見出し画像

DVD日記 #1 『関ヶ原』--6時間で描いた大作ドラマ

天下分け目の関ヶ原合戦といえば、歴史の教科書にも載る有名な戦い。
また司馬遼太郎の小説でもよく知られている。
それを原作にした6時間の大作ドラマが、
今回紹介する『関ヶ原』(1981年放送)。
私は大学生の頃に、ビデオで観たのが最初です。

あらすじ

「法が通らぬ時は、戦野で堂々と雌雄(しゆう)を決する。義の旗を立て、あの男と戦う」

慶長3年(1598)、天下人太閤秀吉(宇野重吉)が没すると、豊臣政権を支える五大老筆頭の大大名徳川家康(森繁久彌)は、謀臣本多正信(三國連太郎)とともに天下を窺い始めた。

五奉行の一人石田三成(加藤剛)は、持ち前の正義感から家康の動きを法で封じようとするが、家康は三成ら官僚派と、福島正則(丹波哲郎)、加藤清正(藤岡弘、)ら武断派の対立を煽り、三成を隠居に追い込む。

三成の家老島左近(三船敏郎)は、密かに家康暗殺を目論むが、三成は謀略的な手段を嫌い、義の旗を掲げて諸将を集め、正々堂々と大合戦で勝負を決することを望んだ。そんな三成に、黒田家の間者であった侍女初芽(松坂慶子)は惹かれてゆく。

やがて天下簒奪を狙う家康の振る舞いは露骨になり、加賀前田家、次いで会津上杉家に難癖をつけ、上洛命令を峻拒した上杉家に対し、家康自ら率いる討伐軍が会津へ向かう。

しかし実はこれは、三成と上杉家執政(しっせい)直江兼続(細川俊之)があらかじめ示し合わせた、東西呼応して挙兵し家康を挟撃する作戦の一環であった。そして家康もまた、このことを読んでいた。

親友・大谷吉継(高橋幸治)の諫止を振り切って挙兵した三成に応じ、毛利輝元(金田龍之介)、宇喜多秀家(三浦友和)、小西行長(川津祐介)、島津義弘(大友柳太郎)らが集結。しかし、形にばかりとらわれて融通のきかない三成は、諸将の反感をかってしまう

一方、上杉討伐を中止した家康は軍を反転、西上する。かくして東西合わせて15万を越える大軍勢が美濃(岐阜県)の関ヶ原で対峙した。時に慶長5年(1600)9月15日・・・。

正義を信じ純粋だが、融通の利かない三成

本作品は1981年正月に、3晩続けてテレビ(TBS系列)で放送された大作ドラマ。関ヶ原に至るまでの物語をダイナミックに描いています。

先般も岡田准一主演で映画『関ヶ原』が制作され、話題を呼びました。映画ならではの迫力と、最新技術を用いた映像の美しさ、リアルさはさすがでしたが、2時間という尺では描かれる部分が限定されるのはやむを得ません。

その点、こちらのドラマは約6時間。司馬遼太郎の小説世界をじっくりと描いています。

また演じる役者たちも、当時を代表する名優ぞろい。観ていて安心感がありますし、いま観ても古さを感じさせません。

加藤剛演じる主人公の石田三成は、豊臣家を守るために体を張りますが、己が「正義」であれば自然に人が集まり、戦いに勝てると思い込んでいます

秀吉の権力を背景にした官僚の三成は極めて有能ですが、人情の機微よりも理屈や建前が先行するため、余計な敵を作ってしまいがちでした。

清廉潔白な人柄であるがゆえに、「清濁併せ呑む」ことができないのです。観ていてもどかしくなる三成ですが、「正義」を信じる少年のような純粋さを、右腕の歴戦の将・島左近は、「困ったものだ」と思いながらも好んでいます。

現在の組織にも、三成と似た人物はいるのかもしれません。融通はきかないけれども、その人がいるから業務が安定するというような・・・。

屈指の名場面、多彩な方言

一方、敵役の家康は狸親爺としてだけでなく、懐の深さと家臣思いの点も描かれています。特に長年苦労をともにした忠臣・鳥居元忠(芦田伸介)との別れの場面は人間臭く、涙を誘います。

また屈指の名場面といえば、三成の挙兵をいさめるために、白頭巾姿の病身をおして佐和山城に来た親友の大谷吉継が、一度は決裂しながらも、三成のこれまでの友情を思い起こし、ともに起つことを決断するシーンでしょう。

おそらく大谷吉継という「友情を選んだ武将」のイメージが決定的になった場面であり、私もいまだに大谷というと、名優高橋幸治の「引き返せ!」の声がまず思い浮かびます。

その他、妻・ガラシャ(栗原小巻)に異常な愛情を寄せる細川忠興(竹脇無我)、小山評定で堀尾忠晴のアイデアをちゃっかりとパクる山内一豊(千秋実)、清須城で東軍の荒くれ武将たちを叱咤する、朴訥な村越茂助(藤木悠)など、印象的な小シーンが散りばめられているのも、尺の長さの強みでしょう。

もう一つ、細かい点で感心するのは、毛利、島津といった地方の将兵に、わざと方言でしゃべらせている点。諸国から軍勢が集結していたことを感じさせます。秀吉の正室ねね(杉村春子)の尾張弁もいいですね。家康の屋敷に逃れて来た三成の朝食に、三河風の粥を供する設定も面白い。

合戦シーンの迫力は、映画にはかないませんが、その分、人間ドラマをしっかりと描くことで、満足感を味わえる作品になっていると思います。

三成の斬罪を命じた家康が語る「豊臣家子飼い大名たち、ああも無節操に裏切れるものか。心が冷えたわ。徳川家はこれから、三成のような家臣に恵まれればよいが」という言葉が、物語を集約しています。

最後に少々興ざめな話ではあるのですが、最近の研究で、関ヶ原合戦の通説のさまざまな部分が疑問視されており、実際は全く異なっていた可能性が出てきています。少なくとも司馬遼太郎の『関ヶ原』はあくまで小説であるという認識が必要でしょう。

関ヶ原研究の現状については、また機会を改めて紹介できればと考えています。

DVD『関ヶ原』
税抜価格:9,800円 発売元:TBS 販売元:キングレコード株式会社

STAFF・DATA
放送日:1981年 354分
原作:司馬遼太郎
制作:大山勝美
脚本:早坂暁
音楽:山本直純
出演:加藤剛
森繁久彌
三國連太郎
三船敏郎
松坂慶子
栗原小巻
杉村春子
三田佳子

#DVD #コラム #歴史 #戦国 #関ヶ原 #司馬遼太郎 #石田三成 #徳川家康 #加藤剛 #森繁久彌 #松坂慶子 #豊臣秀吉 #宇野重吉 #三國連太郎 #本多正信 #島左近 #三船敏郎 #上杉 #直江兼続 #細川俊之 #大谷吉継 #高橋幸治 #正義 #友情 # #福島正則 #丹波哲郎 #加藤清正 #藤岡弘 、#細川ガラシャ #栗原小巻 #細川忠興 #竹脇無我 #山内一豊 #千秋実 #村越茂助 #藤木悠 #ねね #杉村春子 #方言 #岡田准一 #尾張 #三河  

いただいたサポートは参考資料の購入、取材費にあて、少しでも心に残る記事をお届けできるよう、努力したいと思います。