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第95回アカデミー賞ノミネート発表

アカデミー賞のノミネートが発表された。
基本的にはほぼ予想通りの顔触れといった感じだろうか。

サプライズというほどではないが、あえて予想通りにならなかった点をあげるとすれば、作品賞候補に「RRR」が入らず、かわりに「西部戦線異常なし」が入ったことだろうか。

両作品とも非英語作品だから、非英語作品枠というのがあるとすれば、米国の映画賞なんだからノミネートされるのは1本でいい。
それで、どちらを取るかとなった時に現在のポリコレ至上主義のハリウッド的視点で「西部戦線異常なし」が選ばれたのだと思う。

一時期のような異常な支持ではなくなっているものの、依然として米国リベラル勢は、ロシア=悪、ウクライナ=善と捉えているのが多いことから、同作の作品賞候補入りの背景にウクライナ情勢があるのは間違いないと思う。

特にドイツがウクライナに戦車を供与するというニュースが欧米では連日大きなニュースとなっていることから、第一次世界大戦下のドイツ軍を描いた「西部戦線」が嫌でも現実世界とリンクしてしまうため、まぁ、非英語作品枠がこちらにいってしまうのも仕方ないかなという感じかな。

また、ポリコレ脳の人たちにはいまだにインドは階級差別や男尊女卑の国のイメージが強いことから「RRR」は敬遠されたというのもあるのではないかと思う。

作中では白人が分かりやすいくらいの悪役となっていて、そういう意味では非常にポリコレ的なのに作品賞候補に入らなかった。それどころか、歌曲賞にしかノミネートされなかったのは、候補を選ぶ資格のある人たちの多くが同作を見ておらず、ステレオタイプ的なインドのイメージで過小評価した結果なのではないだろうか。

また、国際長編映画賞に出品されたインド代表作品が「RRR」ではなく「エンドロールのつづき」となってしまったことも影響していると思う。

余程のマニアでもない限り米国の映画関係者はインド映画を見る機会なんてあまりないだろうし、ましてやインド映画というのは上映時間が長いのが相場だから忙しい業界人には敬遠される可能性もある。だから、インド代表作品は多くの関係者に見てもらうため、インド映画にしては珍しく上映時間が2時間以内に収まっている「エンドロール」が選ばれたのかも知れないしね。

そもそも、国際映画賞に出品される作品って必ずしも欧米の評価や人気とは一致しない。アカデミー賞のメインの作品賞など他の部門にノミネートされていながら、国際映画賞の候補になっていない作品は何本もある。それどころか出品国の賞レースともリンクしていない場合もある。

今回の国際映画賞に日本からは「PLAN 75」が出品されたが、同作は日本アカデミー賞の最優秀作品賞候補である優秀作品賞受賞作(こういうアホな全員受賞者制度やめてほしい…)の5本には入っていない。
というか、今回を含めた過去5年の日本代表作品を振り返ると、日本アカデミーの作品賞“候補”5本に入ったのは、最優秀作品賞を受賞した「万引き家族」と「ドライブ・マイ・カー」の2本だけだ。ちなみに前者は本家のアカデミー賞では外国語映画賞(現・国際長編映画賞)ノミネート作品、後者は国際長編映画賞受賞作となっている。

それから、いわゆるアジア枠の存在というのも「RRR」が外された要因かも知れない。ここ最近のアカデミー賞は黒人、女性、LGBTQ、障害者と同様にアジア系にも配慮しなくてはいけないといった風潮がある。
ここ最近の作品賞候補を見るとアジア枠があるのではないかと言ってもいいくらいだ。

2019年度は韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が作品賞受賞。
20年度は米国映画で主人公は白人だが、中国出身の女性監督がメガホンをとった「ノマドランド」が作品賞受賞。
同じく米国映画だが、韓国系米国人監督による台詞の大部分が韓国語の「ミナリ」が作品賞ノミネート。
21年度は日本映画「ドライブ・マイ・カー」が作品賞ノミネート。

そして、今回は米国映画だが共同監督の1人がアジア系で主要キャラをアジア系キャストが演じている「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が作品賞にノミネートされている。

まぁ、ドイツ映画の「西部戦線異常なし」やスウェーデンの監督による英語作品「逆転のトライアングル」も作品賞候補になっているから、これ以上、インターナショナル枠はいらないでしょって判断で「RRR」は外されたのかな?

というか、「西部戦線」や「トライアングル」が入ったせいで、黒人枠作品がノミネートされなくなってしまったが、黒人がブーブー文句を言いそうだよね。まぁ、「エルヴィス」は広義では黒人差別ものだとは思うけれどね。

それから、映画館に久々に人が集まったということで、功労賞的な意味合いから「トップガン マーヴェリック」や「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」を作品賞候補にしている面もあるから(後者は日本では期待外れの成績だが)、娯楽枠でインド映画までケアしている余裕がないってのもあるんだろうね。

そんなわけで、「西部戦線」が入ったおかげで、何とか今年もNetflix映画が作品賞候補作品となった。これで、5年連続だ。ちなみに顔触れはこんな感じだ。

2018年度「ROMA/ローマ」
19年度「アイリッシュマン」、「マリッジ・ストーリー」
20年度「シカゴ7裁判」、「Mank/マンク」
21年度「パワー・オブ・ザ・ドッグ」、「ドント・ルック・アップ」
22年度「西部戦線異常なし」

