

●一般人には漫画家が100円ショップ店員に転職するというストーリー展開が理解されなかった
→クリエイティブ職従事者や経験者からはリアリティがあると評価されていた

●上京して一時期的にせよ成功を収めた人間が挫折して帰郷するという展開が朝ドラ視聴者に多い地方民や地方出身の都市部住民には地方蔑視と受け止められてしまった
→ネイティブな都市部住民からすれば地方出身者にはよくあることと受け止められていた

ここまでは賛否両論だ。しかし、以下の要素はそうではない。

●主人公の片耳が聞こえないという障害者設定が途中からほとんど忘れ去られてしまった
●主人公・鈴愛がヒステリックで自分勝手な性格
●脚本を手掛けた北川悦吏子が作中のミスを認めないことから炎上した
→この辺はほとんど擁護のしようがなかった

特に自分勝手な鈴愛と炎上体質の北川悦吏子が同一視され、その鈴愛を演じた永野芽郁も同じような性格の悪い女だと思われてしまった。
実際、彼女にとって次回作となった2019年のドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」で演じた主人公はウザく見えたし、彼女が声優として出演した同年公開のアニメ映画「二ノ国」のインタビュー映像も鈴愛が話しているかのような尊大な語り口に聞こえた。おそらく、長いこと鈴愛を演じたことによって、彼女自身に鈴愛の性格がかなり乗り移ってしまっていたのではないかと思う。

2020年公開の映画「仮面病棟」なんかはほとんど風俗嬢みたいなビジュアルで出ていたから(個人的には好み)、おそらく、この時点では彼女のパブリックイメージは回復していなかったんだと思う。

永野芽郁が愛されキャラになったのは、同年夏放送のドラマ「親バカ青春白書」からだと思う。
同級生になった父親に溺愛される娘を演じたことにより、現実世界でも愛されキャラになったというところだろうか。

今夏放送のドラマ「ユニコーンに乗って」は「半青」といい勝負ができるくらい酷い内容のドラマだったが、永野芽郁のイメージは悪化することはなかった。

福田雄一(「親バカ」)にも山田洋次(「キネマの神様」)にもタナダユキ(本作)にも起用されるんだから、すっかり、老若男女から好かれるタイプの若手女優になったという感じだ。

その一方で、「半青」放送終了後すぐに評価を上げた女優もいる。それは、鈴愛の幼なじみの1人を演じた奈緒だ。

紆余曲折あって結ばれた鈴愛と律のカップルよりも、龍之介と菜生の方が愛されキャラになっていたしね。というか、奈緒が菜生(読みは同じ“なお”)を演じていたんだよね。この頃はほとんど無名に近かったけれど、その後、売れっ子になったよね。まぁ、出演作品が多いからほとんどチェックできていないけれど。

でも、今では永野芽郁も奈緒も好感度の高い女優だから、最終的には「半青」に出たことはマイナスではなかったってことなのかな。

とはいえ、その後の路線は微妙に違うんだよね。
奈緒は劇場版も作られたドラマ「あなたの番です」のような映画・ドラマフリークでない人でも知っているような作品に出ている一方で、ミニシアター系映画やBS放送ドラマの出演も多い。
でも、永野芽郁はゴールデン(プライム)にキー局で放送されるドラマやメジャー系映画(ワーナー の日本映画含む)が中心だった。

つまり、本作は奈緒の土壌に永野芽郁が入り込む形で、「半青」以来の共演になったということだ。

とりあえず、永野芽郁はいつもとは違うタイプのキャラクターを演じてはいるが、演技自体はそんなに変わらなかった。また、中学生の頃からの喫煙者という設定もそんなに効果的ではなかった。まぁ、両親の離婚でグレて吸うようになったというありきたりな理由なんだろうけれどね。それで、親から虐待されている同じく家庭環境が良くない奈緒演じるマリコと親友になったということなんだろうが、テンプレ的な設定にしか見えないかな。

一方で、奈緒はやっぱり、こういうアート性が強めの作品に向いていると改めて思った。共同配給にKADOKAWAが入っているということは、そこまで小規模作品というわけではないけれどね。

それにしても、典型的なリアリティに欠如した日本映画って感じだった。

冒頭で主人公がマリコの自殺を知るニュースのシーンでアナウンサーが“本日未明”と言っていてガックリきてしまった。

テレビニュースも新聞も本日なんて言葉は使わないんだよね。ワイドショーのMCやコメンテーターは“本日”って言うけれど、きちんとしたニュース原稿では本日という言葉は使わない!

本当、日本の映画人ってテレビニュースも見ないし新聞も読まないから知らないんだろうね。だから、邦画ってリアリティがないんだよね。

それから、自殺したマリコの設定もガバガバすぎる。父親からは言葉、暴力、レイプとあらゆる虐待を受け、母親にも見捨てらている。そして、実家はゴミ屋敷のような状態だった。なのに、着ている服がきれい、というか、主人公よりオシャレなものを着ているのがよく分からない。

しかも、主人公に対して“彼氏を作ったら許さない”とか百合をにおわせることをしたり、主人公の前でリストカットしたりしているのに、自分はとっかえ引っ換え彼氏を作っているのは何故?性的虐待を受けているのだから、彼氏を作ることは怖いのでは?

百歩譲って、その彼氏の中にはDV野郎もいたということだから、父親から性的な関係を強要されたように無理矢理、彼女にさせられたというのならまだ分かる。でも、自分からふっていたりもするんだよね。全然、この自殺した親友のキャラ設定に共感できないのだが…。

それから、ストーリー展開もご都合主義だらけ!
主人公がマリコとの“思い出の場所”に向かうバスの車内にたまたまいた女子生徒が、主人公のバッグを盗んだ奴にレイプされそうになるとか、バッグを盗まれて無一文になった主人公を助けてくれた釣り師も主人公同様、“思い出の場所”で過去に自殺しようと考えたことがあったとか、狭い範囲で話を進めてんじゃないよって感じで呆れてしまった。
 
あと、主人公はブラック企業に勤務しているということだが、上司がパワハラ体質なのは確かだとは思うが、主人公は真っ昼間からビールを飲んでいられるし、明るいうちに帰宅できているようだし、何日も仕事を放棄してもクビにならないし、それほどブラックではないのでは?

その一方で、中途半端にリアルなところもあるんだよね。主人公は中学生の頃から喫煙していたようだが、その“回想”シーンで、中学生時代の主人公役の若手女優が口につけないとはいえ、煙が立っているタバコを手にしているのはダメでしょ!
吸わなくても副流煙だけでも十分に体に悪影響を与えるんだからさ!この若手女優って未成年だよね?何考えてんだよ!昭和ならともかく、令和なんだから、そんなシーンはいらないんだよ!火をつける前のタバコを手にしているだけで十分でしょ!こんな場面をリアルに描く必要はない!
もっと、他のシーンや設定にリアリティを持たせてくれ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?