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【女子高生がちょっと大人びて見える、土休日限定「レディーマジック」】

塾講師と居酒屋バイトを掛け持ちするフリーターの身なので、祝日だろうが土日だろうが特に意識することはない。
人の出入りが激しいゆえ平日に比べ若干忙しいかな!という認識でちょっと多めの仕事を請け負うのみである。

しかし唯一弊害があるとすれば、電車のダイヤが‘‘いつも通り‘‘ではないことだ。
20分かけてご飯を食べ、30分で洗顔やヘアセット等を終え、7分歩いて駅に着く。電車に優雅に揺られながら、職場の駅に着く直前まで不可侵な高尚たる妄想にふける。
駅を出て、やあやあと灰色のビル群ににこやかに手を振る。しかし、そのさわやかな表情とは裏腹に、心の奥底で燃えたぎっているのは戦場に向かうモノノフの魂。パワー満載のティーンエイジャーたちと戦うには生半可な気持ちではいけない。ごくりと唾を飲み込み、スペクタクルなコロシアムへと私は足を踏み入れる。

この素晴らしきルーティーンが大幅に崩れてしまうのが不快である。

能天気に平日通りにゆったり動いて、いざ駅に降り立ってみるとそこに電車の姿はない。あれれ、おかしいなと思い頭上の電子時刻表を眺めてみると電車到着時刻は7分後と表示されている。
くそ!今日は土休日ダイヤだ!気付いた時にはもう遅い。高尚な時間を過ごすことも、強者の真似事もしている余裕はない。ひたすらスマートフォンの時計とにらめっこをし、全力疾走で汗をびちゃびちゃと周囲にまき散らし、冷ややかな目で見られながら出勤するのがオチである。

土休日は電車に乗れなくなるのでいつもより10分ほど早起きをしなければならない。たかが10分、されど10分である。微々たるものだが、この差は大きい。猛ダッシュを敢行して、丹念込めて作ったヘアスタイルを風や汗にぐちゃぐちゃにされたくはない。

だが良い面もある。
土休日はルーティーンに新しい刺激をもたらし、普段とは違う新鮮な光景を映し出すということだ。
普段は学校終わりにそのまま私服でやって来る生徒も、土休日になれば垢抜けた私服姿で塾にやってくる。居酒屋では、仕事終わりにやってくる常連客も、スーツの殻を破ってカジュアルスタイルで昼飲みをしに来る。

「ホントはみんなこんな感じなのね。」

学校や職場に縛られて生きている人々が、あるがままの自分を表現していく。校章が刺繍された制服に身を包まれていないだけでこんなにも違うのかと、きゃぴきゃぴな生徒たちを見ていていつも思う。特に女子高生なんか、私服に着替えてメイクを施しただけで大人びた雰囲気をぐっと醸し出せちゃうのだからすごい。おお・・・とじっくり感嘆したいところではあるが、余計な罪を被りたくないので大人しく胸の内で踊っておく。

人には様々な顔がある。それは美しいものだったり醜いものだったりするだろう。しかしその良し悪しに関係なく、我々は裏面の姿に惹かれてしまう。
誰かにとっての表で、誰かにとっての裏。いや、もちろん我々は多面体生物であるからそんな単純な話ではない。A面の裏がB面。その両面は見たことがないけどC面は知っている。いくつかの面から人間は成り立っているからミステリアスで魅力的なのだ。

つまりこれからだっていつだって、なんだったら誰にだってコロッといっちゃう瞬間が来てもおかしくないのである。
(無論、深い意味はない)

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