前年度、Apple TV+作品の「コーダ あいのうた」が配信映画として初めて作品賞を受賞したし、同作以外にも前述のネトフリ2作品、さらに米国では劇場公開と同時にHBO Maxで同時配信された「DUNE/デューン 砂の惑星」と「ドリームプラン」も含めると作品賞候補10本のうち半分の5本が配信映画という状況だったが、今回は「西部戦線」のみとなってしまった。

世界のエンタメ界はどんなに感染が拡大しても、関係者が感染した影響などでスケジュールが遅れたりしない限りは予定通りリリースするという方向になっているので劇場公開と同時配信の作品はほとんどなくなったし、ネトフリとしても自分たちは配信映画のフロントランナーだったはずなのに他社に先を越されて意気消沈気味になり賞レースへの積極性が低下したと思われるので、まぁ、配信映画のノミネートが減るのは自然な流れだと思う。

それにしても、ネトフリ映画で今回、作品賞にノミネートされる作品が「西部戦線」になるとは思わなかった…。
ノミネートされない可能性が高いと思っていたし、ノミネートされたとしても「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」だろうと思っていたからね…。

そして思った。毎年、秋から年末にかけて賞レースに絡みそうなネトフリ映画を配信に先駆けて日本の劇場でも先行上映するのが恒例行事になっているけれど、今回上映された5本はどれも作品賞候補にならなかった…。
「バルド、偽りの記録と一握りの真実」が撮影賞、「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」が長編アニメーション賞にノミネートされただけ(どちらもメキシコ人監督作品)。

何故、「ナイブズ・アウト」や「西部戦線」を上映しなかったのか理解できないな…。まぁ、契約者増加につながるビッグ・タイトルだからってことなんだろうが、米国ではどちらも劇場上映されているからね。
本当、日本のネトフリって、というか、ネトフリに限らず配信サービスの日本版って、どこもこういう姿勢で世界的には劇場上映した作品も日本では配信オンリーになることが多いよね。結局、日本人って配信サービスに金を出す余裕がないから、劇場上映されるならそれでいいやになり契約してくれない。だから、ビッグ・タイトルは日本では上映しないって、なってしまうのかな?

でも、長編アニメーション賞受賞はほぼ確定と言っていい「ピノッキオ」を上映してくれたことは感謝する。

同賞と言えば、日本メディアは「犬王」がノミネートされるか否かという点にばかり注目していたけれど、個人的には予想通りノミネートされなかったって感じかな。

まぁ、欧米人が好きそうなオリエンタリズム要素があり、障害者やマイノリティなどに対する差別問題も描かれている。そして、典型的な日本の手描きアニメっぽい作画ではない。
だから、ここ最近の日本のアニメ映画では珍しく欧米の賞レース向きの作品だとは思ったけれどね。
基本、欧米の映画賞レースのアニメーション部門で評価されるのは、政治的・社会的なメッセージがある作品か、技術的に注目される作品だから、どちらの要素もない、ノンポリ(場合にはによっては権力に従順な)で手描き(もしくは手描き風CGのセルルック)の日本アニメなんてノミネートされるわけがないしね。

「犬王」ですらノミネートされなかったとなると、今回は米国の公開がまだのためエントリー資格を得られなかった「すずめの戸締まり」や「かがみの孤城」が次回の賞でエントリー資格を得たとしてもノミネートは無理だろうねって思う。メッセージだけなら賞レース向きだけれど、作画は典型的な日本アニメだからね。
というか、普通に考えたら次回はパヤオの新作があるから、欧米の映画賞が興味を持つ日本アニメはこれに集中するはずだから、「すずめ」や「かがみ」の候補入りは難しいと思う。

まぁ、今回に関しては本命視されている「ピノッキオ」、そして、「Marcel the Shell with Shoes On」と非CGアニメーションが2本も候補に入っているから(どちらもストップモーション・アニメーション)、日本アニメの出番はなかったって感じかな。


最後に今回の主要部門の受賞結果がどうなるか予想しておこう。
これまでの前哨戦通り、主演女優賞は「TAR/ター」のケイト・ブランシェットでほぼ間違いなし。主演男優賞は誰が取ってもおかしくないが、これまでの戦歴を見ると、、「イニシェリン島の精霊」のコリン・ファレルが一歩リードって感じかな。

そして、作品賞・監督賞・オリジナル脚本賞をこれまでの賞レースで3強とされている「フェイブルマンズ」、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」、「イニシェリン島の精霊」で争う、場合によっては分け合うって感じかな。
個人的には作品賞は「フェイブルマンズ」が今のところ最有力かなとは思う。何しろ、アカデミー作品賞には映画・音楽・マスコミなどクリエイティブ職を描いた作品が選ばれるケースが多いからね。

2010年度以降に限っても

11年度「アーティスト」映画
12年度「アルゴ」映画
14年度「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」演劇・映画
15年度「スポットライト 世紀のスクープ」新聞
18年度「グリーンブック」音楽
21年度「コーダ あいのうた」音楽

12回中6回がクリエイティブ職ものだからね…。
となると、スティーヴン・スピルバーグ監督の自伝的作品である「フェイブルマンズ」は有利だよね。
あと、同作で作曲賞候補となったジョン・ウィリアムズは今回が53回目のノミネートだけれど、受賞は93年度の「シンドラーのリスト」以来ないから、そろそろ取って欲しいし、その久々の受賞作が半世紀にわたってコラボしてきたスピルバーグ監督の自伝的作品となれば胸熱エピソードになるよね。


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