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1988⇔2020 音楽は、タイムマシン。(「ずっと、音だけを追いかけてきた」・番外編)

*この記事は、InstagramFacebookの投稿を元に加筆しています。
全文無料公開です。

2020年1月25日。
オリジナル・ラブ主催のイベント「LOVE JAM vol.5」にコーネリアスと中村佳穂ちゃんが出ると聞いて、何ヶ月も前からカレンダーに大きく赤丸をつけておいた。音楽ファンなら気になる3組のラインナップだが、僕にとっては特別な意味合いがあったから。長くなるけれど、書いてみます。


1988年・昭和最後の年。僕は大学を出て上京し、デビューアルバムの制作を少しずつ進めていた。ふとしたきっかけで足を運んだ渋谷のラ・ママというライブハウス。その日に見たオリジナル・ラブ / ロリポップ・ソニックという2つのバンドのステージに度肝を抜かれた。

ロリポップ・ソニックはキャッチーなメロディと甘い声にパンキッシュな演奏のミスマッチが印象的だった。オリジナル・ラブはXTCとスウィング・ジャズをミックスしたような独特の音楽性と田島くんの存在感が印象に残った。どちらも今まで観てきたアマチュアバンドとは明らかに違うオーラを放っていた。

人見知りの自分が話しかけて、その日のうちに連絡先を交換した。それ以来、僕は何度も彼らのライブを観に行った。まだ「渋谷系」なんて言葉の欠片もない1988年に、僕らは渋谷で出会った。

一度、六本木インクスティックでロリポップ・ソニック改めフリッパーズ・ギターとオリジナル・ラブの2マンライブがあると聞いて、合間に飛び入りして2曲だけ弾き語りしたことがある。その年の10月に僕はデビューした。

翌1989年・平成元年にフリッパーズ・ギターがデビュー。オリジナル・ラブは満を持して1991年に僕と同じ東芝EMIからメジャーデビューした。そんな流れと縁で、翌1992年には高野寛&田島貴男名義でシングル「Winter's Tale 〜冬物語〜」を制作することになる。


「LOVE JAM vol.5」のもう一組のゲスト、中村佳穂ちゃんとは2013年に京都で出会った。京都精華大学にポピュラーカルチャー学部という学部が設立されて、僕は生まれて初めて大学で教える立場になった。たまに他の学部から紛れ込んできた「モグリ」の学生がいた。その中の一人が彼女だった。

佳穂ちゃんは在学中から弾き語りで非凡な才能を発揮していた。僕の授業で「色をテーマにした曲を作る」という課題が出ると、彼女はすぐさま学食の横のピアノに向かって、その日のうちに1曲書きあげてしまった。「LOVE JAM vol.5」で1曲だけ弾き語りで演奏された「My Blue」という曲は、その時、課題への作品として生まれたのだ。

佳穂ちゃんは定期的に学内で投げ銭ライブイベントを行っていて「高野さんも出てもらえませんか?」(精華大では教授のことを『さん付け』で呼ぶことが多い)と言われて、結局通算5回くらいは一緒にやった気がする。イベントでセッションすると、学生と先生というよりは、初めからミュージシャン同士で音の会話をしている感覚があった。



卒業後彼女は、セッションの旅で知り合ったメンバーとバンドを組み、2年位かけて「AINOU」というアルバムを作った。元々持っていた弾き語りの世界に緻密なサウンドプロダクションやグルーヴが絡み合い、新しい日本のポップスが生まれていた。そんな中村佳穂バンドのサウンドは噂が噂を呼び、遂に「LOVE JAM」の主催者・田島貴男君の元にも届いた。


そう、世代は違えど僕にとって「LOVE JAM vol.5」に集まった3組は、アマチュア時代から知っている貴重な音楽仲間だった。

三者三様の個性全開のパフォーマンスはもちろん、セッションも白眉だった。特に小山田君をギターに交えた初期のオリジナル・ラブの代表曲「Orange Mechanic Suicide」を聞いていたら、心は1988年のラ・ママに飛んだ。ここだけの話、ちょっと泣いた。

客席には野宮真貴さんもいた。実は野宮さんともアマチュア時代に鈴木慶一さんからの紹介で一度お会いしている。そして野宮さんが田島君の脱退後にピチカートVに加入したのは御存知の通り。
僕は2017年に野宮さんのアルバムで「Winter's Tale 〜冬物語〜」をデュエットしている。トラックはほぼ完コピ。


音楽はタイムマシンだ。いつだって、初めて聞いたあの日に戻れる。

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*デビューからの30年+αを振り返る自伝的エッセイ「ずっと、音だけを追いかけてきた」をnoteにしたためています。


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