マガジンのカバー画像

読後メモ

4
運営しているクリエイター

記事一覧

境涯から生み出された稀有な短編たち。

境涯から生み出された稀有な短編たち。

 ルシア・ブラウン・ベルリン (Lucia Brown Berlin)の『掃除婦のための手引き書』を読んだ。
 彼女は1936年生まれのアメリカの短編小説家だ。彼女には少数の熱烈なファンがいたらしいが、名声を得るには没後11年の歳月が必要だった。そのきっかけとなったのが短編集『掃除婦のための手』だ。
 日本でも同書は、岸本佐和子さんによって翻訳され、二○二○年本屋大賞翻訳小説部門第二位、第一○回T

もっとみる
「わからなさ」というのりしろ。

「わからなさ」というのりしろ。

「どんな別れのときを迎えるのか、それを思うと一読者である自分も寂しくなった」

そんな内容の、とあるTwitter氏の投稿が目に入った。彼をフォローしているのかもしれなかったが、Twitter氏とは直接的なつながりはないと思う。
だが、この言葉は妙に私の気持ちの中に飛び込んできた。

書き手と同じように、一読者に過ぎない自分自身も登場人物たちとの別れが寂しい。そんなことを思わせる本とはどんなものな

もっとみる
あわいの淡い記憶を物語る。

あわいの淡い記憶を物語る。

2020年2月19日。
アーツ千代田3331の、おなじみの302号室にいた。

<ディスカッション4>
「記憶・記録を紡ぐことから、いまはどう映る?
見えないものを想像するために」というイベントで
瀬尾夏美さんの話を聞いた。
都市史研究家の、早稲田大学の佐藤洋一さんと一緒だった。

そのとき、瀬尾さんの著書を購入した。

サインもしていただいた。

この本は、東日本大震災のあと、陸前高田に移り住ん

もっとみる
「家」にことばを与え記す。

「家」にことばを与え記す。

中田一会著【家を継ぎ接ぐ】 読了

実におもしろかった。
この本は、広報・PRを生業としている中田一会さんが
空き家となっていた祖父母の「家」に住むことを決めたところから始まる

ドキュメンタリーだ。
自費出版なので、ISBNもなにもない。

その「家」は避難所だという。

自分自身の、親兄弟の、親戚の、不思議な知り合いたちの。

「家」という物理的な装置があることによって、
さまざまな人たち

もっとみる