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プライバシーの技術と法制度をやってきた人間のスタートアップ転職

こんにちは、竹之内隆夫です。
10数年間プライバシー保護技術の研究開発・事業開発に携わり、技術と法制度の間の活動をやってきた人間が、プライバシー系のスタートアップであるAcompany(アカンパニー)に転職した理由を紹介します。
この分野は大企業が長年研究してきているのですが、その中でのあえてのスタートアップ転職です。参考になればと思い記載します。



概要

長文になったので、先に要点を箇条書きにします。

  • いわゆるAIな時代はデータが重要で、この中でも企業・組織間でのデータ連携が次の成長軸

  • このデータ連携を促進するのがプライバシー保護技術

  • プライバシー保護技術の適用には、技術だけでなく法制度も重要。この活動をある程度やってきた

  • グローバル動向も踏まえると急ぐ必要がある。その中で、Acompanyはリスクを取って本気で活動できる企業

  • 連携が次の成長に必要なので、是非皆さん一緒にやりましょう!

自己紹介

まず自己紹介を簡単にします。

  • 40代、男性、子供2人、東京在住

  • 経歴:NEC、デジタルガレージ、LINE(LINEヤフー) を経てAcompany

  • 仕事:ほぼ一環してプライバシー保護技術の研究開発と事業開発

1. 何に自分の人生の時間をかけるか

そもそも論で恐縮ですが、転職を考える前に「そもそも自分が何をしたいか」という、いわゆる「何のために生まれて、何をして生きるのか」(アンパンのマーチ)から考える必要がありますよね。
(とはいえ、「いい歳になって考えてるのはただの暇人だな」(カーボーイ・ビバップ)という言葉もあるので、深く考え過ぎず好きなことをやるのが良いですよね)

私の場合は、以下のような子供時代・学生時代を過ごし、当時でいうIT系の研究開発を志していました。

  • 小学時代:NHKスペシャルの「電子立国日本の自叙伝」で計算機に興味

  • 中学・高校時代:続編の「新・電子立国」と、月刊アスキーの後ろの方にあったLinuxの記事に感動したことでソフトウエア系に

  • 大学時代:インターネット楽しい、プログラミング楽しい、けどデスマーチはきつい

  • 大学院時代:研究面白い

その後NECに入社し、プライバシー保護技術の研究開発にたずさわり、その活動の中で以下に気づきました。

  • 研究者は命を削って研究しているが、事業にならない場合が多い。単純に悔しいし悲しい。

  • 特にこの分野は技術だけでは事業にならない。法制度も重要。

当時、個人情報保護法の改正(平成27年改正)の議論もあり、技術者が法制度にも興味を持つように学会誌で特集を組んだり、講演イベントを行ったりしました。大御所の先生とも関われて、大変良い経験でございました。

この頃、技術者は法制度のことが良くわからず、両方の知識を持つ人が求められていることを知りました。(セキュリティ・プライバシーの技術は、ある前提を仮定したうえで、安全性を定義します。そのため、技術を実社会に適用するには、その前提をどう担保するかが重要で、その担保のために法制度で規定や罰則を設けたりします。つまり、技術で全てを守るのではなく、一部は法制度で守る形になるので、その境目が肝要と理解しています。)

そして当時の上司からも「竹之内君は社会人博士も取って頑張っているけど、多分マネジメント系だと思うよ」と的確なご指摘を頂き(上司に常に恵まれ、どの時代の上司も的確な指摘をくださいました。大変良く見てくださって感謝しています)、研究系から徐々にマネジメント系に進み、法制度の理解も深めていきました。

このような経緯で、プライバシーの技術と法制度の両方に関する活動に、ある程度の自分の時間をかけることに決めました。

2. データの重要性と危機感

その後、NECからデジタルガレージに転職し、プライバシー保護技術の研究開発・事業開発を行うチームを組成しつつ、MBA取得もしていた頃、IT分野での課題的なものが気になり始めました。

MBAの授業でよく出るのが「規模の経済性」や「ネットワーク効果」です。両方ともざっくりいうと、規模(売上)やユーザ数が増えると利益率が高くなり業界で勝ちやすくなるという事業の特性です。いわゆるIT系・ネット系は研究開発費の比率が高かったり、プラットフォーム的なマッチングのサービスであったりするため、これらの特性が効きやすいと言われています。さらに、いわゆるAIの時代になってデータが重要となると、このような特性はさらに効きやすくなっていくと言われています。

当時、単純化した例として話されていたのが、以下のような問いでした

  • 「同様な技術力を持つA社とB社がいて、A社は日本語でサービスを開始し、B社は英語でサービスを開始したとする。どちらが先に多くのユーザを得て、多くのデータを得られるか?(英語圏の人口は日本語圏の10倍以上)」

