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「おすすめの小説教えて?」という高難度の質問と闘う日々。

「なんかおすすめの小説ありませんか?」
飲みの会話であれ、営業中であれ、この手の質問が時々くる。
まあ、質問したい気持ちは分かる。私も居酒屋で注文するものに迷ったときに、「お兄さんのおすすめってなんですか?」と店員さんに聞く。彼らが提案してくれるものは大体美味いし、店の一番人気メニューだったりする。
しかし、本を選ぶ行為は全くのベツモノだ。おすすめの本を教えてくれと言われても、ひとそれぞれ趣向の感覚が違うから、その人の心にバチっとはまる本を見つけるのは至極難しい。東野圭吾も辻村深月も、子供から大人まで愛されるジューシーからあげにはなれないのである。
書店員は、世界に蔓延る多くの本を知っていると思われがちだが、ぶっちゃけそうでもなかったりする。浅田次郎の作品は読破したが、村上春樹は読んだことないとか、全巻平積みでアピールしてるくせにチェンソーマンってどんな内容かわからないとか。
店員同士で情報共有したり、暇なときに店のパソコンでググったりして知識を仕入れるけれど、それでも限界はある。

ある日、お客さんに「カノカリの最新刊ありますか?」と聞かれたことがあった。
「・・・かのかりの最新刊ですね。」
ごにょごにょ言いながら在庫管理PCに『かのかり』と打ち込む。しかし、該当書籍なしの文字が画面に表示される。え、どうして・・・とあたふたしていると「ああ、ごめんなさい。すぐそばにありました!」とお客さんがレジ近くの新刊コミックエンド面から『彼女お借りします』を持ってきた。
ああ、『カノカリ』って略称だったのか。いかに自分が書店員として無知すぎるかを思い知らされた事件であり、顔を赤くしながらバーコードを読み込んだ。お客さんのテンションに合わせ、ワクワク楽しそうにレジ対応をしてみせたが、もちろん『彼女お借りします』がどんな話なのかさっぱりわからない。

と、若干の反省の色を見せてみたものの、やはり知らないものは知らないのである。
「書店員だからってなんでもわかると思わないで!万能の幻を作られても困るよお!」
というのがぶっちゃけた本音である。
しかし、弱音は吐きたくない。特におすすめ選書に関しては。ちょっとわかんないっすね、なんてカッコ悪いことは絶対に言いたくない。なんとか選りすぐりの一冊を紹介したい。書店員の端くれと言えど、めらめら燃えるプライドの火は消せない。
「どういう系がいいとかありますか?ミステリーだったり恋愛だったり。」
腕まくりをして回答を待つ。
「いや、ジャンルは何でもいいよ。」
大抵はこの返し。うーむ、一番困るやつだ。
何でもいいというのは、何でもよくないに決まっているからだ。

さて、ここで必要なのは洞察力である。
バリバリ仕事してそうなちょい堅めの雰囲気なら、自己啓発要素があったものがいいだろうし、普段はあまり本を読まなそうな若い女の子なら、グルメをテーマにしたアンソロジーというのも選択肢に入れてみたり。
とにかく必要なのは相手の情報。頭にパッと浮かんだ自分が好きな小説や、ランキング上位作品を薦めてもあまり効果的でなかったりする。勤務先で最も売れている辻村深月さんの『傲慢と善良』をお薦めしても、「分厚いから」と嫌厭する人はぶっちゃけ多い。
他にも、ハードカバーは高いし重いから嫌、歴史系は難しいから遠慮しとく等々、どんなに面白いものでも手に取ってもらえないケースは無限にある。
逆に、「え、これ選ぶの!?(なんかパッとしないなぁ)」というものもあるから面白い。自分の価値観はあまりあてにならないので、選書というのは本当に奥が深く、運ゲー要素も強い。
ちなみに、私が尊敬してやまない書店員の花田菜々子さんは、その高難易度の技をスパパパパーンと決めている。花田さん著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』というエッセイに詳しくそれが書かれているので、お時間がある方はぜひ読んでほしい。私の知識が洗面台の水滴ならば、花田さんは琵琶湖である。

自主的に出会う本は限られているので、皆さんがおすすめするものを読んでみたいと思う今日この頃。
皆さんの好きな作品をコメントないしSNSリプ欄で教えて頂けると幸いである。
本ソムリエの道は、長く、険しく、
そして厳しい。

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