本のはなし:おいしさの「仕組み」がわかる料理のキホン

レシピを見て工程通りに作り完成を目指すというのが、わたしの料理に対する姿勢でした。
ですが樋口直哉さんのこの本を読んで、料理の完成だけでなく調理の過程に目を向けることも大切なことだと気づかされました。

料理の本と聞くと、多くの人は「この料理を作るならこうしましょう!」といった、一つ一つの料理にスポットを当てたいわゆるレシピ本のようなものをイメージするかと思います。
それに対しこの本は、このやり方にはこんな意味がある、食材に対してこのようなアプローチをしているんですよ、といったそれぞれの工程の意味に目を向けています。
自分がなんとなくやっていた焼く、煮るといった行為が、この本を読むことで食材をどう変化させているのかという視点で見ることができるようになりました。

こんなことを書くと細かい数字や専門用語の羅列された難しい本をイメージされてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。
化学を彷彿とさせる言葉がところどころに出てきますが、分かりやすい言葉で噛み砕いた説明がされているため読んでいて苦になりません。
むしろ樋口さんは作家として小説も出している方で、そういった経験を通じてかこの本も読みものとしても楽しく読むことができました。

話の本筋からは少し外れてしまいますが、樋口さんはとても謙虚で、大らかな方なんだろうなとわたしは感じています。

料理とは自然の産物に人の手を介在させること。パックからお皿に移し替えるだけでも立派な料理です。

これはわたしがこの本の中で特に好きな一節です。家庭料理の敷居を一気に下げてくれる大らかさがにじみ出ています。笑
さらにこの一説には、自然や食材に対し尊敬の念を持っているからこそ、そこに人の手が入ることに大きな意味がある、という樋口さんの姿勢が伺えます。
樋口さんの人柄が分かるこのちょっとした引用でも、この本が誰にでも優しい文章で書かれた本だと感じていただけるかなと思います。

さて、正しい道順でちゃんとした料理を作るというもの非常に重要なことだと思います。
ただ、そういったことの積み重ねだけではレシピ通りの料理しか作ることができず、なかなか自分の料理の裾野が広がらないなあと感じている方もいるのではないでしょうか。
そんな方にはこの本を手に取ってみて欲しいです。調理工程の意味を知ることは、一つの料理で終わらず多方面へ枝分かれしていく知識を得ることに他なりません。
なにより自分の料理の見え方が変わる体験は面白く、料理が一層深いものに感じられると思います。

ぜひ、レシピ本とは違った料理体験をしてみてください。

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