  • 「今後はさらにAIの時代となり、データが重要となるのであれば、A社とB社のどちらが、より良い分析をして、より良いサービスを提供できそうか?」

  • 「インターネットによって世界中へのサービス提供が容易となる中、本当に規模の経済性などが効くのであれば、(ピーター・ティールの「zero to one」の本に書かれている様に)あるサービスカテゴリで世界で1社独占が進む。その場合、A社とB社のどちらが生き残りそうか?」

  • 「このような脅威は、今はネット業界、次は自動車業界などと言われているが、もし今後全ての業界でDXが進んで、どの業界もデータが重要となるとしたら?」 

もちろん実ビジネスは、このような単純にモデル化した議論とは違うと知りながらも、ある程度は合致する気がして、危機感が増しました。
「GAFAはどんどん日本の展開するよね、どうするの?」「自社はGAFAとは違う市場と思っていても、そのうちGAFA的な企業が来るかもよ、どうするの?」「君はIT系にいるのに、この程度のことも考えてないの?」と問われている気がしていました。

3. データ連携のためのプライバシー保護技術

そんな危機感を持ちつつも、ほぼ同時に、やはりプライバシー保護技術にかけても良いかもと、ますますやる気が出ました。
(なお、「プライバシー保護技術」と記載していますが、最近は「PETs(Priavcy Enhansing Technologies)」や「プライバシーテック」という呼び方が多いです。用語は、時代と共に流行りが変わるのですが、この記事では過去の時代も記載しているので、総称としてこの記載にしています)

プライバシー保護技術は名前的にはプライバシーを保護するための技術ですが、個人的には、プライバシーを保護できるので、よりデータを分析・学習できるようにする技術と捉えています。

そして、プライバシー保護技術という技術カテゴリの中でも、「秘密計算」は、データを出さずに、データを結合した分析・学習ができる技術です。例えば、C社とD社がいて、それぞれが持つデータを相互に開示しないまま、それぞれのデータを暗号化したまま結合し、暗号化したまま分析やAIの学習を行い、その結果だけを得ることできます。つまり、データを出さないのだけど、データの価値だけ出せるという不思議な技術です。
(なお、秘密計算は、秘匿計算やMulti-Party Computationとも呼ばれたり、様々な呼び方があります。)

これを使えば、単なるデータ獲得の競争ではなく、データ連携の競争にできる!日本古来の「和」の精神で連携だ!という感じです。

参考ですが、このあたりの考えは学会誌で記事にしていたりします。技術については、Acompanyの技術説明ページも参考になります。
(なお、界隈の方には「情報銀行」という制度が思い浮かぶかもしれませんが、それではなく、後に出てくるNTTドコモさんやJALさんらの実証実験事例の方です。このようなことが、正しく広まる世界をイメージしています。)

4. 技術ベンダーではなくサービス提供者へ

そんなこんなで、ある程度の危機感を持ちつつも、かつての同僚から誘われ、LINEに転職しました。
転職理由は、以下のとおりです。(なお、この記事も参考になります)

  • 会社の危機感に共感
    (2019年のLINEとヤフーの経営統合発表資料のp.10に研究開発費を「グローバルテックジャイアント」と比較した表があり、100倍以上の差があり「強い危機感」と表現しています。資料が表だったので、直感的にするためにExcelでグラフにしたことがあるのですが、この100倍以上の差をExcelはゼロ扱いにしてグラフに色を付けてくれませんでした。凹みました。)

  • プライバシーがより重要になり、自分が貢献できるのではないか

  • 技術ベンダーではなく、サービス提供企業を経験したい

今までの所属した企業全てに共通しますが、上司・同僚に恵まれ、社内外の皆様の様々な助けがあって、良い経験が出来ました。改めて御礼申し上げます。

5. Acompanyとの関わり

Acompanyとの最初の出会いは、前々職のデジタルガレージの頃で、関係会社がAcompanyに出資したことがきっかけです。それ以降、同じ業界のとして意見交換も行い、高橋CEOとは何回か一緒に登壇したりもしました。(例:123

特に、Acompanyらが設立したプライバシーテック協会には、アドバイザーという立場で関わっており、様々な面で連携させてもらいました。

6. 転職のきっかけ: 技術と法制度の新展開

10年以上、プライバシー関係の研究開発・事業開発に携わりながら、技術と法制度の両方に関する活動を継続していました。特に、業界団体として「秘密計算研究会」やデータ社会推進協議会の「秘密計算活用WG」の立ち上げなども行い、何度か講演イベントを主催するなどもしていました。

そんな中、今から約1年半前の2022年10月に衝撃的なことが起こりました。NTTドコモさんとJALさんらが行ったデータ連携の実証実験の事例です。まさに、過去から私が目指していたものでした。当然、一部界隈で話題になり、業界関係者とこの件で議論を重ねたり、講演イベントでも議論しました。

