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第二十四回:在庫リスクがなく無限の棚に並べられるから突然売れても機会損失しない

前回の倉下さんは、私のストレートな振りに対し、わりと素直に答えていただきました。天邪鬼はどこへ行った? という疑問はさておき、私も別のグラフを公開してみましょう。これは、私が2012年5月にセルパブした本の、月別の販売部数推移です。2012年5月ですから、Kindleストアが日本に来る半年くらい前の話です。

当時、商業出版で類書は3点くらいありましたが、あまり売れなかったとみえて、改訂版も出ないし後追いも出ない状態でした。そこに私がセルパブで参入したわけですが、やはりあまり売れませんでした。周囲の友達にちょろっと売れた、くらいな感じです。

そこで、2013年3月に改訂版を出します。同時に、3点に分冊して、Kindleストアなど複数の電子書店で売るようにしました。するとその翌月、4月の6日に、Kindleストアのコンピュータ・IT部門ベストセラーで1位、2位、3位を獲得するというレアな体験をしました。最初に出版したときから、約1年後のできごとです。

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実は、売れたきっかけは、改訂や分冊したことより、アルファブロガーに紹介されたことが大きかったです。紹介されたきっかけは、偶然です。自分のブログで関連記事を書いたら、たまたまアルファブロガーの目にとまって、なにもお願いしていないのに紹介してくれて売れた、という幸運です。

こういう現象を、金融市場の用語では「ブラック・スワン」と言います。マーケットにおいて、事前にほとんど予想できず、起きた時の衝撃が大きい事象のことです。『ロングテール』の著者クリス・アンダーソンもブログで、ブラック・スワンが起きることがあると言及しています。

これは、事実上無限の棚がある電子書店だからこそ、起きる現象です。紙の本の場合、突発的な事象が起きてから慌てて増刷して、全国に配本して……というタイムラグによって、かなり機会損失します。コンビニなんかではこの機会損失をとても恐れます。だから弁当や惣菜などは、破棄が発生する前提で多めに仕入れます。このあたりの事情は、倉下さんのほうが詳しいでしょう。

いま、紙の出版ではリスク回避のため初版部数を極力抑えるような方向になってますが、その結果、とてつもない機会損失が起きているのではないかという気がします。あくまで推測ですが。ところが、電子なら、そういう機会損失が起きないんです。すばらしい!

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ところが、こんな幸運はなかなかありません。無限の棚に埋もれ、誰にも顧みられないまま忘れられていく、という本のほうが圧倒的に多いはずです。前回の倉下さんは、以下のようにまとめています。

すごく乱暴にまとめれば、
動きを与え、話題を生み出すこと。
これが肝です。

おっしゃるとおり、話題になれば売れるんです。ただ、セール以外に動きを与える術も、あまりないと言われることも多いのです。これは、実際にセルパブをやってみた方々の多くが、感じることでもあるでしょう。「セール以外ない」と言われることもあります。

話題になる —— いわゆる「バズ」を生むため、際どい行為や言動をするといった、炎上商法に手を染める人も後を絶ちません。燃え上がりながら、さらにガソリンを撒くような人もいて、なんというメンタルの強さだと、ある意味感心してしまうこともあります。私には無理です。真似たくもありません。

では、どうやって話題を作ればいいのか? —— セール以外で。

倉下さんの原稿に続く)

最後までお読みいただきありがとうございました。