そして今年は、個人情報保護法の「いわゆる3年ごと見直し」の議論のタイミングになっており、このようなプライバシー保護技術(PETs)についても話題になっています。

Acompanyの高橋CEOらと色々と情報交換していく中、Acompanyとして、PETsの技術進展に合わせた法制度の議論を本気で進めたいという話を聞き、「その仕事は私がやるべきでは?」と思うようになりました。

7. この分野の課題とAcompanyへの転職理由

プライバシーテック(「プライバシー保護技術」や「PETs(Priavcy Enhansing Technologies)」 とも呼ぶ)は、ここ数年で実用化が進んでいます。
しかし、海外ではBigTech企業を中心に導入が進んでいますが、残念ながら日本では導入が今ひとつです。
その理由は様々あると思いますが、プライバシーテックが新しい技術であるため、法制度との関係整理などが間に合っていないのが原因の一つだと考えています。(専門家向けの一例ですが、「秘密分散」という技術は法的にメリットがある「高度な暗号化」には該当せず「引き続き検討」とされています。参考:2021年パブコメの「意見募集結果(通則編)」番号169 )
法的な扱いが不明確だと、導入メリットも不明確だという評価をされがちで、その結果、導入タイミングは今では無いと、躊躇される傾向にあります。

技術進展に合わせた法制度の適切な変更は、業界において誰かが行う必要がある活動です。このような活動を進んでやる人はそれほど多くない中、Acompanyが本気で取り組むという話を聞いた時、素晴らしいと感じました。
この分野は大企業が研究開発を長年行っており、当然このような活動も進めてきています。しかし、海外の動向などを見ても、日本でも活動を急がなければ成長が遅れてしまい、結果世界に伍して戦えないのではないかという危機感を持っています。その中でスタートアップのAcompanyが、ある程度のリスクを背負ってスピード感をもって活動をするのは、業界全体を見ても正しい活動だと思います。そして、その活動が出来るのは、すべきなのは、私だろうと思った次第です。

さらに、昔私が感じていた「秘密計算って面白い」「けど、マイナーな技術で誰も知らない」「もしかしたら、ネーミングが良くないかも?」などなど色々思う中、急激に成長しているAcompanyが、徐々に増えていく仲間達が、このような技術に興味をもち、本気で取り組んでいる姿が大変嬉しいと思いました。

「志が同じであれば、一緒にやったほうが、より遠くに行ける。そのほうが楽しい」みたいな言葉を聞いた事があります。

Acompanyへの転職もそうですが、今後は、企業間の連携がこれまで以上に重要になると思っています。
目指す方向が同じであれば、是非一緒にやっていきましょう。

まとめ

長くなったので、まとめます。

  • いわゆるAIな時代はデータが重要で、この中でもデータ連携が次の成長軸

  • このデータ連携を促進するのがプライバシー保護技術

  • プライバシー保護技術の適用には、技術だけでなく法制度も重要。この活動をある程度やってきた

  • グローバル動向も踏まえると急ぐ必要がある。その中で、Acompanyはリスクを取って本気で活動できる企業

  • 連携が次の成長に必要なので、是非皆さん一緒にやりましょう!

関係者の皆様のご指導・ご協力のもと、豊な社会を作っていきたいと思っております。今後とも、よろしくお願いいたします。

おまけ

転職に際して以下の点も重要でした。参考です。

事業戦略の理解

上記では、主に気持ちの面を記載しましたが、戦略も同様に重要です。
転職前にAcompanyの事業戦略を聞きつつ、私が思っている仮説をぶつけつつ議論していく中で、方向性が一致していることを確認しました。
正直、結構な時間をかけて、深い議論をさせてもらいました。経営陣の本気さが伝わり、とても良かったです。是非一緒にという気持ちになりました。

スタートアップというリスクへの対処

大企業と違い、スタートアップはリスク(例:倒産リスク)は高いです。
リスク(上下の変動のブレの大きさ、不確実性)が高い場合は、それに見合ったリスクプレミアム(例:報酬の増額)で対処するのが良くあることかと思うので、今回はそのようにして頂きました。

昔は、スタートアップは大企業よりも報酬が少ないイメージでしたが、最近はそのようなことは無いのですね。もし大企業にいてリスクに躊躇されている方は、このように対処するのも良いかもしれません。

Acompanyのカルチャー

転職先の企業とのカルチャーが合致するかという、いわゆる「カルチャーフィット」は重要です。
報酬について議論する際に、高橋CEOから「Acompanyのカルチャの一つにBe Coolというのがあります。自分を犠牲にせずに、しっかりと要求してください」と説明がありました。共感するカルチャーの一つです。

Acompanyに興味ある方は、是非採用ページを参照ください。一緒に働けると嬉しいです!


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